「ほら、来てやったぞ!」
良庵は長屋の戸を勢いよく叩きながら大声で言った。
隣にいた咲は目を丸くする。
「せ、先生……、そんな大きな音を……」
良庵は咲の言葉を無視して、再び強く戸を叩く。
少しすると長屋の戸が開き、信が顔を出した。
(聞いてた通り……ひでぇ火傷だなぁ……)
良庵は戸の隙間から見えた信の腕と足を見て、思わず顔をしかめた。
信の火傷は赤く水疱ができているところもあれば、黒ずんでいるところもあった。
「手当ては必要ない」
信はそれだけ言うと戸を閉めようとした。
良庵は慌てて戸に手を掛ける。
「まぁ、待て。おまえのためじゃない。練習台になってもらうために来たんだよ」
良庵は隣にいる咲を見た。
「おまえが連れて来たんだ。助手の上達のために、練習台くらいにはなってくれるだろう?」
信はしばらく無言で咲を見つめると、戸から手を離し奥に入っていった。
咲が不安げな表情で良庵を見る。
「入れってことだ」
良庵は咲にそう言うと、長屋の中に入った。
「なんだ、ひとりか?」
信は奥の座敷にひとりで座っていた。
「弥吉ってやつがいるって聞いてたんだが……」
良庵は長屋をひと通り見ると、信に視線を向けた。
信は顔を上げて良庵を見る。
「弥吉はしばらく帰ってきていない……」
良庵は眉をひそめる。
「帰ってきてないって……。どこに行ったんだ?」
信は目を伏せる。
「わからない……」
「わからないって……」
良庵は頭を掻いた。
(弥吉ってやつがいるなら、最低限の手当はしてあるかと思ったが……。この様子じゃ、何もしてねぇな……)
良庵は思わずため息をつく。
「痕は残ると思うが何もしないよりはマシか……」
良庵はそう呟くと、おずおずと長屋に入ってきた咲に近づいた。
咲が持っている薬箱の中から二つ軟膏を取り出すと咲に差し出す。
「これとこれを混ぜておいてくれ」
「あ、はい!」
咲は慌てて薬箱を置くと軟膏を受け取った。
「それから、井戸から水を汲んできてもらえるか?」
「は、はい! わかりました!」
咲はそう言うと、軟膏を一旦薬箱の上に置き、水を汲みに長屋の外に出ていった。
咲の背中を見送ると、良庵は座敷に上がり信の横に腰を下ろす。
「俺の言ったことの意味、わかったか?」
信は無言で良庵を見つめると、視線を落とした。
「危ないことに首突っ込むなって言っただろう? おまえだって死ぬときは死ぬし、それは咲耶も同じだ」
良庵の言葉に、信の瞳がわずかに揺れる。
「危ないのはおまえだけじゃないんだよ。……死んでほしくないんだろう?」
良庵は信の腕を見つめた。
「自分の体がこんなになっても助けるくらい……」
良庵は小さくため息をつく。
「なぁ、信……。もう普通に生きたらどうだ? 咲耶だってそれを望んでるんじゃないのか?」
信を視線を落としたまま何も答えなかった。
二人の間に重苦しい空気が流れる。
良庵が言葉を重ねようとしたとき、信の唇がわずかに動いた。
「俺は…………」
そのとき、長屋の戸が開いた。
「水汲んできました!」
咲が水を入れた桶を持って、長屋の戸口に立っていた。
「あ、ああ。早かったな。じゃあ、さっきの軟膏を混ぜてくれ」
良庵は立ち上がると、咲から水の入った桶を受け取った。
良庵が振り返って信を見ると、信は視線を落としたまま口を閉ざしていた。
良庵はため息をつく。
(ひとまず治療に集中するか……)
良庵は頭を掻くと、気持ちを切り替えて咲に指示を出した。
良庵は長屋の戸を勢いよく叩きながら大声で言った。
隣にいた咲は目を丸くする。
「せ、先生……、そんな大きな音を……」
良庵は咲の言葉を無視して、再び強く戸を叩く。
少しすると長屋の戸が開き、信が顔を出した。
(聞いてた通り……ひでぇ火傷だなぁ……)
良庵は戸の隙間から見えた信の腕と足を見て、思わず顔をしかめた。
信の火傷は赤く水疱ができているところもあれば、黒ずんでいるところもあった。
「手当ては必要ない」
信はそれだけ言うと戸を閉めようとした。
良庵は慌てて戸に手を掛ける。
「まぁ、待て。おまえのためじゃない。練習台になってもらうために来たんだよ」
良庵は隣にいる咲を見た。
「おまえが連れて来たんだ。助手の上達のために、練習台くらいにはなってくれるだろう?」
信はしばらく無言で咲を見つめると、戸から手を離し奥に入っていった。
咲が不安げな表情で良庵を見る。
「入れってことだ」
良庵は咲にそう言うと、長屋の中に入った。
「なんだ、ひとりか?」
信は奥の座敷にひとりで座っていた。
「弥吉ってやつがいるって聞いてたんだが……」
良庵は長屋をひと通り見ると、信に視線を向けた。
信は顔を上げて良庵を見る。
「弥吉はしばらく帰ってきていない……」
良庵は眉をひそめる。
「帰ってきてないって……。どこに行ったんだ?」
信は目を伏せる。
「わからない……」
「わからないって……」
良庵は頭を掻いた。
(弥吉ってやつがいるなら、最低限の手当はしてあるかと思ったが……。この様子じゃ、何もしてねぇな……)
良庵は思わずため息をつく。
「痕は残ると思うが何もしないよりはマシか……」
良庵はそう呟くと、おずおずと長屋に入ってきた咲に近づいた。
咲が持っている薬箱の中から二つ軟膏を取り出すと咲に差し出す。
「これとこれを混ぜておいてくれ」
「あ、はい!」
咲は慌てて薬箱を置くと軟膏を受け取った。
「それから、井戸から水を汲んできてもらえるか?」
「は、はい! わかりました!」
咲はそう言うと、軟膏を一旦薬箱の上に置き、水を汲みに長屋の外に出ていった。
咲の背中を見送ると、良庵は座敷に上がり信の横に腰を下ろす。
「俺の言ったことの意味、わかったか?」
信は無言で良庵を見つめると、視線を落とした。
「危ないことに首突っ込むなって言っただろう? おまえだって死ぬときは死ぬし、それは咲耶も同じだ」
良庵の言葉に、信の瞳がわずかに揺れる。
「危ないのはおまえだけじゃないんだよ。……死んでほしくないんだろう?」
良庵は信の腕を見つめた。
「自分の体がこんなになっても助けるくらい……」
良庵は小さくため息をつく。
「なぁ、信……。もう普通に生きたらどうだ? 咲耶だってそれを望んでるんじゃないのか?」
信を視線を落としたまま何も答えなかった。
二人の間に重苦しい空気が流れる。
良庵が言葉を重ねようとしたとき、信の唇がわずかに動いた。
「俺は…………」
そのとき、長屋の戸が開いた。
「水汲んできました!」
咲が水を入れた桶を持って、長屋の戸口に立っていた。
「あ、ああ。早かったな。じゃあ、さっきの軟膏を混ぜてくれ」
良庵は立ち上がると、咲から水の入った桶を受け取った。
良庵が振り返って信を見ると、信は視線を落としたまま口を閉ざしていた。
良庵はため息をつく。
(ひとまず治療に集中するか……)
良庵は頭を掻くと、気持ちを切り替えて咲に指示を出した。