皿の絵付けを終えた男は、窯から少し離れたところでしゃがみ込んで何かしている弥吉と隆宗の姿を見つけた。
(二人は本当に仲がいいな……。それにしても何をしているんだ?)
男は額の汗を拭うと、二人に近づいていった。
「ほら、できた!」
男が声を掛けようとした瞬間、弥吉は顔を上げ誇らしげに隆宗を見た。
男が弥吉の足元を覗き見ると、そこには割れた皿の欠片が絵柄を合わせるように元通りの形で置かれていた。
「わぁ」
隆宗は目を輝かせて弥吉を見る。
「すごい! 元通りだ! 弥吉はすごいな!」
「ふふふ、当然だよ!」
弥吉は鼻を鳴らした。
(また割れた皿で遊んで……)
男はゆっくりと息を吐く。
「こら、また皿で遊んでたのか?」
二人は驚いたように男を見上げた。
「あ、父ちゃん!」
弥吉は嬉しそうに飛び上がると、男に抱きついた。
「まったく、割れた皿は危ないからあまり触るなと言っているだろ?」
男は弥吉の頭を撫でながら言った。
「隆宗様、すみません……。手を切ったら大変ですから、触らないでくださいね」
「大丈夫ですよ、これくらい。私も楽しかったのですし」
隆宗は立ち上がり、にっこりと微笑んだ。
(弥吉よりもひとつ下なのに、隆宗様は本当にしっかりされているな……)
男は自分を見上げて笑っている弥吉に苦笑する。
「おまえも、隆宗様を見習うんだぞ」
男の言葉に、弥吉は頬を膨らませる。
「俺の方が兄ちゃんだ!」
「年が上なだけで、隆宗様の方がよっぽど大人だぞ。本当におまえは甘えてばかりで……」
「甘えてなんかいないよ!」
弥吉は、男から離れるとプイッとそっぽを向いた。
「もう別の場所で遊ぼうぜ、隆宗」
そう言うと、弥吉は駆け出した。
「だから、隆宗様と呼べと言ってるだろう」
弥吉の背中に向かって男は言ったが、弥吉は耳を塞ぎながら走り去っていった。
「まったく……」
男はため息をつく。
「すみません、隆宗様。弥吉がいつもご迷惑をお掛けして……」
「いえ、弥吉と遊べて楽しいですから」
その場に残った隆宗は地面に置かれた皿を見て微笑んだ。
「隆宗様は本当に大人ですね。うちの弥吉と大違いだ。弥吉は明るく真っすぐに育ってはいると思うんですが、隆宗様と比べると本当に子どもで……」
「そんな……弥吉はしっかり者です。それに、弥吉や弥一さんに遊んでいただけて本当に嬉しいんです。父上は滅多に私に会いに来ませんから……」
隆宗は寂しそうに目を伏せた。
(確かに旦那様と隆宗様が一緒にいるのを見たことはないな……)
男は隆宗を見つめる。
(大人びていてもやはり寂しいのだな……)
男は隆宗の前に膝をつき、隆宗の目を真っすぐに見た。
「旦那様はお忙しいのでなかなか会いに来られないのでしょう。旦那様は隆宗様を大切に想っていらっしゃいますよ。少し寂しいかもしれませんが、私や弥吉はずっとそばにおりますから」
男はそう言うと微笑んだ。
「もし寂しくなったときには、いつでも私たちを呼んでください。おこがましいかもしれませんが……、隆宗様は私たちの家族も同然ですから」
隆宗は目を見開いた。
「家族……」
「あ、おこがましいですよね!? も、申し訳ありません……!」
男が慌てて言った。
「いえ……」
隆宗は目を伏せて微笑んだ。
「嬉しいです、すごく……」
隆宗のまつ毛はわずかに濡れていた。
男は微笑むと目を閉じた。
「そう言っていただけて私も嬉しいです。これからは寂しくなったら、いつでも言ってくださいね」
「はい!」
隆宗は男を見ると、涙で濡れた瞳で心から嬉しそうに微笑んだ。
「おい! 隆宗! いつまでそこにいるんだよ! 座敷で遊ぶぞ!」
屋敷の柱の陰に隠れながら、弥吉がそっとこちらを見ていた。
「ああ! 今、行く!」
隆宗は男に一礼すると、弥吉の方へ駆け出していった。
男は立ち上がると、ひそひそと話す二人の姿をそっと見つめた。
(これからもずっと二人仲良くやっていけそうだな……)
男は静かに微笑むと、ゆっくりと伸びをして仕事場に戻っていった。
(二人は本当に仲がいいな……。それにしても何をしているんだ?)
