私が小さいころ、お母さんは私が眠る前に毎日一冊、絵本を読んでくれていた。
 絵本はたくさんあって、大好きなお話もたくさんあった。
 その中でも特に好きな絵本は、『プリンセス』が出てくるお話だ。
 かわいいものが好きな人は誰もが一度は憧れると思う『プリンセス』。
 ふわっふわのドレスに、星がちりばめられたようなティアラを身に着け、王子様と優雅に踊る。国民全員にやさしく接し、みんなから好かれているその姿は、私の理想そのものだった。
 私はプリンセスになりたかったし、それ相応の努力をすればなれると信じていた。だから、幼いながら頑張った。
 お友達と遊びたいおもちゃがかぶってしまった時には譲ってあげ、誰かがけんかになりそうなときには仲裁をしてあげた。また、一人でいる子には話しかけて一緒に遊ぶように呼び掛けたり、意地悪をされている子がいたらすぐに止めに入った。
 振る舞いに関しても、物は丁寧に扱い、挨拶やお礼はしっかり言って、お行儀がいいように心がけた。
 そうしていると、みんな――お母さんやお父さん、先生やお友達、近所の人――はにこにこと笑ってこう言ったのだった。
『萌音ちゃんはとっても優しい、いい子だね』
 そう言ってくれると私はとてもうれしい気持ちになり、みんなから好かれているプリンセスになれたと思った。
 そして、これからもプリンセスでい続けられるよう、頑張ろう、と思うのだった。