「Yeah! レヴィア、グッジョブ!」
シアンは絶好調でペシペシと鱗を叩いた。
「ふぅ……、何とかうまくいきましたな……。これでもういい……ですよね?」
レヴィアは大きく息をつくとおずおずとシアンにお伺いを立ててみる。
「何言ってんの! 次がいよいよ本命、あの塔だぞ! うっしっしっし……」
「はぁっ!? あんな塔倒せるわけないじゃないですか!」
レヴィアは天を衝くようにそびえる白亜の巨塔を見上げて目を丸くする。
「それは『倒せない』って思ってるからだって! レヴィアは倒せる~、倒せる~」
シアンは催眠術師の様に、レヴィアの鱗をなでながら暗示をかけようとした。
「……。申し訳ないのですが、我は眷属ゆえ『観測者』にはなれないのです……」
「だーいじょうぶだってぇ! 倒せるって信じてあの塔、突っ込んでみよう!」
「いや、ちょっと、それは激突死しかイメージできませんので……」
「ちぇっ! ノリ悪いなぁ……」
レヴィアはゆったりとはばたき、渋い顔をしながらクォンタムタワーを見つめていた。レヴィアは『断る勇気』を座右の銘にしようと心に誓う。何でもシアンの言うとおりにしていたら命が何個あっても足らないのだ。
「じゃあ、もういいよ。後は僕が楽しむから。くふふふ……」
シアンはそう言うと楽しそうに左手をクォンタムタワーの方へと向けた。手の甲の上にはホログラム画面が浮かび、クォンタムタワーと、その情報がずらずらとリアルタイムに表示されている。
シアンは映し出されているクォンタムタワーの像を、右手の指でピンチアウトして拡大していく……。
「どの辺に当てようかなぁ……。くふふふ……」
そしてニヤッと笑うと丸いボタンに人差し指を伸ばした。
「ポチっとな!」
パシャー!
シャッター音が響き、斜めに青白く輝くラインが東京湾上を幻想的に走っていく……。
「へ……? あ、あれは……?」
レヴィアはその様子を見てゾッと背筋が凍った。シアンの繰り出す訳の分からない攻撃は毎度深刻な災厄を引き起こしていたのだ。この攻撃が何を引き起こすのか分からないがロクな事にならないに違いないと本能が告げている。
「僕の開発した空間を断裂させる術式【虚空断章】だよ。どう? 綺麗でしょ? くふふふ……」
レーザー光線のようにも見える斜めに鮮やかに輝くライン虚空断章は、右下を海面に沈めながら音もなく飛んでいく。東京湾の海面を切り裂きながら進む虚空断章はアクアラインのサービスエリア『海ほたる』の巨大な建物に達すると音もなくバッサリ一刀両断し、アクアラインの橋ごと海に葬りさったのだった。
あ……。
シアンは一言つぶやいたが、レヴィアは聞かないふりをする。
その間にも青白く輝くラインは輝きを増しながら純白の巨塔に迫った。
「くふふふ……。瑛士、見てろよー」
シアンはルビー色の瞳を輝かせながらその瞬間を待つ。
やがて虚空断章がクォンタムタワーの太い壁面に達し、斜めに当たるとそのまますり抜けていった――――。
しかし、すり抜けたまま何の反応もない。
「あれ? シアン様?」
レヴィアは何も起こらないことに思わず首を傾げた。
「見ててごらん。瑛士宿願の時だ……」
シアンは少し寂しそうに目を細めながら天を貫く巨塔を眺める。
次の瞬間、虚空断章が切り裂いたラインに沿ってボシュっと白煙が噴き出した。
パリパリっとスパークが塔の周りに一瞬走り、ズズズズと塔が切り口に沿ってずれ落ち始めていく。
おぉぉぉぉ……。
レヴィアは思わず声を上げた。
三キロメートルもの高さを誇る前代未聞の巨塔が今、最期の時を迎えている。切り口からは炎が上がり、黒煙が上がっていくが、幅三百メートルもある巨大な構造物はデカすぎて、ずれ落ちていくのにも結構時間がかかる。
シアンは何も言わずただ静かにAI政府の終焉の時を眺めていた。塔の中は巨大なデータセンターとなっており、AI政府の多くの機能はこれでストップしただろう。もちろん、消え去った訳ではないが、サイボストルやドローンを操作したりすることは当面難しいはずだ。
やがてズレが大きくなると、今度は大きく傾き始め、あちこちに大きくヒビが走った。天を衝いていた塔頂付近がヒビから火を吹き、やがて折れていく。そしてバラバラと壁面が剥落し、直後、ものすごい速度で全体が崩落していった。
「自業自得だ。お馬鹿さん……」
シアンはその様子を眺めながらボソッとつぶやいた。本当なら瑛士と一緒に見たかった景色。それがこんな形になってしまったことにシアンは一抹の寂しさを感じ、すぅっと瞳に碧が戻ってくる。
東京湾に数百メートルに及ぶ巨大な水柱を次々と噴き上げながら、クォンタムタワーはその姿を海中へと沈めていった。
