「リュードさん1人ならなんとかなるはずです……こんな……こんなヒドイことを誰も知らずに、誰も止めないのはいけないことです!」
ここまでリュードの助けがなければ死んでいた。
この死体の山の死体の一つになっていただろう。
これ以上リュードの足かせになりたくはないという思いがあった。
しかし今はそうではなく、この現場を見てトーイはひどく胸を痛めていた。
人間の所業ではない。
まさしく悪魔の所業。
こんなものを放っておいていいのか、誰かが伝えねばならない、もしかしたらミュリウォにも悪魔の手が伸びてしまうかもしれない。
「こんなこと見過ごせません。誰かが生きて、伝えなきゃ! 悪魔が本当に関わっているなら、早く止めなきゃ死体の数はこんなものじゃ済まなくなる!」
ミュリウォの笑った顔がトーイの頭をチラついた。
諦めたくはない。
リュードに見捨ててほしくはないが、止めなきゃ自分を支えてくれたミュリウォが傷ついてしまう。
「リュードさん……逃げてください。逃げて……うっ!」
「おい、黙れ!」
トーイの声が大きくなりすぎてバレてしまった。
兵士が怪訝そうな顔をしてトーイのことを槍の柄で殴る。
「だから、だから私のことは構わないでください。じゃないと……この悪意はみんなを、ミュリウォを飲み込んでしまう気がするんです」
トーイは額から血を流しながらも話すのをやめない。
戦いと無縁で、何もできなかったトーイがミュリウォのために男を見せた。
あまりにも悲壮な決意であるとリュードは感じる。
返す言葉が見つからなくてリュードはただ黙ってうなずき返した。
だかしかし、それは逃げれたらの話である。
そうしている間にまた別の奴隷が槍を突きつけられて窪みの縁に跪かされている。
何人かの奴隷が同様に跪かされていて、リュードはその目的がわからない。
殺すでもなくただ並べてどうしようというのか。
「ふふっ、もう少しかしら。私の、永遠の美しさがすぐそこまできているわ!」
若作りな化粧と服装をやめて、簡素な白い装束に身を包んでいるガマガエルが現れた。
「さあ……私の永遠の美しさの始まりよ!」
「うっ!」
ガマガエルが血の中に何かを落とした瞬間突然の耳鳴りとひどい頭痛に襲われた。
リュードは頭を抱えて、歯を食いしばってその痛みに耐える。
「リュードさん?」
「な、なんだ!」
縁に跪かされた奴隷たちがざわつき始める。
血の池が沸騰したように泡立ち始めた。
「はははっ! 来たわ、来たのよ!」
耳鳴りがひどくてリュードには何も聞こえていない。
他にも頭を抱えている奴隷が何人かいるがリュードは中でも酷かった。
とても気持ち悪い魔力を感じる。
魔力の感知能力にも優れたリュードは悪意を孕んだ巨大な魔力を感じ、頭が割れそうな痛みに襲われていた。
血と死体が浮き上がって空中で一塊となる。
池になるほどの量があった血と山になっていた死体が丸い球となって、不愉快な音を立てながらグンッと圧縮される。
赤黒い死体と血の球は小さくなっていき、最後には人の頭ほどの大きさにまでなった。
「私の依代はどこだ?」
声がした。
どこから聞こえたか分からないが全員に聞こえていて、皆がキョロキョロと周りを見る。
「ああ! 周りにいる者の中からお好きな体をお選びください!」
「粋な計らいだな」
ようやく声の元がどこなのか分かった。
あの赤黒い球からだ。
目がない赤黒いただの玉なのになぜか上から下まで見られたような、不快な感覚があってリュードの背中に冷たいものが走ってゾクリとした。
「貴様だ、貴様がいい」
赤黒い球が誰のことを指しているのか、誰にも分からなかった。
「リュードさん! ……ダメだ!」
赤黒い球がリュードの方に動き出して、貴様という言葉がリュードのことを指していたのだとトーイは気づいた。
だがリュードは頭を抱えたまま動かない。
「ト、トーイ……?」
「き、貴様ぁー! なぜ、デルゼウズ様の邪魔をしたーーーー!」
リュードは何かに強く押されてよろけた。
同時に頭痛と耳鳴りが治って、荒く肩で息をしながらリュードが薄く目を開けるとぶつかってきたのはトーイであった。
「ト、トーイ……トーイ!」
ゆっくりと腹に赤黒い球が吸い込まれていっているトーイにリュードが慌てたように声をかける。
「リュードさんは……希望です」
トーイは刹那の判断でリュードを強く押した。
リュードに向かっていた赤黒い球は突然リュードとトーイが入れ替わり、止まることもできずにトーイにぶつかった。
そして何故かトーイの中に吸い込まれていく。
「おい、トーイ! 大丈夫か!」
明らかに尋常じゃない大量の死体と血を押し固めた気持ちの悪いものがトーイの中に入ってしまった。
トーイに駆け寄ったリュードが揺すってみてもトーイは何の反応も示さなくなってしまった。
ガマガエルは地団駄を踏んで怒っているが、トーイに赤黒い球が吸い込まれてしまったために下手に手を出せないでいる。
「触るな……」
「え……?」
「その汚い手で私に触るなと言っている!」
完全に不意を突かれた。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
トーイの拳がリュードに当たって後ろに飛んでいく。
地面に寝た状態であったはずなのにとんでもない威力でリュードの体が地面から浮き上がっていた。
短い時間の上昇、そして落下。
背中を激しく地面に打ち付けて、肺から空気が勝手に出ていく。
痛みに悶えながらリュードは何があったのだと思考した。
「ぐっ……ふっ……」
体に触れただけで激怒する人ではなかった。
