(同心……?)
鳶の現場で作業をしていた恭一郎は、同心のような装いの男たちが現場に入ってきたのを見て、思わず眉をひそめる。
男たちはしばらく現場を見回していたが、やがて恭一郎に目を留めた。
(なんだ……?)
男たちがゆっくりと恭一郎に近づいてきた。
「恭一郎だな。おまえに火付けの容疑がかかっている。……一緒に来てもらいたい」
「は……?」
恭一郎は目を見開く。
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
(火付け? 俺が……?)
「何の話しですか……?」
恭一郎は戸惑いながら、なんとかそれだけ口にした。
「三日前にあった火事だ。おまえも現場にいただろう? その火事でおまえが火をつけたところを見たという証言があった」
(三日前……。あの帰り道の火事か……! あのときの子どもがそう言ったのか……? いや、油のことも考えると……誰か別の人間に嵌められた可能性の方が高いか……)
恭一郎は少しずつ冷静さを取り戻していった。
「一緒に来てもらえるか?」
男は恭一郎に聞いた。
(聞くってことは証言以外の証拠がないのか……。まぁ、何もしてないんだから当然か……)
「わかりました」
恭一郎は大人しく従うことにした。
証言があった段階で拒否することはできないと恭一郎もわかっていた。
(最悪の場合、このまま火あぶりだな……)
恭一郎は苦笑する。
(火付けの末路も火消しの末路も、案外似たようなものかもしれないな……)
「もし……」
男が少し声を落として言った。
「もし、何か知っていることがあれば教えてくれ」
恭一郎は男の言葉に少し驚く。
(火盗は問答無用で捕まえる連中だと思っていたが……。容疑がかかった人間の話しもきちんと聞いてくれるのか? それとも、目撃の証言にも怪しいところがあったのか……)
ふと恭一郎の頭に、火事の現場で見かけた子どもの顔が浮かぶ。
その顔は記憶の中でもひどく青ざめていた。
(言えるわけがない……。あの火事は人も死んでいる。ましてや、嵌められただけかもしれない子どものことなど言いたくもない)
恭一郎は目を伏せた。
「話すことは……何もありません」
男はなぜか少し悲しげな表情を浮かべた。
「そうか……」
恭一郎が男たちの後に続いて歩き始めると、周りにいた鳶や大工たちもざわつき始めた。
(俺のせいで、組には迷惑かけちまうな……)
恭一郎は目を閉じた。
「恭一!」
今、恭一郎が一番聞きたくなかった声が響いた。
駆け寄ってきた新助が恭一郎の肩を掴む。
「おまえ、何ついていこうとしてんだよ! 冗談でもやめろ!」
新助の表情はいつになく険しかった。
「新助……」
新助は男たちを睨みつける。
「おい、こいつが火付けなんてするわけねぇだろ! そんなだから火盗は冤罪ばっかりつくるんだろうが!」
新助の言葉に男たちの顔が一瞬にして強張った。
「な、なんだと!?」
「火消し風情が偉そうに……!」
男たちの顔が怒りで赤く染まっていく。
「おい、やめろ! 新助」
今度は恭一郎が新助の肩を掴む。
「火盗があるおかげで火付けも減ってるんだ。変に揉め事起こすな」
新助は恭一郎を見ると、顔を歪めた。
「おまえが疑われてんだぞ!!」
「そういう証言があったなら行くしかねぇんだ」
「やってねぇのに行く必要ないだろ!!」
新助の肩は、怒りでかすかに震えていた。
恭一郎は目を伏せる。
「何もなければ……すぐ帰ってこれるさ。それまでや組を頼む」
恭一郎はそう言うと新助の肩を叩き、男たちに視線を向けた。
「すみません。行きましょう」
恭一郎は男たちを促した。
男たちは新助を一瞥した後、鼻を鳴らすと再び歩き始める。
しばらく進んでから、恭一郎は新助を振り返った。
新助はこちらに背を向けたまま、その場に立ち尽くしていた。
「すまないな、新助……」
恭一郎は新助の背中に向かってそっと呟くと、再び前を向いて歩き出した。
鳶の現場で作業をしていた恭一郎は、同心のような装いの男たちが現場に入ってきたのを見て、思わず眉をひそめる。
男たちはしばらく現場を見回していたが、やがて恭一郎に目を留めた。
(なんだ……?)