シアンは絶好調でペシペシと鱗を叩いた。
「ふぅ……、何とかうまくいきましたな……。これでもういい……ですよね?」
レヴィアは大きく息をつくとおずおずとシアンにお伺いを立ててみる。
「何言ってんの! 次がいよいよ本命、あの塔だぞ! うっしっしっし……」
「はぁっ!? あんな塔倒せるわけないじゃないですか!」
レヴィアは天を衝くようにそびえる白亜の巨塔を見上げて目を丸くする。
「それは『倒せない』って思ってるからだって! レヴィアは倒せる~、倒せる~」
シアンは催眠術師の様に、レヴィアの鱗をなでながら暗示をかけようとした。
「……。申し訳ないのですが、我は眷属ゆえ『観測者』にはなれないのです……」
「だーいじょうぶだってぇ! 倒せるって信じてあの塔、突っ込んでみよう!」
「いや、ちょっと、それは激突死しかイメージできませんので……」
「ちぇっ! ノリ悪いなぁ……」
レヴィアはゆったりとはばたき、渋い顔をしながらクォンタムタワーを見つめていた。レヴィアは『断る勇気』を座右の銘にしようと心に誓う。何でもシアンの言うとおりにしていたら命が何個あっても足らないのだ。
「じゃあ、もういいよ。後は僕が楽しむから。くふふふ……」
シアンはそう言うと楽しそうに左手をクォンタムタワーの方へと向けた。手の甲の上にはホログラム画面が浮かび、クォンタムタワーと、その情報がずらずらとリアルタイムに表示されている。
シアンは映し出されているクォンタムタワーの像を、右手の指でピンチアウトして拡大していく……。
「どの辺に当てようかなぁ……。くふふふ……」
そしてニヤッと笑うと丸いボタンに人差し指を伸ばした。
「ポチっとな!」
パシャー!
シャッター音が響き、斜めに青白く輝くラインが東京湾上を幻想的に走っていく……。
「へ……? あ、あれは……?」
レヴィアはその様子を見てゾッと背筋が凍った。シアンの繰り出す訳の分からない攻撃は毎度深刻な災厄を引き起こしていたのだ。この攻撃が何を引き起こすのか分からないがロクな事にならないに違いないと本能が告げている。
「僕の開発した空間を断裂させる術式【虚空断章】だよ。どう? 綺麗でしょ? くふふふ……」
レーザー光線のようにも見える斜めに鮮やかに輝くライン虚空断章は、右下を海面に沈めながら音もなく飛んでいく。東京湾の海面を切り裂きながら進む虚空断章はアクアラインのサービスエリア『海ほたる』の巨大な建物に達すると音もなくバッサリ一刀両断し、アクアラインの橋ごと海に葬りさったのだった。
あ……。
シアンは一言つぶやいたが、レヴィアは聞かないふりをする。
その間にも青白く輝くラインは輝きを増しながら純白の巨塔に迫った。
「くふふふ……。瑛士、見てろよー」
シアンはルビー色の瞳を輝かせながらその瞬間を待つ。
やがて虚空断章がクォンタムタワーの太い壁面に達し、斜めに当たるとそのまますり抜けていった――――。
しかし、すり抜けたまま何の反応もない。
「あれ? シアン様?」
レヴィアは何も起こらないことに思わず首を傾げた。
「見ててごらん。瑛士宿願の時だ……」
シアンは少し寂しそうに目を細めながら天を貫く巨塔を眺める。
次の瞬間、虚空断章が切り裂いたラインに沿ってボシュっと白煙が噴き出した。
パリパリっとスパークが塔の周りに一瞬走り、ズズズズと塔が切り口に沿ってずれ落ち始めていく。
おぉぉぉぉ……。
レヴィアは思わず声を上げた。
三キロメートルもの高さを誇る前代未聞の巨塔が今、最期の時を迎えている。切り口からは炎が上がり、黒煙が上がっていくが、幅三百メートルもある巨大な構造物はデカすぎて、ずれ落ちていくのにも結構時間がかかる。
シアンは何も言わずただ静かにAI政府の終焉の時を眺めていた。塔の中は巨大なデータセンターとなっており、AI政府の多くの機能はこれでストップしただろう。もちろん、消え去った訳ではないが、サイボストルやドローンを操作したりすることは当面難しいはずだ。
やがてズレが大きくなると、今度は大きく傾き始め、あちこちに大きくヒビが走った。天を衝いていた塔頂付近がヒビから火を吹き、やがて折れていく。そしてバラバラと壁面が剥落し、直後、ものすごい速度で全体が崩落していった。
「自業自得だ。お馬鹿さん……」
シアンはその様子を眺めながらボソッとつぶやいた。本当なら瑛士と一緒に見たかった景色。それがこんな形になってしまったことにシアンは一抹の寂しさを感じ、すぅっと瞳に碧が戻ってくる。
東京湾に数百メートルに及ぶ巨大な水柱を次々と噴き上げながら、クォンタムタワーはその姿を海中へと沈めていった。