男は額の汗を拭うと、二人に近づいていった。
「ほら、できた!」
男が声を掛けようとした瞬間、弥吉は顔を上げ誇らしげに隆宗を見た。
男が弥吉の足元を覗き見ると、そこには割れた皿の欠片が絵柄を合わせるように元通りの形で置かれていた。
「わぁ」
隆宗は目を輝かせて弥吉を見る。
「すごい! 元通りだ! 弥吉はすごいな!」
「ふふふ、当然だよ!」
弥吉は鼻を鳴らした。
(また割れた皿で遊んで……)
男はゆっくりと息を吐く。
「こら、また皿で遊んでたのか?」
二人は驚いたように男を見上げた。
「あ、父ちゃん!」
弥吉は嬉しそうに飛び上がると、男に抱きついた。
「まったく、割れた皿は危ないからあまり触るなと言っているだろ?」
男は弥吉の頭を撫でながら言った。
「隆宗様、すみません……。手を切ったら大変ですから、触らないでくださいね」
「大丈夫ですよ、これくらい。私も楽しかったのですし」
隆宗は立ち上がり、にっこりと微笑んだ。
(弥吉よりもひとつ下なのに、隆宗様は本当にしっかりされているな……)
男は自分を見上げて笑っている弥吉に苦笑する。
「おまえも、隆宗様を見習うんだぞ」
男の言葉に、弥吉は頬を膨らませる。
「俺の方が兄ちゃんだ!」
「年が上なだけで、隆宗様の方がよっぽど大人だぞ。本当におまえは甘えてばかりで……」
「甘えてなんかいないよ!」
弥吉は、男から離れるとプイッとそっぽを向いた。
「もう別の場所で遊ぼうぜ、隆宗」
そう言うと、弥吉は駆け出した。
「だから、隆宗様と呼べと言ってるだろう」
弥吉の背中に向かって男は言ったが、弥吉は耳を塞ぎながら走り去っていった。
「まったく……」
男はため息をつく。
「すみません、隆宗様。弥吉がいつもご迷惑をお掛けして……」
「いえ、弥吉と遊べて楽しいですから」
その場に残った隆宗は地面に置かれた皿を見て微笑んだ。
「隆宗様は本当に大人ですね。うちの弥吉と大違いだ。弥吉は明るく真っすぐに育ってはいると思うんですが、隆宗様と比べると本当に子どもで……」
「そんな……弥吉はしっかり者です。それに、弥吉や弥一さんに遊んでいただけて本当に嬉しいんです。父上は滅多に私に会いに来ませんから……」
隆宗は寂しそうに目を伏せた。
(確かに旦那様と隆宗様が一緒にいるのを見たことはないな……)
男は隆宗を見つめる。
(大人びていてもやはり寂しいのだな……)
男は隆宗の前に膝をつき、隆宗の目を真っすぐに見た。
「旦那様はお忙しいのでなかなか会いに来られないのでしょう。旦那様は隆宗様を大切に想っていらっしゃいますよ。少し寂しいかもしれませんが、私や弥吉はずっとそばにおりますから」
男はそう言うと微笑んだ。
「もし寂しくなったときには、いつでも私たちを呼んでください。おこがましいかもしれませんが……、隆宗様は私たちの家族も同然ですから」
隆宗は目を見開いた。
「家族……」
「あ、おこがましいですよね!? も、申し訳ありません……!」
男が慌てて言った。
「いえ……」
隆宗は目を伏せて微笑んだ。
「嬉しいです、すごく……」
隆宗のまつ毛はわずかに濡れていた。
男は微笑むと目を閉じた。
「そう言っていただけて私も嬉しいです。これからは寂しくなったら、いつでも言ってくださいね」
「はい!」
隆宗は男を見ると、涙で濡れた瞳で心から嬉しそうに微笑んだ。
「おい! 隆宗! いつまでそこにいるんだよ! 座敷で遊ぶぞ!」
屋敷の柱の陰に隠れながら、弥吉がそっとこちらを見ていた。
「ああ! 今、行く!」
隆宗は男に一礼すると、弥吉の方へ駆け出していった。
男は立ち上がると、ひそひそと話す二人の姿をそっと見つめた。
(これからもずっと二人仲良くやっていけそうだな……)
男は静かに微笑むと、ゆっくりと伸びをして仕事場に戻っていった。