男たちがゆっくりと恭一郎に近づいてきた。
「恭一郎だな。おまえに火付けの容疑がかかっている。……一緒に来てもらいたい」
「は……?」
恭一郎は目を見開く。
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
(火付け? 俺が……?)
「何の話しですか……?」
恭一郎は戸惑いながら、なんとかそれだけ口にした。
「三日前にあった火事だ。おまえも現場にいただろう? その火事でおまえが火をつけたところを見たという証言があった」
(三日前……。あの帰り道の火事か……! あのときの子どもがそう言ったのか……? いや、油のことも考えると……誰か別の人間に嵌められた可能性の方が高いか……)
恭一郎は少しずつ冷静さを取り戻していった。
「一緒に来てもらえるか?」
男は恭一郎に聞いた。
(聞くってことは証言以外の証拠がないのか……。まぁ、何もしてないんだから当然か……)
「わかりました」
恭一郎は大人しく従うことにした。
証言があった段階で拒否することはできないと恭一郎もわかっていた。
(最悪の場合、このまま火あぶりだな……)
恭一郎は苦笑する。
(火付けの末路も火消しの末路も、案外似たようなものかもしれないな……)
「もし……」
男が少し声を落として言った。
「もし、何か知っていることがあれば教えてくれ」
恭一郎は男の言葉に少し驚く。
(火盗は問答無用で捕まえる連中だと思っていたが……。容疑がかかった人間の話しもきちんと聞いてくれるのか? それとも、目撃の証言にも怪しいところがあったのか……)
ふと恭一郎の頭に、火事の現場で見かけた子どもの顔が浮かぶ。
その顔は記憶の中でもひどく青ざめていた。
(言えるわけがない……。あの火事は人も死んでいる。ましてや、嵌められただけかもしれない子どものことなど言いたくもない)
恭一郎は目を伏せた。
「話すことは……何もありません」
男はなぜか少し悲しげな表情を浮かべた。
「そうか……」
恭一郎が男たちの後に続いて歩き始めると、周りにいた鳶や大工たちもざわつき始めた。
(俺のせいで、組には迷惑かけちまうな……)
恭一郎は目を閉じた。
「恭一!」
今、恭一郎が一番聞きたくなかった声が響いた。
駆け寄ってきた新助が恭一郎の肩を掴む。
「おまえ、何ついていこうとしてんだよ! 冗談でもやめろ!」
新助の表情はいつになく険しかった。
「新助……」
新助は男たちを睨みつける。
「おい、こいつが火付けなんてするわけねぇだろ! そんなだから火盗は冤罪ばっかりつくるんだろうが!」
新助の言葉に男たちの顔が一瞬にして強張った。
「な、なんだと!?」
「火消し風情が偉そうに……!」
男たちの顔が怒りで赤く染まっていく。
「おい、やめろ! 新助」
今度は恭一郎が新助の肩を掴む。
「火盗があるおかげで火付けも減ってるんだ。変に揉め事起こすな」
新助は恭一郎を見ると、顔を歪めた。
「おまえが疑われてんだぞ!!」
「そういう証言があったなら行くしかねぇんだ」
「やってねぇのに行く必要ないだろ!!」
新助の肩は、怒りでかすかに震えていた。
恭一郎は目を伏せる。
「何もなければ……すぐ帰ってこれるさ。それまでや組を頼む」
恭一郎はそう言うと新助の肩を叩き、男たちに視線を向けた。
「すみません。行きましょう」
恭一郎は男たちを促した。
男たちは新助を一瞥した後、鼻を鳴らすと再び歩き始める。
しばらく進んでから、恭一郎は新助を振り返った。
新助はこちらに背を向けたまま、その場に立ち尽くしていた。
「すまないな、新助……」
恭一郎は新助の背中に向かってそっと呟くと、再び前を向いて歩き出した。