「私は女王蜂なんですが母もまだ健在なので同じ巣に女王は二匹いらないと言われて、自分のお家を探すための旅に出ました。別にそんなのいいからダラダラさせてくれればよかったのに……」
ふとリュードは前世における蜂の生態を思い出した。
新たなる女王蜂の巣立ちを迎えてどこかの家の軒先に巣を作り、それを駆除するなんてのは時折耳にする話だ。
このハチも新たなる女王蜂として生まれてきたのだが、ご覧の通りなんの因果か進化をして人化をして産まれてきた。
そのために大切に育てられてきたのだけど、結果超ダラけるハチになってしまったのだ。
だから怒った母女王蜂に早く自分の巣を作れと追い出されたのである。
「別に他のものを傷つけたいとかそんなことは一切ないんです」
少し落ち着いたけど、まだちょっと泣きながらハチが話を続ける。
そうしてハチは無理矢理家を追い出された。
母親の優しさだろうかキラービーも何体も付けてくれてハチは家を探し始めた。
最初はどこか適当なところに家を作ろうと思っていたのだけど、元々棲んでいた場所にあまりに近すぎるのも良くないと大キラービーに咎められた。
いくつか目星をつけていた場所もあったのに、怒られたので諦めてあっちへふらふらこっちへふらふらとしていた。
当然ながら女王蜂を守るためにキラービーは警戒体制だったし、人もキラービーを見ると討伐しようとしてきたりもした。
そうしてたどり着いたのがこの鉱山だった。
すでにいた魔物を追い出して中に入ってみると思いの外広い。
ちょっと自然は少ないけど周りに人の姿もなく案外棲むのに悪くなさそうだと思った。
魔物が棲んでいたぐらいだし問題もないだろうと考えていたのだ。
「私はただ静かに、ダラダラと暮らしたいんですぅ〜!」
キラービーの中には人を襲いエサにすべきだと主張する過激派もいるけど、ハチは人と敵対すると面倒なことになると分かっていた。
穏健派ともいうのか、ハチは人と戦うことに関しては慎重な態度だった。
「寝てて起きたらみんながご飯運んできてくれるのが理想でしたぁ!」
慎重というより出不精で危険なことを避けたいだけであった。
進化が故に高度な知能を持つハチは働きたくなく、人は厄介なことを分かっていたのである。
「……つまりは自分たちから人は襲ってないと?」
「誰だって家に入ってこられたら守ります!」
泣き顔でハチはリュードの説得を試みる。
「うーん、確かにそうかもしれないけど」
確かにハチの意見も正しいけれど、そもそもその家もドワーフの鉱山であり不当占拠だ。
不当に魔物に占拠されていたものを魔物を追い払って占拠した。
ただこの世界において世界統一の機関があったりするわけでもなく、特にドワガルに関しては国としての境界線が曖昧なところはある。
自分たちで管理しきれずに魔物に取られてしまった鉱山をハチたちが自分で魔物を追い払ったので、自分のものとして占拠したというのも一定程度の正当性もあるような気がしないでもない。
「私たちは自分を守ろうとしたんです……」
見方を変えると世界の見え方が分かってくる。
リュードたちからすると鉱山に棲みついた魔物を倒そうとしていたけど、魔物からすると棲家に足を踏み入れてきた侵入者になる。
一々相手側に立って物事を考えていたら何も進まなくなってしまうのでそんなことしてはいられないけど、言葉の通じる相手にそう言われると悪い気もしてくる。
もう完全にリュードの方も戦意を失っていた。
困ったようにリザーセツを見るが、リザーセツも困ったように肩をすくめる。
人化し、人の言葉を操ることのできる魔物は世界広しといえど滅多に会うものではない。
しかも話が通じて敵意はない。
みんなどうしたらいいのか分からないでいた。
「何で抵抗をやめたんだ?」
キラービーたちはリュードの前に立ちはだかったけれど、攻撃は仕掛けてこなかった。
あの状況で襲われたらリュードぐらいは倒せていたかもしれない。
ただキラービーたちはそうしなかった。
「……私たちは負けました。私たちの命はあなた様のものです。ばあやは私を守ろうとしてくれただけであなた様を害そうというつもりはありませんでした」
「なに……?」
ハチはリュードに向き直ると頭を下げた。
魔物の世界は魔人族の世界よりも圧倒的な弱肉強食の関係がある。
強いものが全てを奪い所有し、弱いものは強いものに支配されるか無関心でいてもらうしかない。
ハチはリュードに負けた。
周りのキラービーも手を出さないタイマンで完膚なきまでに負けたのだ。
つまりリュードはハチに勝って全てを手に入れた。
ハチもその支配下にあるキラービーもである。
「ですので私たちが今後どうするかはあなた様がお決めください」
「もし死ねと言ったら?」
「死にます。元々勝てないからこうなったのです。死にたくないと抵抗しても殺されてしまうのですから大人しく死にます」
「なんだと……」
リュードは眩暈がする気分だった。
元より魔物の世界は人の世界よりもはるかに厳しい。
弱ければほとんどの場合死である。
今こうして勝ったリュードがすぐさま命を奪わないだけでもハチは密かに感動していた。
強くて立派な、オス。
