屋敷に出入りしていた人物を名簿にまとめた数日後、茜に屋敷を抜け出す絶好の機会が訪れた。
その日は来客の予定もないから、と茜の父親が多くの奉公人に休みを取らせたことが、偶然茜の耳に入ったのだ。
(名簿を渡しに行くなら今日しかない……)
茜はそう決意すると、名簿を抱えて部屋を出た。
屋敷はひっそりと静まり返っていて、廊下にも庭にも奉公人の姿はなかった。
(本当に、ほとんどの奉公人が休みなのね……)
最初は慎重に足を進めていた茜だったが、誰もいないことが確認できると久しぶりに堂々と門へ向かうことができた。
ただ、やはり門の前にはいつもの奉公人がいた。
(やっぱりここにはいるわよね……)
奉公人は、茜の姿を見ると一瞬ギョッとした顔をしていたが、やがてため息をつくと、静かに茜に背を向けた。
(あ、見ないフリをしてくれるってこと……?)
茜がゆっくりと近づいても、奉公人は背を向けたまま動かなかった。
(やっぱり見逃してくれる気なのね……)
茜は思わず微笑んだ。
「……ありがとう」
茜は小さな声で奉公人の背中に礼を言うと、静かに門を開けて屋敷の外に出た。
(奉公人が少ないとはいえ、見つからないうちに早く帰らないとね……)
茜は門の前の奉公人に感謝しながら、佑助の屋敷に向かって駆け出した。
佑助の屋敷にはすぐに着いたが、茜はしばらく物陰に隠れることになった。
門が開いた際にチラリと見えた人物が、いつも門にいる奉公人と違っていた。
(困ったな……。初めて見る人だ……。正面から行っても入れてもらえないかも……)
茜はしばらく物陰からちらちらと門を見ていたが、しばらくすると、ふいに門が開き、先ほどの奉公人がゆっくりと茜の方に近づいてきた。
(え……! 隠れているのがバレたの……?)
茜は慌てて身を隠したが、足音はどんどん近づいてくる。
(まずい……! 見つかる……!)
茜は頭を抱えてうずくまった。
「茜様ですか?」
茜の頭上から声が響く。
「あの……大丈夫ですよ? 佑助様から聞いております」
「……佑助?」
茜は恐る恐る顔を上げた。
「はい、茜様が来たら通すように言われています。さぁ、ほかの人に見つからないうちにどうぞ」
奉公人はにっこりと笑うと、茜に手を差し出した。
「あ、そう……だったんですね。ありがとうございます」
茜は奉公人の手を取ると立ち上がった。
(佑助が……? そんな根回し、今までしてくれたことないのに……)
茜は思わず首を傾げる。
「さぁ、早くこちらへ。もうすぐたくさんお客様がいらっしゃる予定なので、早くしないと見つかってしまいます」
奉公人は茜に向かってそう言うと、足早に門に向かって歩いていく。
「あ、そうなのですね……! わ、わかりました」
茜は慌てて奉公人の後を追った。
奉公人は門を開けると、中の様子を確認し茜に入るよう促した。
「さぁ、もう行ってください。ほかの奉公人たちに見つからないように、くれぐれもお気をつけて」
「あ、はい。ありがとうございます!」
茜は奉公人に礼を言うと、急いで門をくぐる。
茜は辺りを確認しつつ、いつもの小屋に向かって駆け出した。
(佑助の屋敷も……今日は奉公人が少ないのかしら……)
いつもなら庭を通り抜けるだけでも数人の奉公人を見かけるのだが、今日は人の姿がなく、誰かの話し声すら聞こえなかった。
それは少し不自然なほどだったが、茜がそれに気づくことはなかった。
「本当に、誰にも……見つからないようにしてくださいね」
門にいた奉公人は、茜の背を見送りながら妖しく笑うと、静かに屋敷の門を閉めた。
その日は来客の予定もないから、と茜の父親が多くの奉公人に休みを取らせたことが、偶然茜の耳に入ったのだ。
(名簿を渡しに行くなら今日しかない……)
茜はそう決意すると、名簿を抱えて部屋を出た。
屋敷はひっそりと静まり返っていて、廊下にも庭にも奉公人の姿はなかった。
(本当に、ほとんどの奉公人が休みなのね……)
最初は慎重に足を進めていた茜だったが、誰もいないことが確認できると久しぶりに堂々と門へ向かうことができた。
ただ、やはり門の前にはいつもの奉公人がいた。
(やっぱりここにはいるわよね……)
奉公人は、茜の姿を見ると一瞬ギョッとした顔をしていたが、やがてため息をつくと、静かに茜に背を向けた。
(あ、見ないフリをしてくれるってこと……?)
茜がゆっくりと近づいても、奉公人は背を向けたまま動かなかった。
(やっぱり見逃してくれる気なのね……)
茜は思わず微笑んだ。
「……ありがとう」
茜は小さな声で奉公人の背中に礼を言うと、静かに門を開けて屋敷の外に出た。
(奉公人が少ないとはいえ、見つからないうちに早く帰らないとね……)
茜は門の前の奉公人に感謝しながら、佑助の屋敷に向かって駆け出した。
佑助の屋敷にはすぐに着いたが、茜はしばらく物陰に隠れることになった。
門が開いた際にチラリと見えた人物が、いつも門にいる奉公人と違っていた。
(困ったな……。初めて見る人だ……。正面から行っても入れてもらえないかも……)
茜はしばらく物陰からちらちらと門を見ていたが、しばらくすると、ふいに門が開き、先ほどの奉公人がゆっくりと茜の方に近づいてきた。
(え……! 隠れているのがバレたの……?)
茜は慌てて身を隠したが、足音はどんどん近づいてくる。
(まずい……! 見つかる……!)
茜は頭を抱えてうずくまった。
「茜様ですか?」
茜の頭上から声が響く。
「あの……大丈夫ですよ? 佑助様から聞いております」
「……佑助?」
茜は恐る恐る顔を上げた。
「はい、茜様が来たら通すように言われています。さぁ、ほかの人に見つからないうちにどうぞ」
奉公人はにっこりと笑うと、茜に手を差し出した。
「あ、そう……だったんですね。ありがとうございます」
茜は奉公人の手を取ると立ち上がった。
(佑助が……? そんな根回し、今までしてくれたことないのに……)
茜は思わず首を傾げる。
「さぁ、早くこちらへ。もうすぐたくさんお客様がいらっしゃる予定なので、早くしないと見つかってしまいます」
奉公人は茜に向かってそう言うと、足早に門に向かって歩いていく。
「あ、そうなのですね……! わ、わかりました」
茜は慌てて奉公人の後を追った。
奉公人は門を開けると、中の様子を確認し茜に入るよう促した。
「さぁ、もう行ってください。ほかの奉公人たちに見つからないように、くれぐれもお気をつけて」
「あ、はい。ありがとうございます!」
茜は奉公人に礼を言うと、急いで門をくぐる。
茜は辺りを確認しつつ、いつもの小屋に向かって駆け出した。
(佑助の屋敷も……今日は奉公人が少ないのかしら……)
いつもなら庭を通り抜けるだけでも数人の奉公人を見かけるのだが、今日は人の姿がなく、誰かの話し声すら聞こえなかった。
それは少し不自然なほどだったが、茜がそれに気づくことはなかった。
「本当に、誰にも……見つからないようにしてくださいね」
門にいた奉公人は、茜の背を見送りながら妖しく笑うと、静かに屋敷の門を閉めた。