藤吉は通された部屋で男を待っていた。
(遅ぇな……。どこに行ったんだお館様は……)
藤吉は思わず舌打ちをした。
昨日小屋を出てすぐ屋敷で男を探したが、出かけているようで男が屋敷に戻ってくることはなかった。
今日戻ってくる予定だと聞いた藤吉は、通された部屋でもう数刻ほど男を待っていた。
(それほど出歩く人じゃないんだけどな……)
藤吉はゆっくりと息を吐いた。
そのとき、襖が開く音がした。
「悪かったな」
藤吉が顔を上げると、恰幅のいい男がゆっくりこちらに向かって歩いてきていた。
「いえ、こちらこそ急にお伺いしてすみません」
藤吉は慌てて頭を下げる。
「気にするな。それにしても珍しいな、おまえが俺のところに来るなんて」
男はフッと笑うと、用意されていた座布団の上に腰を下ろした。
男は、目で藤吉にも座るように促した。
「ありがとうございます」
藤吉は礼を言うと、その場に腰を下ろす。
「それで、話というのは?」
男は鋭い目で、藤吉を見た。
「小屋の……小屋で暮らしている姉弟のことです……。なぜ女に毒を……? 弟に仕事をさせるための人質ではないのですか……?」
藤吉の言葉に、男はわずかに目を見張った。
「なんだ? 見てきたのか? おまえが人に興味を持つとは……驚いたな」
男はそう言うと、フッと笑った。
「安心しろ、殺す気はない。やる気を引き出すためのちょっとした脅しだ」
「脅し……?」
藤吉は眉をひそめた。
「最近、信が仕事に手間取るようになっただろう? 困るんだよ。あいつに任せている仕事は急ぎのものなんだ。何日もかかっていてはこちらの信用問題になる」
「それは……!」
藤吉は続く言葉を静かに飲み込んだ。
信の事情を説明したところで、男が受け入れるとは思えなかった。
「だから、速く仕事ができるようにちょっと脅しをかけたんだよ。これから姉の食事にはずっと毒を盛るとな」
男の言葉に、藤吉は目を見開いた。
「ずっと……ですか……?」
「ああ。信には、それが嫌ならすぐに戻っておまえが代わりに食べればいいと言ってある。信の分の食事には毒を入れるつもりはないからな」
藤吉は呆然と男を見た。
「そんなことをすれば……二人とも死んでしまいます……」
男は驚いたような顔をした後、小さく笑った。
「おまえが、人の心配とは……。今日は雨でも降るのか? ……安心しろ、すべて食べたところで死ぬほどの量の毒は盛っていない。たとえ死にたくなっても、あれぐらいの毒では死ねないさ。どちらも死んでもらっては困るからな」
「そんな……」
藤吉が反論しかけたとき、襖の向こうで人が動く気配がした。
「どうした?」
男が襖に向かって声を掛けた。
「……動きがありました」
襖の向こうにいる人物が静かに答える。
男は目を閉じると、唇を歪めた。
「そうか」
男はそう言うと、立ち上がり藤吉を見下ろした。
「悪いな。少し用事ができた。話しはここまでだ」
藤吉は呆然と男を見上げる。
「何か……あったのですか?」
男は顔を歪めて笑う。
「少し狩りに出るだけだ」
藤吉は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(狩り……?)
男はそう言うと、襖を開けて部屋を後にした。
(一体……何が……)
藤吉は速くなる鼓動を落ち着かせようと、ゆっくりと息を吐いた。
(遅ぇな……。どこに行ったんだお館様は……)
藤吉は思わず舌打ちをした。
昨日小屋を出てすぐ屋敷で男を探したが、出かけているようで男が屋敷に戻ってくることはなかった。
今日戻ってくる予定だと聞いた藤吉は、通された部屋でもう数刻ほど男を待っていた。
(それほど出歩く人じゃないんだけどな……)
藤吉はゆっくりと息を吐いた。
そのとき、襖が開く音がした。
「悪かったな」
藤吉が顔を上げると、恰幅のいい男がゆっくりこちらに向かって歩いてきていた。
「いえ、こちらこそ急にお伺いしてすみません」
藤吉は慌てて頭を下げる。
「気にするな。それにしても珍しいな、おまえが俺のところに来るなんて」
男はフッと笑うと、用意されていた座布団の上に腰を下ろした。
男は、目で藤吉にも座るように促した。
「ありがとうございます」
藤吉は礼を言うと、その場に腰を下ろす。
「それで、話というのは?」
男は鋭い目で、藤吉を見た。
「小屋の……小屋で暮らしている姉弟のことです……。なぜ女に毒を……? 弟に仕事をさせるための人質ではないのですか……?」
藤吉の言葉に、男はわずかに目を見張った。
「なんだ? 見てきたのか? おまえが人に興味を持つとは……驚いたな」
男はそう言うと、フッと笑った。
「安心しろ、殺す気はない。やる気を引き出すためのちょっとした脅しだ」
「脅し……?」
藤吉は眉をひそめた。
「最近、信が仕事に手間取るようになっただろう? 困るんだよ。あいつに任せている仕事は急ぎのものなんだ。何日もかかっていてはこちらの信用問題になる」
「それは……!」
藤吉は続く言葉を静かに飲み込んだ。
信の事情を説明したところで、男が受け入れるとは思えなかった。
「だから、速く仕事ができるようにちょっと脅しをかけたんだよ。これから姉の食事にはずっと毒を盛るとな」
男の言葉に、藤吉は目を見開いた。
「ずっと……ですか……?」
「ああ。信には、それが嫌ならすぐに戻っておまえが代わりに食べればいいと言ってある。信の分の食事には毒を入れるつもりはないからな」
藤吉は呆然と男を見た。
「そんなことをすれば……二人とも死んでしまいます……」
男は驚いたような顔をした後、小さく笑った。
「おまえが、人の心配とは……。今日は雨でも降るのか? ……安心しろ、すべて食べたところで死ぬほどの量の毒は盛っていない。たとえ死にたくなっても、あれぐらいの毒では死ねないさ。どちらも死んでもらっては困るからな」
「そんな……」
藤吉が反論しかけたとき、襖の向こうで人が動く気配がした。
「どうした?」
男が襖に向かって声を掛けた。
「……動きがありました」
襖の向こうにいる人物が静かに答える。
男は目を閉じると、唇を歪めた。
「そうか」
男はそう言うと、立ち上がり藤吉を見下ろした。
「悪いな。少し用事ができた。話しはここまでだ」
藤吉は呆然と男を見上げる。
「何か……あったのですか?」
男は顔を歪めて笑う。
「少し狩りに出るだけだ」
藤吉は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(狩り……?)
男はそう言うと、襖を開けて部屋を後にした。
(一体……何が……)
藤吉は速くなる鼓動を落ち着かせようと、ゆっくりと息を吐いた。