それに怒ったところで寝転がったまま人を殴り飛ばせるほどの怪力などトーイにはなかった。
おかしい。
ここまでリュードの助けがなければ死んでいた。
この死体の山の死体の一つになっていただろう。
これ以上リュードの足かせになりたくはないという思いがあった。
しかし今はそうではなく、この現場を見てトーイはひどく胸を痛めていた。
人間の所業ではない。
まさしく悪魔の所業。
こんなものを放っておいていいのか、誰かが伝えねばならない、もしかしたらミュリウォにも悪魔の手が伸びてしまうかもしれない。
「こんなこと見過ごせません。誰かが生きて、伝えなきゃ! 悪魔が本当に関わっているなら、早く止めなきゃ死体の数はこんなものじゃ済まなくなる!」
ミュリウォの笑った顔がトーイの頭をチラついた。
諦めたくはない。
リュードに見捨ててほしくはないが、止めなきゃ自分を支えてくれたミュリウォが傷ついてしまう。
「リュードさん……逃げてください。逃げて……うっ!」
「おい、黙れ!」
トーイの声が大きくなりすぎてバレてしまった。
兵士が怪訝そうな顔をしてトーイのことを槍の柄で殴る。
「だから、だから私のことは構わないでください。じゃないと……この悪意はみんなを、ミュリウォを飲み込んでしまう気がするんです」
トーイは額から血を流しながらも話すのをやめない。
戦いと無縁で、何もできなかったトーイがミュリウォのために男を見せた。
あまりにも悲壮な決意であるとリュードは感じる。
返す言葉が見つからなくてリュードはただ黙ってうなずき返した。
だかしかし、それは逃げれたらの話である。
そうしている間にまた別の奴隷が槍を突きつけられて窪みの縁に跪かされている。
何人かの奴隷が同様に跪かされていて、リュードはその目的がわからない。
殺すでもなくただ並べてどうしようというのか。
「ふふっ、もう少しかしら。私の、永遠の美しさがすぐそこまできているわ!」
若作りな化粧と服装をやめて、簡素な白い装束に身を包んでいるガマガエルが現れた。
「さあ……私の永遠の美しさの始まりよ!」
「うっ!」
ガマガエルが血の中に何かを落とした瞬間突然の耳鳴りとひどい頭痛に襲われた。
リュードは頭を抱えて、歯を食いしばってその痛みに耐える。
「リュードさん?」
「な、なんだ!」
縁に跪かされた奴隷たちがざわつき始める。
血の池が沸騰したように泡立ち始めた。
「はははっ! 来たわ、来たのよ!」
耳鳴りがひどくてリュードには何も聞こえていない。
他にも頭を抱えている奴隷が何人かいるがリュードは中でも酷かった。
とても気持ち悪い魔力を感じる。
魔力の感知能力にも優れたリュードは悪意を孕んだ巨大な魔力を感じ、頭が割れそうな痛みに襲われていた。
血と死体が浮き上がって空中で一塊となる。
池になるほどの量があった血と山になっていた死体が丸い球となって、不愉快な音を立てながらグンッと圧縮される。
赤黒い死体と血の球は小さくなっていき、最後には人の頭ほどの大きさにまでなった。
「私の依代はどこだ?」
声がした。
どこから聞こえたか分からないが全員に聞こえていて、皆がキョロキョロと周りを見る。
「ああ! 周りにいる者の中からお好きな体をお選びください!」
「粋な計らいだな」
ようやく声の元がどこなのか分かった。
あの赤黒い球からだ。
目がない赤黒いただの玉なのになぜか上から下まで見られたような、不快な感覚があってリュードの背中に冷たいものが走ってゾクリとした。
「貴様だ、貴様がいい」
赤黒い球が誰のことを指しているのか、誰にも分からなかった。
「リュードさん! ……ダメだ!」
赤黒い球がリュードの方に動き出して、貴様という言葉がリュードのことを指していたのだとトーイは気づいた。
だがリュードは頭を抱えたまま動かない。
「ト、トーイ……?」
「き、貴様ぁー! なぜ、デルゼウズ様の邪魔をしたーーーー!」
リュードは何かに強く押されてよろけた。
同時に頭痛と耳鳴りが治って、荒く肩で息をしながらリュードが薄く目を開けるとぶつかってきたのはトーイであった。
「ト、トーイ……トーイ!」
ゆっくりと腹に赤黒い球が吸い込まれていっているトーイにリュードが慌てたように声をかける。
「リュードさんは……希望です」
トーイは刹那の判断でリュードを強く押した。
リュードに向かっていた赤黒い球は突然リュードとトーイが入れ替わり、止まることもできずにトーイにぶつかった。
そして何故かトーイの中に吸い込まれていく。
「おい、トーイ! 大丈夫か!」
明らかに尋常じゃない大量の死体と血を押し固めた気持ちの悪いものがトーイの中に入ってしまった。
トーイに駆け寄ったリュードが揺すってみてもトーイは何の反応も示さなくなってしまった。
ガマガエルは地団駄を踏んで怒っているが、トーイに赤黒い球が吸い込まれてしまったために下手に手を出せないでいる。
「触るな……」
「え……?」
「その汚い手で私に触るなと言っている!」
完全に不意を突かれた。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
トーイの拳がリュードに当たって後ろに飛んでいく。
地面に寝た状態であったはずなのにとんでもない威力でリュードの体が地面から浮き上がっていた。
短い時間の上昇、そして落下。
背中を激しく地面に打ち付けて、肺から空気が勝手に出ていく。
痛みに悶えながらリュードは何があったのだと思考した。
「ぐっ……ふっ……」
体に触れただけで激怒する人ではなかった。
それに怒ったところで寝転がったまま人を殴り飛ばせるほどの怪力などトーイにはなかった。
おかしい。


