あなたが最後に見世に来てからもう一年が経ちました。
あなたの身に何かあったのではないかと心配する気持ちと、私のことなど忘れてしまったのではないかという寂しさが入り混じり、落ち着かない日々を過ごしています。
会えない一年のあいだに私にもいろいろなことがありました。
ああ、今すぐあなたに会いに行きたい。あなたが恋しくて恋しく仕方ないのです。
あなたは今どこで何を想っているのでしょう。
毎日あなたのことばかり考えています。
あなたは言ってくださいましたね。
年季が明けたら、一緒になろうと。
ほかのお客から言われれば戯れ言だと流す甘い言葉も、あなたからの言葉だとつい期待して縋ってしまう私がいます。
一年経っても私の気持ちは変わりません。
その証として、今日は私の小指を捧げます。
私はもうあなた以外何もいりません。
愛しています。
私のすべてを、あなたに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「死んだ……?」
男は言葉の意味がうまく理解できなかった。
いずみ屋の戸の前で楼主は困ったようにもう一度同じ言葉を繰り返す。
「はい、夕里は病で亡くなりまして…」
「そんな……まさか。……いつだ? いつ死んだんだ……」
男はいまだに楼主が言っていることが信じられなかった。
「半年……ほど前でしたでしょうか……」
「嘘だ!」
男が声を大きくした。
男の声に周りにいた人々が一斉に男を見る。
楼主は慌てて声を潜める。
「う、嘘なんかじゃありませんよ。夕里は去年の冬には亡くなっています」
「そんな……馬鹿な。では、これはなんだというんだ……」
男は懐から手紙を取り出した。
「これは?」
楼主は手紙を受け取ると開いた。
「夕里からの手紙だ」
「夕里からですか?……では、亡くなる前に書いたのでは?」
「馬鹿な。この手紙は今朝届いたんだ! これと一緒にな!」
男は着物のたもとから桐の箱を取り出す。
楼主は怪訝な顔で、桐の箱を受け取るとフタをとった。
中には血にまみれた小指があった。
楼主が息を飲む。
「これが死んで半年経った女の指か?」
指についた血は黒く変色していたが、指自体の腐敗は進んでいなかった。
「いや、しかし……夕里は本当に……」
楼主の顔がみるみる青ざめていく。
「なぁ、本当は見世にいるんだろう? 俺が来たら追い返すように夕里に言われたのか?」
「いえ……、本当に夕里はもう……。遺体だってとうの昔に寺に……」
「じゃあ、この指は誰のだっていうんだよ……」
「さぁ……。少なくとも今この見世に小指のない遊女はおりませんので……」
楼主は困り果てたように頭を掻いた。
「一体どうなっているんだ……」
男は頭を抱えた。
「あ……」
楼主が声を漏らした。
「そういえば、この手紙は誰が届けたんですか? その文使いに聞けば、何かわかるかもしれません」
楼主の言葉に男は顔を上げた。
「おお、確かにそうだな! 手紙を持ってきたのは子どもだ! 十くらいの。わかるか?」
男が勢いよく立ち上がる。
「こ、子どもですか……? うちの見世にそんな若い文使いはおりませんが……」
楼主は目を泳がせた。
いずみ屋には本当にそんな文使いはいない。
しかし、ほかの見世にはいることを楼主は知っていた。
あなたの身に何かあったのではないかと心配する気持ちと、私のことなど忘れてしまったのではないかという寂しさが入り混じり、落ち着かない日々を過ごしています。
会えない一年のあいだに私にもいろいろなことがありました。
ああ、今すぐあなたに会いに行きたい。あなたが恋しくて恋しく仕方ないのです。
あなたは今どこで何を想っているのでしょう。
毎日あなたのことばかり考えています。
あなたは言ってくださいましたね。
年季が明けたら、一緒になろうと。
ほかのお客から言われれば戯れ言だと流す甘い言葉も、あなたからの言葉だとつい期待して縋ってしまう私がいます。
一年経っても私の気持ちは変わりません。
その証として、今日は私の小指を捧げます。
私はもうあなた以外何もいりません。
愛しています。
私のすべてを、あなたに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「死んだ……?」
男は言葉の意味がうまく理解できなかった。
いずみ屋の戸の前で楼主は困ったようにもう一度同じ言葉を繰り返す。
「はい、夕里は病で亡くなりまして…」
「そんな……まさか。……いつだ? いつ死んだんだ……」
男はいまだに楼主が言っていることが信じられなかった。
「半年……ほど前でしたでしょうか……」
「嘘だ!」
男が声を大きくした。
男の声に周りにいた人々が一斉に男を見る。
楼主は慌てて声を潜める。
「う、嘘なんかじゃありませんよ。夕里は去年の冬には亡くなっています」
「そんな……馬鹿な。では、これはなんだというんだ……」
男は懐から手紙を取り出した。
「これは?」
楼主は手紙を受け取ると開いた。
「夕里からの手紙だ」
「夕里からですか?……では、亡くなる前に書いたのでは?」
「馬鹿な。この手紙は今朝届いたんだ! これと一緒にな!」
男は着物のたもとから桐の箱を取り出す。
楼主は怪訝な顔で、桐の箱を受け取るとフタをとった。
中には血にまみれた小指があった。
楼主が息を飲む。
「これが死んで半年経った女の指か?」
指についた血は黒く変色していたが、指自体の腐敗は進んでいなかった。
「いや、しかし……夕里は本当に……」
楼主の顔がみるみる青ざめていく。
「なぁ、本当は見世にいるんだろう? 俺が来たら追い返すように夕里に言われたのか?」
「いえ……、本当に夕里はもう……。遺体だってとうの昔に寺に……」
「じゃあ、この指は誰のだっていうんだよ……」
「さぁ……。少なくとも今この見世に小指のない遊女はおりませんので……」
楼主は困り果てたように頭を掻いた。
「一体どうなっているんだ……」
男は頭を抱えた。
「あ……」
楼主が声を漏らした。
「そういえば、この手紙は誰が届けたんですか? その文使いに聞けば、何かわかるかもしれません」
楼主の言葉に男は顔を上げた。
「おお、確かにそうだな! 手紙を持ってきたのは子どもだ! 十くらいの。わかるか?」
男が勢いよく立ち上がる。
「こ、子どもですか……? うちの見世にそんな若い文使いはおりませんが……」
楼主は目を泳がせた。
いずみ屋には本当にそんな文使いはいない。
しかし、ほかの見世にはいることを楼主は知っていた。