「申し遅れましたにゃ。私はニャロ・シャロエア・ニックキュにゃ」
「シャロエア……せ、聖者様でしたか」
ケーフィス教では聖職者になると思わず拝命と言って名前が与えられる。
それは聖職者に画一的に与えられるもので、女性の聖者だとシャロエアになる。
聞いてパッと聖者だと分かるあたり、ミルトも真面目に勉強している聖職者だ。
もし他の人が自分の名前でもないのに勝手にシャロエアを名乗ると教会に追われることになる。
ミルトはニャロが聖職者なことは分かっていた。
戦いの中で神聖力を使っているし、振る舞いが冒険者っぽくない。
しかしこんな場面で聖者ですと名乗らないし、聖者だと名乗るも同然のシャロエアだとも名乗らないのが普通である。
途端にミルトは緊張しだす。
神に愛された者である聖者は尊敬されるべき者であり、他宗教であっても格式は聖者がはるかに高い者である。
「失礼をお許しください」
「別に失礼なことなんてないにゃ。私もコユキのことを知らなかったらきっと不思議に思うにゃ」
聖派の一派として見られることもあるウォークア教は、その職責で考えるとケーフィス教とあまり変わらない。
高位神官と聖者では聖者の方が格上になる。
ただ失礼だったところで他宗教だし、ニャロに出来ることなんて教会を通じて文句を言うぐらいしかない。
しかし聖者であることを鼻にかけてそんなことをするニャロでもない。
「コユキさんの方が聖者かなと思いまして……」
神聖力を扱うミルトには、コユキの神聖力がいかに強いか分かっている。
しかしこんな幼くて強い力を持つ聖者がいれば噂になっているはずだ。
特にコユキは見た目も良くて、聖者だったなら絶対に耳に届くほどの存在になっていると確信を持って言える。
けれどコユキのことをミルトは知らない。
新しい聖者の誕生は話題になって然るべきなのに知らない。
だから興味を持ったのである。
「あとは最近敵対している宗教もあるので……」
水を信仰している宗教というのもいくつか種類がある。
水を広く司っているのがウォークア教であるが、例えば海とか湖とかを信仰しているところもあれば、全く異なる水の神を信仰している人たちもいる。
ウォークア教は水を信仰する宗教として主な宗教であって、他の水を信仰する宗教にも信者を広げて自分たちがメインの宗教になりたいなんて野望を持っている人や宗教がいる。
最近そうした野望を持って攻撃してくる宗派があった。
だから正体不明の聖職者をほんの少し警戒もしたのである。
「大変ですね」
「コユキ、良い子!」
「そうですね……コユキさんを疑うなんて私が馬鹿でした。ごめんなさい」
「だいじょーぶ!」
「まあ本人もこう言っているし気にしないでください」
「ありがとうございます、コユキさん」
「ちゃん!」
「コユキ……ちゃん」
みんなコユキをコユキちゃんと呼ぶ。
最初ミルトもコユキちゃんと言いかけていた。
コユキ自身もさんなんて他人行儀な言われ方よりも、ちゃん付けの方がいい。
大海のような広い心にリュードもホッコリする。
「そんなに警戒するほど狙われているの?」
「最近水に関わる宗教の一つの過激派の動きが活発化しているらしいのです。具体的に何かされたのでもないですが、こちらから手を出すわけにもいかないですしピリついているんです」
肩をすくめるミルト。
そこらへんのいさかいに巻き込まれたくはないけど、嫌だと言っても相手には通じないだろう。
「水神ウォークアも大変だにゃ」
「ケーフィス教の聖者様がいらっしゃったのって……」
「ニャロでいいにゃ。私がここに来たのは偶然でヴァネルアが困っているのを見過ごせなかったからにゃ!」
「なるほど。それは非常に助かります」
いかにもケーフィス教らしいニャロはニコリと笑顔を浮かべる。
ウォークア教も清らかな精神や流れる水のようにゆっくりでも前に進むことを信条としているがニャロのような積極性まではない。
困っている人を見過ごせないなんて理由、他の人なら疑うがケーフィス教の聖者ならと思える。
「ケーフィス様に感謝を」
「これは私が個人的にやってることだから私に感謝するにゃ! ひいてはリュードに感謝するにゃ!」
「ははっ、ニャロさんありがとうございます。リュードさんたちも教会の関係者ですか?」
「ケーフィス神の良き友にゃ」
良き友とは、その宗教と協力関係にある者のことを指す言葉である。
怪しい言葉ではないが、細かな事情には突っ込んでくれるなという遠回しな意図が含まれている。
友ではなく良き友なので関係性の深さもアピールできる。
そう言われてはミルトと深く踏み込むことはできない。
「何はともあれ、心強いお味方で安心しました。調査につきましてよろしくお願い申し上げます」
何はともあれニャロも含めてリュードたちも悪人ではなさそうだとミルトは思った。
調査に協力してくれる貴重な人材でもある。
「依頼はもう引き受けたんだ。協力は惜しまないさ」
うやうやしく頭を下げるミルトにリュードも笑顔で答えたのであった。
ーーーーー
