「なんだか花の香りがしますね」
藤吉がいつものように小屋の中に入ると、百合が不思議そうな顔をした。
「相変わらず動物並みの鼻の良さだな」
藤吉は苦笑しながら、百合の横に腰を下ろした。
「ほら、これやるよ」
藤吉は百合の手を取ると、持ってきたツツジの花を手のひらに乗せた。
「これは……?」
百合は慎重に花に触れる。
「花だよ。ツツジの花」
「ツツジ……」
百合は花に顔を近づけた。
「優しい香りですね。いい匂いです」
百合は嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、いい匂いかどうかは俺にはわからねぇけど、この花は別の楽しみ方があるんだよ」
藤吉はそう言うと、百合の手からツツジの花を取り、花の根元を百合の口に寄せた。
百合がわずかに身を引く。
「なんですか?」
「ここ、吸ってみな」
藤吉は花を百合の唇に少しだけ当てた。
百合は躊躇いがちに唇を開くと、花の根元を口にくわえて少しだけ吸った。
「あ……、甘い」
百合は口から花を離すと、少しだけ驚いたような顔をしていた。
「ツツジの蜜だ。あ、でも勝手に取ってきて吸うなよ。ツツジは種類によっては毒があるから」
藤吉は花を百合の口元から離し、百合の手の上に乗せた。
「毒……」
百合は、手の中の花に触れながら呟いた。
「これは大丈夫だから安心しな」
「フフ、藤吉さんがくれたものなので心配はしていません。でも、どうしてこれを……?」
百合は不思議そうに首を傾げた。
「特に理由はねぇけど……、かび臭い小屋で血の臭いのする中、毎日同じようなメシ食ってるんだろう? たまには違うものに触れるのもいいんじゃないかと思っただけだ」
百合はわずかに目を開いた後、静かに微笑んだ。
「なんだよ、変な顔で笑うな」
「フフ、普通に笑っただけです。変な顔は失礼ですよ」
「知るか。笑うならもっと楽しそうに笑え」
藤吉の言葉に、百合は吹き出した。
「これでも楽しそうに笑っているつもりなんです。そう言うなら藤吉さんが手本を見せてください。まだ一度も藤吉さんの笑い声、聞いたことありませんよ」
「面白いこともねぇのに笑うわけないだろ」
藤吉は呆れたように言った。
「面白いことですか……。あ、嬉しいときも笑いますか?」
「ん? まぁ、笑うだろうな……たぶん」
「では、嬉しいことを思い浮かべて笑ってみてください」
「は?」
藤吉は困惑して、百合を見つめる。
「さぁ、笑ってください」
「さぁって……。まぁ、いいけど……」
藤吉はぎこちなく口角を上げる。
藤吉の予想通り、百合の両手が藤吉の頬に触れた。
「あ、今日も髭はないのですね。……う〜ん、なるほど……。本当に笑っていますか?」
百合は眉間にシワを寄せながら、両手を滑らせ藤吉の顔を確認していく。
「笑っているというより強張っているような……」
百合の言葉に、藤吉はフッと笑った。
「当たり前だろ。さぁ、笑えって言われたら、みんなこんな顔になる」
「あ、今笑いましたね! なるほど、この感じですね……」
百合が真剣な顔で、藤吉の顔を撫でる。
「これですね。覚えました」
百合は満足げにそう言うと、両手を下ろした。
「藤吉さんに今みたいな顔をしてもらえるように、頑張ります」
百合は楽しそうに笑った。
「おいおい、誰が笑わせてほしいって言った?」
藤吉は呆れて百合を見た。
「藤吉さんの笑顔を参考に、私も笑うようにしますから」
ニコニコしている百合を見ながら、藤吉は諦めたように息を吐いた。
「勝手にしろ」
自分の顔など、どうでもよかった。
ただ百合が楽しそうに笑っているのを見て、好きなようにさせようと藤吉は静かに思った。
