「見てくれ! ようやく少しは納得できるものができたんだ!」
長屋に帰ってきた男は、戸を開けるなり土間にいた女に皿を差し出した。
弥吉を負ぶっていた女は、前屈みになり片手で弥吉を支えると皿を受け取った。
「まぁ、良い青の色が出ていますね! 故郷で見ていたものと遜色ないのではありませんか?」
白い皿には青の染付で麻の葉の柄が描かれていた。
「おまえもそう思うか? そうなんだ! ようやくこの色が出せたんだ!」
「旦那様にも……ご満足いただけましたか?」
女が不安げな顔で男を見る。
「ああ! 出来を見て喜んでくださった!」
男は力強く頷いた。
「そうでしたか……。本当によかった……」
女は心からホッとしたような顔で言った。
「おまえたちには苦労をかけたな……。でも、もう大丈夫だ」
男は女に背負われて眠る弥吉の頬に触れながら笑う。
「苦労なんてしていませんが……。本当によかったですね」
女は目を細めて男を見た後、ハッとしたように皿に視線を落とした。
「あ、このお皿……持ってきてしまってよかったのですか?」
「ああ。試作のひとつだからな。旦那様のご子息誕生のお祝いとして作っていた皿の試作なんだが、この一枚は弥吉のために焼いたものだから」
「ああ、だから麻の葉の柄なのですね」
女は微笑んだ。
「麻の葉のように、健やかに成長するようにですか?」
「ああ、そうだ。それと魔除けの意味も込めてな」
男の言葉に、女はにっこりと笑った。
「ありがとうございます。弥吉の皿として大切に使いますね」
そう言って女が歩き出そうとした瞬間、女の足がもつれた。
「危ない!」
男が慌てて女を抱きとめる。
「す、すみません……。少しふらついてしまって……。弥吉も負ぶっていたのに……。本当にごめんなさい……」
女は青い顔で弱々しく呟いた。
「大丈夫か? 少しの間、奥で休んでいろ。弥吉は俺が見ているから」
男は女の顔をのぞき込むように言った。
「そんな……! 帰ってきたばかりのあなたにお願いするなんて……」
「大丈夫だ。そんなこと気にするな」
男はそう言うと女の手から皿を受け取り、一旦床に置いた。
女を支えながら、背負われていた弥吉を背中から下ろし、慎重に抱き寄せる。
弥吉は少しだけ眉間に皺を寄せたが、すぐに男の腕の中で穏やかな寝息を立て始めた。
男は弥吉の様子を見て微笑むと、再び女を見た。
「さぁ、しばらく休んでいるんだ」
女は少し迷っていたが、目を伏せて微笑むとゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます……。では、少し休ませていただきますね……」
女はそう言うと、フラフラとした足取りで奥へと向かった。
女の背中を見送った男は、腕の中で眠る弥吉に視線を向けた。
「母さん……、早く良くなるといいな」
男は、気持ち良さそうに眠る弥吉に話しかけた。
ふっくらとしている弥吉の頬を、男がそっと撫でる。
「たくさん食べて、たくさん寝て、健康に早く大きくなるんだぞ」
男はそう言うと微笑んだ。
焼き物の出来が良くなり、弥吉も健やかに育っている。
もう何も心配することはない。
そのとき、男はそう思っていた。
長屋に帰ってきた男は、戸を開けるなり土間にいた女に皿を差し出した。
弥吉を負ぶっていた女は、前屈みになり片手で弥吉を支えると皿を受け取った。
「まぁ、良い青の色が出ていますね! 故郷で見ていたものと遜色ないのではありませんか?」
白い皿には青の染付で麻の葉の柄が描かれていた。
「おまえもそう思うか? そうなんだ! ようやくこの色が出せたんだ!」
「旦那様にも……ご満足いただけましたか?」
女が不安げな顔で男を見る。
「ああ! 出来を見て喜んでくださった!」
男は力強く頷いた。
「そうでしたか……。本当によかった……」
女は心からホッとしたような顔で言った。
「おまえたちには苦労をかけたな……。でも、もう大丈夫だ」
男は女に背負われて眠る弥吉の頬に触れながら笑う。
「苦労なんてしていませんが……。本当によかったですね」
女は目を細めて男を見た後、ハッとしたように皿に視線を落とした。
「あ、このお皿……持ってきてしまってよかったのですか?」
「ああ。試作のひとつだからな。旦那様のご子息誕生のお祝いとして作っていた皿の試作なんだが、この一枚は弥吉のために焼いたものだから」
「ああ、だから麻の葉の柄なのですね」
女は微笑んだ。
「麻の葉のように、健やかに成長するようにですか?」
「ああ、そうだ。それと魔除けの意味も込めてな」
男の言葉に、女はにっこりと笑った。
「ありがとうございます。弥吉の皿として大切に使いますね」
そう言って女が歩き出そうとした瞬間、女の足がもつれた。
「危ない!」
男が慌てて女を抱きとめる。
「す、すみません……。少しふらついてしまって……。弥吉も負ぶっていたのに……。本当にごめんなさい……」
女は青い顔で弱々しく呟いた。
「大丈夫か? 少しの間、奥で休んでいろ。弥吉は俺が見ているから」
男は女の顔をのぞき込むように言った。
「そんな……! 帰ってきたばかりのあなたにお願いするなんて……」
「大丈夫だ。そんなこと気にするな」
男はそう言うと女の手から皿を受け取り、一旦床に置いた。
女を支えながら、背負われていた弥吉を背中から下ろし、慎重に抱き寄せる。
弥吉は少しだけ眉間に皺を寄せたが、すぐに男の腕の中で穏やかな寝息を立て始めた。
男は弥吉の様子を見て微笑むと、再び女を見た。
「さぁ、しばらく休んでいるんだ」
女は少し迷っていたが、目を伏せて微笑むとゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます……。では、少し休ませていただきますね……」
女はそう言うと、フラフラとした足取りで奥へと向かった。
女の背中を見送った男は、腕の中で眠る弥吉に視線を向けた。
「母さん……、早く良くなるといいな」
男は、気持ち良さそうに眠る弥吉に話しかけた。
ふっくらとしている弥吉の頬を、男がそっと撫でる。
「たくさん食べて、たくさん寝て、健康に早く大きくなるんだぞ」
男はそう言うと微笑んだ。
焼き物の出来が良くなり、弥吉も健やかに育っている。
もう何も心配することはない。
そのとき、男はそう思っていた。