スタイル抜群の美女がいた。当然モテモテである。しかし当人は恋愛に興味を示さない。告白されても「興味ないんで」と断る。フラれた男どもや僻んだ女たちが「冷血女」と罵るが、これは風評被害だった。優しい感情がないのではない。好きでもない相手と交際するのは自分の気持ちに嘘を吐くことであり、それは相手に失礼だと考えているだけだ。
 そんな彼女にアタックする猛者が、今日も出現した。この男は、今までとは異なる告白をした。自分は余命わずかなので付き合って欲しいと言ったのである。
 これには彼女もショックを受けた。そんな可哀想な人を放っておくことはできない……と冷血人間ではない彼女が思ったのは自然なことだ。告白をオーケーしようと彼女が決めた、そのときだ。
「ちょっと待ったー! 俺も告白する! 付き合ってくれ!」
 そう叫んで割って入るお邪魔虫に、余命わずかな男が激怒した。
「余命わずかな人間の邪魔すんじゃねえ! 引っ込んでろ!」
 そう言われても相手は平気の平左である。
「へええ、余命わずかなのは自分だけだと思ってんの? じゃーん! これを見ろ!」
 飛び入り男は紙切れを高く掲げた。
「俺も余命宣告されたも~ん! これは医者から貰った診断書だ! よく見ろ、余命わずかと書いてあるだろ!」
 最初にいた余命わずかは、二番目の余命わずかが見せびらかす診断書を奪うと、ビリビリに破いて撒き散らした。二番目がキレる。
「あー! この野郎、何しやがる!」
「うるさあい! こっちの方が余命わずかだ!」
「何だと! こっちの方が余命わずかなんだよ!」
「やるか、この野郎!」
「やってやらあ、余命わずかナメんなよ」
「それはこっちのセリフだ、覚悟しろ!」
 二人の余命わずかは戦いを始めた。そして互いに致命傷を負い、相打ちになって斃れた。
「苦しい……」
「もう駄目だ……」
 深刻な事態が訪れた。ただでさえ余命わずかだった二人は、すっかり虫の息で、死を待つばかりになってしまったのだ。
 女はとっくに姿を消していた。当然である。自分は余命わずかだと言い張る男二人が自分を巡って突然、殺し合いを始めたのだ。近くにいて巻き添えになったら大変だ。酷い大怪我でもしたら彼女自身も「突如振りかかる余命!」になってしまうかもしれない。とてもではないが、付き合っていられなかった。
 そんな彼女を世間の者は、美人だが薄情な女だと噂するのだった。