商談して出ていくのに荷物は一杯だとおかしい。
 かといって少なすぎても変に見えるので出発する時にはほどほどに抑えておく。

 次の街に着く時にはしっかりと荷物を出しておき、商品があることをアピールする。
 誰が見ているとも限らないので町に入る時から準備は怠らない。

 2つ目の町でも商談の相手は決まっているし取引する内容にも大きな変わりはない。
 簡単な挨拶を交わして、いつものように取引内容の確認をしてスムーズに商談は終わった。

 この町でもいくつか物を買って1つ目の町と同じように一晩泊まって出発した。
 そして3つ目の町に着いた。

 行商の同行はここまでとなり、ここから先はリュードとルフォン2人きりの旅になる。
 本当の旅の始まりになる。

 あっけないもので3回目の商談もなんの問題もなく終わった。
 馴染みの相手なので問題が起こることの方が珍しいのだ。

 もうお別れということでロセアの父の計らいで最後の夜は高い店での食事となった。
 この世界のルールは知らないが村のルールでは16歳で大人と同じでお酒も飲めるようになる。

 リュードとルフォンも嗜む程度にお酒をいただいた。
 この先全く飲めないとなると困ることもあるが軽く飲んだ感じでは2人とも下戸ではなくて簡単にお酒に潰される心配はなくなった。

「シューナリュードさん、聞いてください」

 1つ目の町と同じでリュードとロセアは同じ部屋に2人きりだった。
 明日は行商のみんなとお別れとなり、リュードたちは別の町に向かう。

 そろそろ寝ようかという時、ロセアがどこか覚悟をしたような目をしてリュードに話しかけてきた。
 ロセアはややお酒に弱いようで時間も経って酔いが回っていた。

「僕はシューナリュードさんのことを尊敬してます」

 お酒でほんのりと赤くなった顔で月明かりの下、ロセアは自分に言い聞かせるようにも言葉を紡ぐ。
 まるで告白されているみたいだ。

 真面目そうな話なのでリュードもしっかり話を聞く。

「僕は、シューナリュードさんが村長と戦う姿を見て、本当に感動しました。感動して、シューナリュードさんみたいになりたいと、そう思いました。でも僕は体が小さく、戦いの才能はありません」

 確かにロセアの戦いを力比べで見たことがあるが酷いものだった。
 才能などという言葉で片付けたくはないが確かに才能が無いというしかなかった。

「僕はシューナリュードさんになることができません。でも、僕には夢があります。僕の両親は商人できっと村での商売は僕の兄が継ぎます。でも僕も商人になりたい。僕は僕の店を持ちたいと思っているんです」

 ロセアは伏し目がちに膝についた手をぎゅっと握る。

「自分のお店を持って、支店とか建てて、そういったの持って……いつか僕にこんな勇気をくれたシューナリュードさんのお役に立てるような、そんなお店を僕は持ちたいです。旅に出ると聞いて想像しました。僕が店を持って、シューナリュードさんがきてくれて、必要な物を僕の店で買ってくれる。必要とされ、シューナリュードさんの助けになれる、そう思ったんです」

 話しながら少しずつ酔いが覚めてきているけれどロセアの胸の熱は収まらない。
 けれども言い切って少し冷静になって気づいたのだ。

 自分が言っていた内容に。
 気持ち悪がられると思ってロセアは顔を伏せた。
 
 特に仲が良いわけでもないのにいきなりこんなことを言っては引かれても文句は言えない。

「……いいんじゃないか」

 村ではみんなの夢は強くなるみたいな中、ロセアの夢は自分の店を持ちたいという確固たるもので、リュードはそれを立派だと素直に思った。
 溢れ出た思いはリュードにとってインパクトが大きかったけれど憧れてもらっているのだから悪い気はしなかった。

 気持ち悪いだなんて全く思わなかった。

「いつになるかは分からないけれどいつかは助けになってくれるってことだろ?」

「は……はい! どんな時でもシューナリュードさんは僕の1番大切なお客様です!」

「その時はよろしく頼むよ」

「はい!」

 ロセアが顔を上げてみるとリュードは笑っていた。
 馬鹿にするような顔ではなく優しく受け入れてくれる笑顔だった。

 受け入れてもらったことに対する喜びでロセアも破顔した。

「あの、それで、コレを受け取って欲しいんですが」

 ロセアが渡してきたのは木で作られた札。
 何かの模様が彫ってあり、彫られているものはなんだか見たことがある気がする。

「これはまだないですけどいつか僕の商会の証にするつもりのものです。中でも特別な商会員にだけお渡しする予定の商会証です。モチーフは同族の証を参考にして竜人族と人狼族の物を合わせたように作りました」

 なるほど、どこで見たのかと思えば同族の証かと納得する。
 竜と狼が背中合わせになっているような図柄が彫ってある。

 ちょっと荒いがなかなか可愛らしくておしゃれなデザインだ。

「いつか僕が店を持ったら来てください。もし僕がいなくてもこれを見せれば最上級待遇を約束しますよ!」

「ありがとう、ロセア」

「あともう1つお願いがあるんですけど……」

「俺に出来ることならなんでも言ってくれ」

「兄貴って呼んでもいいですか?」

「兄貴?」

「はい、僕は実はあんまり実の兄とは仲良くなくて……シューナリュードさんがよければ何ですが、その……」

「いいぞ」

 同い年から兄貴と呼ばれるのはちょっとおかしい気もするけれど体格が小さいこともあってかロセアは弟分のような感じをリュードも持っていた。

「本当ですか!」

「もちろんだよ、商会長」

「もう、やめてくださいよ、兄貴!」

 笑い合う。
 そしてどちらともなく握手を交わす。

 こんなところで弟分兼友人が出来るとは思ってもみなかった。

「兄貴、旅のご無事を祈ってます」

「ああ、ロセアも夢叶えろよ」

 次の日の朝、ロセアたちとはここでお別れになる。
 これからロセアたちは来た道を戻って村に帰り、リュードたちは先を行く。

 リュードたちが見えなくなるまでロセアは見送ってくれ、旅は始まった。