「シャロエア……せ、聖者様でしたか」
ケーフィス教では聖職者になると思わず拝命と言って名前が与えられる。
それは聖職者に画一的に与えられるもので、女性の聖者だとシャロエアになる。
聞いてパッと聖者だと分かるあたり、ミルトも真面目に勉強している聖職者だ。
もし他の人が自分の名前でもないのに勝手にシャロエアを名乗ると教会に追われることになる。
ミルトはニャロが聖職者なことは分かっていた。
戦いの中で神聖力を使っているし、振る舞いが冒険者っぽくない。
しかしこんな場面で聖者ですと名乗らないし、聖者だと名乗るも同然のシャロエアだとも名乗らないのが普通である。
途端にミルトは緊張しだす。
神に愛された者である聖者は尊敬されるべき者であり、他宗教であっても格式は聖者がはるかに高い者である。
「失礼をお許しください」
「別に失礼なことなんてないにゃ。私もコユキのことを知らなかったらきっと不思議に思うにゃ」
聖派の一派として見られることもあるウォークア教は、その職責で考えるとケーフィス教とあまり変わらない。
高位神官と聖者では聖者の方が格上になる。
ただ失礼だったところで他宗教だし、ニャロに出来ることなんて教会を通じて文句を言うぐらいしかない。
しかし聖者であることを鼻にかけてそんなことをするニャロでもない。
「コユキさんの方が聖者かなと思いまして……」
神聖力を扱うミルトには、コユキの神聖力がいかに強いか分かっている。
しかしこんな幼くて強い力を持つ聖者がいれば噂になっているはずだ。
特にコユキは見た目も良くて、聖者だったなら絶対に耳に届くほどの存在になっていると確信を持って言える。
けれどコユキのことをミルトは知らない。
新しい聖者の誕生は話題になって然るべきなのに知らない。
だから興味を持ったのである。
「あとは最近敵対している宗教もあるので……」
水を信仰している宗教というのもいくつか種類がある。
水を広く司っているのがウォークア教であるが、例えば海とか湖とかを信仰しているところもあれば、全く異なる水の神を信仰している人たちもいる。
ウォークア教は水を信仰する宗教として主な宗教であって、他の水を信仰する宗教にも信者を広げて自分たちがメインの宗教になりたいなんて野望を持っている人や宗教がいる。
最近そうした野望を持って攻撃してくる宗派があった。
だから正体不明の聖職者をほんの少し警戒もしたのである。
「大変ですね」
「コユキ、良い子!」
「そうですね……コユキさんを疑うなんて私が馬鹿でした。ごめんなさい」
「だいじょーぶ!」
「まあ本人もこう言っているし気にしないでください」
「ありがとうございます、コユキさん」
「ちゃん!」
「コユキ……ちゃん」
みんなコユキをコユキちゃんと呼ぶ。
最初ミルトもコユキちゃんと言いかけていた。
コユキ自身もさんなんて他人行儀な言われ方よりも、ちゃん付けの方がいい。
大海のような広い心にリュードもホッコリする。
「そんなに警戒するほど狙われているの?」
「最近水に関わる宗教の一つの過激派の動きが活発化しているらしいのです。具体的に何かされたのでもないですが、こちらから手を出すわけにもいかないですしピリついているんです」
肩をすくめるミルト。
そこらへんのいさかいに巻き込まれたくはないけど、嫌だと言っても相手には通じないだろう。
「水神ウォークアも大変だにゃ」
「ケーフィス教の聖者様がいらっしゃったのって……」
「ニャロでいいにゃ。私がここに来たのは偶然でヴァネルアが困っているのを見過ごせなかったからにゃ!」
「なるほど。それは非常に助かります」
いかにもケーフィス教らしいニャロはニコリと笑顔を浮かべる。
ウォークア教も清らかな精神や流れる水のようにゆっくりでも前に進むことを信条としているがニャロのような積極性まではない。
困っている人を見過ごせないなんて理由、他の人なら疑うがケーフィス教の聖者ならと思える。
「ケーフィス様に感謝を」
「これは私が個人的にやってることだから私に感謝するにゃ! ひいてはリュードに感謝するにゃ!」
「ははっ、ニャロさんありがとうございます。リュードさんたちも教会の関係者ですか?」
「ケーフィス神の良き友にゃ」
良き友とは、その宗教と協力関係にある者のことを指す言葉である。
怪しい言葉ではないが、細かな事情には突っ込んでくれるなという遠回しな意図が含まれている。
友ではなく良き友なので関係性の深さもアピールできる。
そう言われてはミルトと深く踏み込むことはできない。
「何はともあれ、心強いお味方で安心しました。調査につきましてよろしくお願い申し上げます」
何はともあれニャロも含めてリュードたちも悪人ではなさそうだとミルトは思った。
調査に協力してくれる貴重な人材でもある。
「依頼はもう引き受けたんだ。協力は惜しまないさ」
うやうやしく頭を下げるミルトにリュードも笑顔で答えたのであった。
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