「マーマンはいなくなったな……」

 出てくる魔物がマーマンではなくリザードマンになった。
 マーマンよりは強い相手で、多少の連携も取ってくるから慎重に戦っていく。

 さらにリザードマンは角で待ち伏せなんてこともしてきた。
 ただ無防備に進むことも危険になったので、城の中を捜索する速度も少し落ちた。

「ここはどこらへんだろうにゃ?」

 城の地図なんてものはない。
 外から見ていた城は巨大で、いざ中に入ってみると中の構造も曲がり角が多くて軽い迷路みたいになっている。

 リュードが提案した方角に進んでいるとは思うけど、不安にも思い始めていた。

「待って」

「どうしたルフォン」

 ルフォンが突如立ち止まって目をつぶって耳を澄ませる。
 ピクピクと動くミミ。

 みんなは緊張した面持ちだけど、リュードだけは動くミミ可愛いな、なんて考えていた。
 
「音がする……」

「そう言われれば……何かを叩く音かにゃ?」

 ニャロも耳を澄ませてみると何かの音を感じた。
 戦いの音ではない。

 一定のリズムで何かを叩くような低い音が響いている。

「行ってみましょう」
 
 慎重に、でもペースを早めて音のする方に向かう。
 進んでいくとリュードや他の人にも音が聞こえ始めてくる。

 音の相手にバレないように角から顔を出して覗き込む。

「リザードマンの戦士と戦士長……かな?」

 知能のあるリザードマンには、その集団内での階級みたいなものがある。
 ただのリザードマン、戦士、戦士長と単純な階級だが、戦士リザードマンはただのリザードマンより強く、戦士長リザードマンは戦士リザードマンより強い。

 それぞれの階級の間には強さの壁があり、戦士長リザードマンはリザードマンのリーダー的な存在でもある。
 戦士長にまでなると、周りのリザードマンよりも体格が一回り大きくて見た目で分かりやすい。

 戦士リザードマンとただのリザードマンの違いは装備品ぐらいである。
 どうやって入手してのかリュードには分からないが、戦士リザードマンと思しき個体は防具を身につけている。

 そして広くなった部屋に多くのリザードマンが集まっていた。
 奥側には閉ざされた大きな扉があって、戦士長リザードマンが大きな斧で扉を叩きつけて壊そうとしている。

 扉はボロボロで歪んでいて今にも壊れそうになっているように見える。

「元々住んでいたんじゃなさそうだね」

 住んでいたなら今更扉を壊そうとなんてするはずがない。
 リュードは神様から聞いているから、リザードマンが他所から来たものだと知っている。

 他の人にとってはリザードマンがどこから来たかは知り得ないことなので、リザードマンの行動の不思議さに首を傾げている。

「ちょっと数が多いね」

「でも早くしないとあの扉もう限界そうだよ」

 扉が何を守って閉ざされているにしても、リザードマンが正当な理由や方法でそれを狙っているように見えない。
 扉が突破される前に倒さなきゃいけない。

 ルフォンはリザードマンを見て少し顔をしかめた。
 倒すことには問題なさそうだけど、いかんせんリザードマンの数が多い。

 コユキやニャロを優先して狙われたら厄介だ。

「少し誘き出して倒そうか」

 少し悩んだリュードは小さく頷いた。
 知能があるということは意外と騙しやすいということでもある。
 
 リュードは近くに転がっていた石を手に取って投げる。
 上手く石は転がっていきリザードマンの足にコツンと当たった。
 
 リザードマンは不自然に転がってきた小石の出所を探して周りを見回す。
 これまでのリザードマンもそうだったが、何かの知恵があるのかリザードマンは3体1組で動いている。
 
 石が飛んできた方を調べようと、リザードマンが仲間の2匹を連れてゆっくりとリュードたちの方に向かってくる。

「いくぞ。……3……2……1!」

 リュードを始めとした数人が通路の影から飛び出す。
 のこのこと誘き出されて、通路近くまで来ていたリザードマンに襲いかかる。

 一陣の風のようにルフォンが手前のリザードマンの横をすり抜けて一番離れたのリザードマンの喉を切り裂く。
 持っていた槍を落として喉を押さえるリザードマンの心臓をさらに一突きにする。

 そのまま音がしないようにゆっくりと地面に倒す。
 まずは一体。

 リュードも手前のリザードマンを抜けて後ろのリザードマンも狙う。
 仲間を呼ばれたり、他に気づかれたら面倒なことになる。

 リュードはリザードマンに素早く接近すると喉を殴りつける。
 小さくグェと鳴いたが、扉を叩きつける大きな音にかき消されて他のリザードマンには聞こえない。

 袈裟斬りにリザードマンを切って捨てるとリザードマンの首を掴んで通路の方に引きずっていく。

「ふおおっ! これがコユキちゃんのしえーん!」

 一番前にいたリザードマンは冒険者が戦う。
 リュードやルフォンの方は心配ないので、冒険者の方をコユキが強化支援する。

 小声ながらコユキの強化支援に感動している冒険者がリザードマンを切りつけ、ラストがその隙をついて眉間に矢を突き刺す。

「羨ましい……」

「ズルいぞ」

「へへん、コユキちゃん支援すごいよ」

 みんなでリザードマンの死体を見えないところまで引き込んで隠す。
 幸いリザードマンたちは戦士長リザードマンを真面目に見ていて、後ろで起きたことに気づいていなかった。

 もう一度リュードが石を投げる。
 同じく引っかかった三体のリザードマンが石の投げられた先を探しにくる。

 ほとんど同じ動きでまたリザードマンを倒して隠す。
 今度は違う冒険者をコユキが強化支援して、またコユキの強化支援争奪戦が少しあったものの問題はなかった。

 しかし三回目となるとリザードマンもただのバカではなかった。
 後ろにいた仲間が減っていて、戻っていないことに気がついたのだ。

 気づいた個体は戦士リザードマンで、中でも知能が高そうである。
 もう何回か繰り返して数を減らしたかったが、キョロキョロしていて不審がっている。

 完全に気づかれる前に奇襲したいので戦うしかない。

「俺が動きを止めるから一斉攻撃だ。コユキとニャロは広くみんなを支援してやってくれ」

 みんながうなずく。
 しっかりと意見を述べるし真面目で強く風格もある。

 いつの間にかリュードがリーダーのようになっていた。

「準備はいいな? 行くぞ!」

 リュードが集中して魔力を高めながら出て行く。
 広く、より伝達していくように意識する。

「痺れろ!」

 リュードの魔力が電撃へと変わる。
 じっとりと濡れた床を通して電撃が部屋の中に広がって次々とリザードマンを痺れさせていく。

 殺傷力は控えめだけど素早く広がり長く痺れるように魔力もたっぷりと込めておいた。