「おじさん、手助けするから魔物の気をひいて!」

「お、おじ……チッ、分かった!」

 ウロダは突然現れたルフォンたちに困惑していた。
 よく見ると首輪もしておらず奴隷には見えない。

 おじさんなんて言われて動揺するが、首輪をしていないということは魔力を扱えるということであり、魔物を倒せる希望があるということである。
 得体の知れない乱入者に迷ったが、この機会を逃してはいけない。

 おじさんと言われたことは納得していないものの文句は飲み込んでウロダはアリに切りかかる。

「こっちだ、この野郎!」

 切れないことは分かっているので気をひくために叩きつけるように何回も剣を振り下ろす。
 切れないので反動が大きく手に伝わり、痺れるような衝撃に剣を手放しそうになるのを耐える。

 そもそもこんな大型の剣はウロダの得意武器ではないので扱いも乱雑だ。
 アリの意識が離れているルフォンたちよりも近くにいるウロダの方に向く。

「いいよ、おじさん!」

「おじさんって言うな!」

 おじさんと言うなと言われても名前も知らないしとラストは思った。

「クソッ、さっさとしてくれ! あんま長いことは持たないぞ!」

 アリの攻撃をなんとか防ぐウロダだがいっぱいいっぱいなことは見てわかる。

「分かってる!」

 アリの後ろに回り込むルフォンはナイフの1本に魔力を集中させる。
 ウロダを狙っているアリは気配を殺して素早く近づいたルフォンに気づいていない。

「やっ!」
 
 ルフォンは狙いすましてナイフを振る。
 自分が初手で付けた小さい傷に寸分違わずナイフを当てた。

 魔力を多く込めずしても傷ぐらいはついた。
 ならば魔力をしっかり込めて傷に当てればナイフでもアリを切り裂くことができる。

 足を切り裂かれてアリは耳障りな叫び声を上げる。
 緑色の血を撒き散らし、身を悶えさせ、大きな隙を作る。

「結構硬いみたいだけど、ここはどうかな?」

 当然はなれて弓矢を構えるラストに対してはほとんど注意は向けられていない。
 おかげで落ち着いてアリを観察して隙を狙うことができた。

 目一杯に引き絞った手を離す。
 一瞬の隙を狙った一矢だった。

 相手の動きを読んだラストの矢はアリの関節に向かって飛ぶ。
 足を曲げて露出した関節の柔らかいところは矢を弾くこともできず深々と突き刺さった。

 ラストはアリが足を曲げた瞬間を狙ったのだ。
 さらに矢に込められた魔力が爆発する。

 柔らかい体の内側から爆発して抵抗もできずにもう一本足が吹き飛ぶ。
 体の表面が固くても生き物は体の中が柔らかかったりする。

 このアリも中が非常に柔らかくて脆く、抵抗力がなかった。
 短い間に足を2本も失ってアリは痛みに暴れ回る。

「やるじゃねえか!」

 アリはダメージを嫌がって狙いも定めずにとりあえず攻撃する。
 力は強いが乱雑になった攻撃を防ぎながらウロダは思わず感心してしまう。

 魔力が使えるということもあるが純粋に2人の実力が高く、強いのだとウロダは思った。

「ラスト、頭狙うよ!」

「りょーかい!」

 ここでそれほど時間を浪費してはいられない。
 一分一秒でも早くリュードを探し出すために手早く終わらせる。

 今度はルフォンがアリの気をひく。
 懐に入り込み危なげなくアリの攻撃をかわしながらアリの体の向きを誘導していく。

 魔力が込められたナイフはアリの外骨格を切り裂き、アリに危機感を募らせる。
 ルフォンは位置を調整してアリの体の向きをラストの方に向けさせた。

「行くよ!」

 アリの攻撃に合わせてルフォンはすぐさま地面を蹴って飛び上がる。
 攻撃をかわしながら両手のナイフに魔力を込めてクロスするようにアリの頭を切りつける。

 弱点である頭の中を守っているからそれなりに固く、アリの頭には十字の切れ込みが入っただけだった。

「オッケー!」

 ルフォンに続いてラストが矢を放つ。
 狙いはルフォンがつけた十字の傷のど真ん中。

 多くの魔力を込めた矢が飛んでいき、アリの頭に当たる。
 今度の矢は爆発させない。

 今はなったのはただ魔力で強化した矢である。
 貫通力の高まった矢は見事に十字の傷の真ん中に当たり、固い外骨格に突き刺さって頭の中にまで到達した。

 頭の中が燃えるような痛みを感じてアリが暴れる。
 激しく頭を振るが深々と突き刺さった矢は抜けるはずもない。

 地面に頭を擦り付けるが矢の出ているところが折れるだけで逆に深く差し込まれて回収すら不可能となる。
 ルフォンたちはアリから距離を取るがアリにはもはやルフォンたちも見えていない。

 壁に頭をぶつけたりひどく叫んだりとアリは暴れていたが段々とフラフラとし始めて、最後にもう一度壁に頭を擦り付けるようにしながら地面に倒れて動かなくなった。

「た、倒した……のか?」

「そうみたいだね」

「た、助かったー!」

 ウロダは体を投げ出して地面に大の字になって寝転ぶ。
 剣を振り回していた腕はパンパンになっていて体力の限界だった。

 安易に誘いに乗って魔物になんか挑まなければよかったと後悔した。
 ルフォンたちが来なければアリの餌になっていたところだった。

 問題なのはこれは魔物の討伐とみなされるのかであるがこの際どうでも良い。
 生きてることが大事だと額の汗を拭う。

「あんたたち、一体何者だい?」

 物好きだってこんなところに来やしない。
 息を整えながらウロダはルフォンたちに視線を向ける。

「私たち人を探してるの」

「人? こんなところまで探しに来るとはご苦労なこったな……」

「こう、頭に黒いツノがある人を知りませんか?」

「ツノだって? そういや、リュードも頭にツノがあったな」

「リュード!」

「リューちゃん」

「なんだなんだ、いきなり大きな声出して……あー、なるほど」

 ルフォンとラストのリアクションに驚いたウロダだったがすぐにリュードが言っていたことを思い出した。
 一緒に旅している奴がいて、きっと探してくれているって。
 
 ただこんな若くて可愛い女の子2人も連れて旅しているとは聞いていなかった。
 少しばかり嫉妬してしまう。