「それで一日その思い出話を聞いてきた、と」
咲耶は横目で叡正を見ながら言った。
「ああ……、すまない……」
叡正は、決まり悪そうに呟く。
新助や火消しの男から聞いた話しを伝えるため、叡正は咲耶の部屋を訪れていた。
すでに部屋には信がいたため、叡正は二人に聞いてきた内容を話した。
「いや、別に謝る必要はない。おかげでわかったこともある……」
咲耶はそう言うと目を伏せた。
「わかったこと?」
叡正が首を傾げる。
「まぁ……想像でしかないが」
咲耶はしばらく考え込んでから、叡正に視線を向けた。
「ところで、花を供えていたのはどんな子どもだった?」
「え……どんなって言われても……普通の子どもだったよ……。少し遠くから見てたから顔とかは全然……。ただ、着てるものは割と上等なものに見えたかな……。何か関係あるのか?」
叡正は予想外の質問に、なんとか思い出しながら答えた。
「いや、わからないが……」
咲耶はそう呟くと、ゆっくりと目を閉じてため息をついた。
「私の方も頼一様から聞いた話がある」
咲耶は、頼一から聞いた話をひと通り話した。
「そんな! じゃあ、やっぱり冤罪じゃないか!」
叡正の声が大きくなる。
「ああ、おそらくな……」
咲耶は頷くと、視線を信に移した。
咲耶の視線を感じて、信が咲耶を見る。
「どう思う?」
咲耶は信に向けて聞いた。
「……証言したのは、どんな男だったんだ?」
信が静かに口を開いた。
「恰好は商人のようだったそうだ。顔立ちは、目が細くて面長。どこか狐のような雰囲気だったと見た人間は言っていたらしい」
信は咲耶の言葉を聞くと、何か思案するように一点を見つめて黙り込んだ。
「……火事の現場が見たい……」
信がポツリと言った。
「火付けしたって疑われた火事の現場か?」
叡正は信を見る。
「そっちはひと月も前の火事だから、もう跡形もないんじゃないか?」
信は叡正をじっと見つめる。
(なんだ? それでも見たいってことか……?)
叡正はしばらく信と目を合わせていたが、いくら待っても信が何も言わないので慌てて口を開く。
「わ、わかった。だいたいの場所はわかるから、今度連れていくよ……」
「ああ、ありがとう」
信はそれだけ言うと、叡正から視線を外した。
三人のあいだに沈黙が訪れる。
「そ、そういえば、もうすぐ花火の時期だな!」
考え込んでいる様子の二人を見て、叡正は話題を変えた。
咲耶が顔を上げる。
「ああ、両国の川開きか……」
隅田川では毎年暑くなり始める頃、飢饉や疫病での死者の慰霊と悪疫退散の意味を込めた水神祭が行われる。
その初日に花火が上がるのが毎年の恒例だった。
「花火が好きなのか?」
咲耶が叡正を見て不思議そうに言った。
「え……みんな好きなんじゃないのか……?」
毎年その日は花火をひと目見ようと隅田川沿いに人が溢れる。
叡正自身、子どもの頃は隅田川に浮かぶ舟の上から家族みんなで花火を楽しんでいた。
「いや、私は別に」
咲耶は淡々と答えた。
「信は……花火は知っているのか?」
咲耶は信を見る。
「ああ、爆発は見たことがある」
信も淡々と答えた。
(爆発……)
叡正は信じられない思いで二人を見つめた。
咲耶は叡正を見る。
「おまえ、火消しといい花火といい、子どもが好きそうなものが好きだな」
「え? ああ……」
(俺がおかしいのか、二人がおかしいのか……)
「まぁ、花火もただの爆発だからな」
咲耶は信を見ながら頷く。
(いや、絶対二人がおかしい!)
叡正はひとり深く頷いた。
咲耶は横目で叡正を見ながら言った。
「ああ……、すまない……」
叡正は、決まり悪そうに呟く。
新助や火消しの男から聞いた話しを伝えるため、叡正は咲耶の部屋を訪れていた。
すでに部屋には信がいたため、叡正は二人に聞いてきた内容を話した。
「いや、別に謝る必要はない。おかげでわかったこともある……」
咲耶はそう言うと目を伏せた。
「わかったこと?」
叡正が首を傾げる。
「まぁ……想像でしかないが」
咲耶はしばらく考え込んでから、叡正に視線を向けた。
「ところで、花を供えていたのはどんな子どもだった?」
「え……どんなって言われても……普通の子どもだったよ……。少し遠くから見てたから顔とかは全然……。ただ、着てるものは割と上等なものに見えたかな……。何か関係あるのか?」
叡正は予想外の質問に、なんとか思い出しながら答えた。
「いや、わからないが……」
咲耶はそう呟くと、ゆっくりと目を閉じてため息をついた。
「私の方も頼一様から聞いた話がある」
咲耶は、頼一から聞いた話をひと通り話した。
「そんな! じゃあ、やっぱり冤罪じゃないか!」
叡正の声が大きくなる。
「ああ、おそらくな……」
咲耶は頷くと、視線を信に移した。
咲耶の視線を感じて、信が咲耶を見る。
「どう思う?」
咲耶は信に向けて聞いた。
「……証言したのは、どんな男だったんだ?」
信が静かに口を開いた。
「恰好は商人のようだったそうだ。顔立ちは、目が細くて面長。どこか狐のような雰囲気だったと見た人間は言っていたらしい」
信は咲耶の言葉を聞くと、何か思案するように一点を見つめて黙り込んだ。
「……火事の現場が見たい……」
信がポツリと言った。
「火付けしたって疑われた火事の現場か?」
叡正は信を見る。
「そっちはひと月も前の火事だから、もう跡形もないんじゃないか?」
信は叡正をじっと見つめる。
(なんだ? それでも見たいってことか……?)
叡正はしばらく信と目を合わせていたが、いくら待っても信が何も言わないので慌てて口を開く。
「わ、わかった。だいたいの場所はわかるから、今度連れていくよ……」
「ああ、ありがとう」
信はそれだけ言うと、叡正から視線を外した。
三人のあいだに沈黙が訪れる。
「そ、そういえば、もうすぐ花火の時期だな!」
考え込んでいる様子の二人を見て、叡正は話題を変えた。
咲耶が顔を上げる。
「ああ、両国の川開きか……」
隅田川では毎年暑くなり始める頃、飢饉や疫病での死者の慰霊と悪疫退散の意味を込めた水神祭が行われる。
その初日に花火が上がるのが毎年の恒例だった。
「花火が好きなのか?」
咲耶が叡正を見て不思議そうに言った。
「え……みんな好きなんじゃないのか……?」
毎年その日は花火をひと目見ようと隅田川沿いに人が溢れる。
叡正自身、子どもの頃は隅田川に浮かぶ舟の上から家族みんなで花火を楽しんでいた。
「いや、私は別に」
咲耶は淡々と答えた。
「信は……花火は知っているのか?」
咲耶は信を見る。
「ああ、爆発は見たことがある」
信も淡々と答えた。
(爆発……)
叡正は信じられない思いで二人を見つめた。
咲耶は叡正を見る。
「おまえ、火消しといい花火といい、子どもが好きそうなものが好きだな」
「え? ああ……」
(俺がおかしいのか、二人がおかしいのか……)
「まぁ、花火もただの爆発だからな」
咲耶は信を見ながら頷く。
(いや、絶対二人がおかしい!)
叡正はひとり深く頷いた。