死にたくはないがそんな強者が死ねと命じるなら苦痛がないように大人しく従う。
ふとリュードは前世における蜂の生態を思い出した。
新たなる女王蜂の巣立ちを迎えてどこかの家の軒先に巣を作り、それを駆除するなんてのは時折耳にする話だ。
このハチも新たなる女王蜂として生まれてきたのだが、ご覧の通りなんの因果か進化をして人化をして産まれてきた。
そのために大切に育てられてきたのだけど、結果超ダラけるハチになってしまったのだ。
だから怒った母女王蜂に早く自分の巣を作れと追い出されたのである。
「別に他のものを傷つけたいとかそんなことは一切ないんです」
少し落ち着いたけど、まだちょっと泣きながらハチが話を続ける。
そうしてハチは無理矢理家を追い出された。
母親の優しさだろうかキラービーも何体も付けてくれてハチは家を探し始めた。
最初はどこか適当なところに家を作ろうと思っていたのだけど、元々棲んでいた場所にあまりに近すぎるのも良くないと大キラービーに咎められた。
いくつか目星をつけていた場所もあったのに、怒られたので諦めてあっちへふらふらこっちへふらふらとしていた。
当然ながら女王蜂を守るためにキラービーは警戒体制だったし、人もキラービーを見ると討伐しようとしてきたりもした。
そうしてたどり着いたのがこの鉱山だった。
すでにいた魔物を追い出して中に入ってみると思いの外広い。
ちょっと自然は少ないけど周りに人の姿もなく案外棲むのに悪くなさそうだと思った。
魔物が棲んでいたぐらいだし問題もないだろうと考えていたのだ。
「私はただ静かに、ダラダラと暮らしたいんですぅ〜!」
キラービーの中には人を襲いエサにすべきだと主張する過激派もいるけど、ハチは人と敵対すると面倒なことになると分かっていた。
穏健派ともいうのか、ハチは人と戦うことに関しては慎重な態度だった。
「寝てて起きたらみんながご飯運んできてくれるのが理想でしたぁ!」
慎重というより出不精で危険なことを避けたいだけであった。
進化が故に高度な知能を持つハチは働きたくなく、人は厄介なことを分かっていたのである。
「……つまりは自分たちから人は襲ってないと?」
「誰だって家に入ってこられたら守ります!」
泣き顔でハチはリュードの説得を試みる。
「うーん、確かにそうかもしれないけど」
確かにハチの意見も正しいけれど、そもそもその家もドワーフの鉱山であり不当占拠だ。
不当に魔物に占拠されていたものを魔物を追い払って占拠した。
ただこの世界において世界統一の機関があったりするわけでもなく、特にドワガルに関しては国としての境界線が曖昧なところはある。
自分たちで管理しきれずに魔物に取られてしまった鉱山をハチたちが自分で魔物を追い払ったので、自分のものとして占拠したというのも一定程度の正当性もあるような気がしないでもない。
「私たちは自分を守ろうとしたんです……」
見方を変えると世界の見え方が分かってくる。
リュードたちからすると鉱山に棲みついた魔物を倒そうとしていたけど、魔物からすると棲家に足を踏み入れてきた侵入者になる。
一々相手側に立って物事を考えていたら何も進まなくなってしまうのでそんなことしてはいられないけど、言葉の通じる相手にそう言われると悪い気もしてくる。
もう完全にリュードの方も戦意を失っていた。
困ったようにリザーセツを見るが、リザーセツも困ったように肩をすくめる。
人化し、人の言葉を操ることのできる魔物は世界広しといえど滅多に会うものではない。
しかも話が通じて敵意はない。
みんなどうしたらいいのか分からないでいた。
「何で抵抗をやめたんだ?」
キラービーたちはリュードの前に立ちはだかったけれど、攻撃は仕掛けてこなかった。
あの状況で襲われたらリュードぐらいは倒せていたかもしれない。
ただキラービーたちはそうしなかった。
「……私たちは負けました。私たちの命はあなた様のものです。ばあやは私を守ろうとしてくれただけであなた様を害そうというつもりはありませんでした」
「なに……?」
ハチはリュードに向き直ると頭を下げた。
魔物の世界は魔人族の世界よりも圧倒的な弱肉強食の関係がある。
強いものが全てを奪い所有し、弱いものは強いものに支配されるか無関心でいてもらうしかない。
ハチはリュードに負けた。
周りのキラービーも手を出さないタイマンで完膚なきまでに負けたのだ。
つまりリュードはハチに勝って全てを手に入れた。
ハチもその支配下にあるキラービーもである。
「ですので私たちが今後どうするかはあなた様がお決めください」
「もし死ねと言ったら?」
「死にます。元々勝てないからこうなったのです。死にたくないと抵抗しても殺されてしまうのですから大人しく死にます」
「なんだと……」
リュードは眩暈がする気分だった。
元より魔物の世界は人の世界よりもはるかに厳しい。
弱ければほとんどの場合死である。
今こうして勝ったリュードがすぐさま命を奪わないだけでもハチは密かに感動していた。
強くて立派な、オス。
死にたくはないがそんな強者が死ねと命じるなら苦痛がないように大人しく従う。