藤吉がいつものように小屋の中に入ると、百合が不思議そうな顔をした。
「相変わらず動物並みの鼻の良さだな」
藤吉は苦笑しながら、百合の横に腰を下ろした。
「ほら、これやるよ」
藤吉は百合の手を取ると、持ってきたツツジの花を手のひらに乗せた。
「これは……?」
百合は慎重に花に触れる。
「花だよ。ツツジの花」
「ツツジ……」
百合は花に顔を近づけた。
「優しい香りですね。いい匂いです」
百合は嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、いい匂いかどうかは俺にはわからねぇけど、この花は別の楽しみ方があるんだよ」
藤吉はそう言うと、百合の手からツツジの花を取り、花の根元を百合の口に寄せた。
百合がわずかに身を引く。
「なんですか?」
「ここ、吸ってみな」
藤吉は花を百合の唇に少しだけ当てた。
百合は躊躇いがちに唇を開くと、花の根元を口にくわえて少しだけ吸った。
「あ……、甘い」
百合は口から花を離すと、少しだけ驚いたような顔をしていた。
「ツツジの蜜だ。あ、でも勝手に取ってきて吸うなよ。ツツジは種類によっては毒があるから」
藤吉は花を百合の口元から離し、百合の手の上に乗せた。
「毒……」
百合は、手の中の花に触れながら呟いた。
「これは大丈夫だから安心しな」
「フフ、藤吉さんがくれたものなので心配はしていません。でも、どうしてこれを……?」
百合は不思議そうに首を傾げた。
「特に理由はねぇけど……、かび臭い小屋で血の臭いのする中、毎日同じようなメシ食ってるんだろう? たまには違うものに触れるのもいいんじゃないかと思っただけだ」
百合はわずかに目を開いた後、静かに微笑んだ。
「なんだよ、変な顔で笑うな」
「フフ、普通に笑っただけです。変な顔は失礼ですよ」
「知るか。笑うならもっと楽しそうに笑え」
藤吉の言葉に、百合は吹き出した。
「これでも楽しそうに笑っているつもりなんです。そう言うなら藤吉さんが手本を見せてください。まだ一度も藤吉さんの笑い声、聞いたことありませんよ」
「面白いこともねぇのに笑うわけないだろ」
藤吉は呆れたように言った。
「面白いことですか……。あ、嬉しいときも笑いますか?」
「ん? まぁ、笑うだろうな……たぶん」
「では、嬉しいことを思い浮かべて笑ってみてください」
「は?」
藤吉は困惑して、百合を見つめる。
「さぁ、笑ってください」
「さぁって……。まぁ、いいけど……」
藤吉はぎこちなく口角を上げる。
藤吉の予想通り、百合の両手が藤吉の頬に触れた。
「あ、今日も髭はないのですね。……う〜ん、なるほど……。本当に笑っていますか?」
百合は眉間にシワを寄せながら、両手を滑らせ藤吉の顔を確認していく。
「笑っているというより強張っているような……」
百合の言葉に、藤吉はフッと笑った。
「当たり前だろ。さぁ、笑えって言われたら、みんなこんな顔になる」
「あ、今笑いましたね! なるほど、この感じですね……」
百合が真剣な顔で、藤吉の顔を撫でる。
「これですね。覚えました」
百合は満足げにそう言うと、両手を下ろした。
「藤吉さんに今みたいな顔をしてもらえるように、頑張ります」
百合は楽しそうに笑った。
「おいおい、誰が笑わせてほしいって言った?」
藤吉は呆れて百合を見た。
「藤吉さんの笑顔を参考に、私も笑うようにしますから」
ニコニコしている百合を見ながら、藤吉は諦めたように息を吐いた。
「勝手にしろ」
自分の顔など、どうでもよかった。
ただ百合が楽しそうに笑っているのを見て、好きなようにさせようと藤吉は静かに思った。