日が暮れ始めていた。
 窯の前でつなぎ合わせた皿を見ていた弥一と弥吉は、近づいてきた奉公人の男に気づき顔を上げた。
 男は軽く頭を下げると、弥一が持っていた皿に目を留めた。
「これがあの割れた皿……。すごいですね! こんなに綺麗に直るとは思いませんでした!」
 男は感心したように声を上げる。
 皿は、遠目ではつなぎ目がわからないほどに綺麗に直っていた。

「絵が入っている部分は、どうしても継ぎ目が目立ちますが、なんとか……。弥吉がうまく直してくれました」
 弥一はそう言うと、弥吉に優しく微笑んだ。
 笑いかけられた弥吉は照れたように目をそらす。
「これくらいは……俺でも……」
 弥吉の様子に男は微笑む。
「謙遜するな。さすが、弥一さんの息子だな」
 男がそう言うと、弥吉の顔は耳まで赤く染まった。

「そ、そんなことより、何かあったんですか? わざわざここに来るなんて……」
 弥吉は話しをそらすように、男に聞いた。
「あ、ああ……」
 男は弥吉の言葉に、少し困ったような顔で微笑んだ。
「隆宗様がお帰りになったと伝えに来たんだ……」

「ああ、そうなのですね」
 弥一はその言葉に嬉しそうな顔をした。
「では、すぐにご挨拶に伺って……」
「あの……それが……」
 男は申し訳なさそうに弥一の言葉を遮る。
「今日は疲れているからとおっしゃって……。弥一さんがこの屋敷に来ていることもまだお伝えできていないんです……」
「ああ、そうでしたか……」
 弥一は残念そうに目を伏せた。

「それから、旦那様に大事なお話があるとおっしゃっていて、今日は隆宗様と旦那様の部屋には近づかないでほしいとのことでした」
 男はそこで視線を弥吉に移した。
「だから、おまえも今日は隆宗様のお部屋に行くなよ。何か……深刻なご様子だったから……」

「深刻……?」
 男の言葉に、弥吉の表情が曇る。
「まぁ、あんなことがあったばかりだしな……。いろいろお話しすることがあるんだろう……」
 男は悲しげに目を伏せた。

「あの……、あんなこと……とは?」
 話しを聞いていた弥一がおずおずと男に聞いた。
「え……?」
 男は驚いて弥吉を見る。
 弥吉は静かに首を横に振った。
 弥吉は、この屋敷で起こったことを弥一に何も伝えていなかった。
「あの……あんなこととは一体……」

 そのとき、信と叡正が小屋の方から窯に向かってやってくるのが見えた。
 三人のどこかぎこちない様子に気づき、叡正が戸惑いがちに口を開く。
「あの……どうしたんですか?」
「あ、いえ……。隆宗様がお帰りになったというお話を……」
 男の言葉を聞くと、信は向きを変え、屋敷に向かって歩き出した。

「ちょっと、信さん! どこに行くの?」
 弥吉が慌てて信を呼び止める。
「……聞きたいことがある」
 信はチラリと弥吉を見ると、静かにそれだけ言った。
「聞きたいことって……隆宗に? 何かわからないけどダメだよ、信さん。今日は旦那様と大事な話があるから、部屋には近づくなって隆宗が言ってたらしいから……」
 弥吉の言葉に、信はわずかに目を見張った。

「……そうか」
 信は目を閉じてそれだけ言うと、背中を向け屋敷に向かって足を速めた。
「ちょっ……信さん! だからダメだって……!」
 弥吉が慌てて信の後を追う。

 残された三人は顔を見合わせると、少しだけ笑った。
「で、では、私はこれで……」
 男が一礼してそそくさと去った後、弥一はおずおずと叡正を見た。
「あの……、もしご存じだったらですが……。この屋敷で何があったのか教えてもらえませんか……?」
「え……」
 叡正はそう口にした後、弥一からわずかに目をそらした。
 乳母の部屋で読んだ手紙には、この屋敷で起こったことがすべて書かれていた。
 しかし、それを果たして弥一に話してよいのかどうか、叡正には判断がつかなかった。
「その……、俺は何も……」

「お願いします! この屋敷の人たちは皆、私にとって家族のような存在なんです……! ですから……どうか……!」
 弥一は縋るように叡正を見つめた。

「家族……」
 叡正の脳裏に、子どもの頃ともに過ごしてきた家族の姿が浮かんだ。
 叡正は目を閉じる。
「そう……ですよね……」
 叡正はゆっくりと目を開けると、叡正が知っていることを話し始めた。
 日はすでに落ち、辺りは暗くなり始めていた。