「早く行こっ!」
リュードに気づくとルフォンは手を振りながら駆け寄ってくる。
飛びかかってくるかもと少しだけ身構えたけどルフォンはリュードの手を取って引っ張り出した。
半ば引きずられるように走りながら村の北側にある森の中に入っていく。
北側には村から数分のところに川が流れている。
そこから地面を掘ってため池を作って水を溜めて使っていて薬草栽培や畑、あるいは生活用水となっている。
水路やため池の管理のために川までの魔物は根こそぎ狩られていて比較的安全でもある。
ただ目指すのは川ではない。
1度川まで出はするけどそこから緩やかに湾曲して流れる川に沿って上流の方に向かって歩いていく。
川沿いは川のおかげか少し涼しく歩いていて心地よい。
歩いていくと程なくして川は山とぶつかる。
ぽっかりと空いた洞窟の奥からこれまで辿ってきた清流が懇々と流れていく。
洞窟を流れる川の横にはギリギリ人が通れるほどのスペースがあってそこを歩いていく。
リュードを先頭にして洞窟に入っていくと中は明かりが必要ないほど明るい。
魔力に反応して光る光魔石が洞窟内の岩肌に露出していて移動に十分なほどに内部を照らしてくれている。
淡く光る石がキラキラと輝く光景は非常に幻想的である。
洞窟の中は肌寒いくらい冷んやりとしていて、滑りやすいので慎重に進んでいく。
真っ直ぐに進んでいくだけではなく曲がったり回ったりしながら上に登っていっていて、いつの間にか横を流れていたはずの川はなくなっていた。
道に迷うことはない。ところどころ壁に杭が打ち込んであってそれを目印に進んでいけばいいのである。
「頭気をつけろよ」
「うん、ありがとう」
子供の頃だったらそのまま通れた道も今では屈んで通らねばならずリュードは自分の体の成長を実感する。
横向きになって通らなきゃいけないところがあっただけで他に苦労することもなく、洞窟の終わりにリュードたちは着いた。
洞窟から出た瞬間風がリュードたちの頬を撫で、洞窟の薄暗さから急に外の太陽の眩しさにリュードとルフォンは目を細めた。
家を出た時はまだまだ登り始めたばかりだった太陽も真上に来ていた。
ヒンヤリした洞窟から出たので顔を撫でる風が暖かく感じられる。
「わぁ……」
川の通る山の中腹にある開けた場所。
紫の背の低い花が一面に広がっている。
これがディグラ草。
草と名称されているがイメージされるディグラ草はどちらかといえば花なのである。
春の終わりから夏の始まり頃の短い時間だけ花を咲かせる花で、心を落ち着かせてくれる香りが風に乗って運ばれてくる。
ここはある意味リュードとルフォンの思い出の場所なのでもある。
「んー……気持ちいい…………」
確かに気温も暖かく空気も澄んでいて花の香りも強すぎず、時折吹く風も心地よくて音も風とそれに揺れる花の優しい音ぐらいのものしかない。
「お昼、作ってきたんだけど、食べない?」
持ってきたカゴを両手で持ち上げてリュードをうかがうように見上げてくるルフォン。
洞窟にいたこともあって時間が分かりにくいがもう昼を過ぎた頃になっていた。
歩き通しだったのでお腹の具合も空いている。
「そうだな、お腹空いたよ」
「えっと……ここでいっか」
見渡しても一面ディグラ草であって花を潰さねば腰を下ろせるスペースは見当たらない。
洞窟出口付近のわずかに生えていないところでルフォンが持ってきた昼食を取ることになった。
「はい、リューちゃん」
「ありがとう」
お尻が汚れるのもいとわずペタンと地面に座るルフォンはカゴからサンドイッチを取り出してリュードに渡した。
硬めのパンにお肉と野菜を挟んだサンドイッチは食べ応えもあって美味しい。
「美味しいよ」
「良かった」
リュードが食べる時にはルフォンはほんの一瞬だけ不安な顔をすることがある。
そんな不安な顔しなくてもルフォンの料理が不味かったことなんて小さい頃のごく一部を除けばほとんどない。
ついつい褒めると同時にルフォンの頭に手が伸びてしまう。
もう習慣である。
ほとんど無意識の行為であるし、ルフォンの方も自然と頭を傾けて差し出してくる。
もうリュードたちもお年頃なのだからこうした行為も控えなきゃいけないなとは思う。
ルフォンも少食ではないのだけどリュードが食べているのを見るのが好きでパッと食べて後はリュードが食べているのを眺めているのがいつもである。
今日もルフォンはささっと食べてリュードがおいしいと言って食べてくれるのをニコニコと見ていた。
「ねえ、覚えてる?」
「……もちろん」
何をとは聞かない。
ここまできて覚えているかどうか聞かれている内容の認識はリュードとルフォンで間違いなく一致している。
こんなに美しい場所だけどここにくることはあまり推奨されたものじゃない。
「あの時私はリューちゃんに命を救われた」
ルフォンは立ち上がりディグラ草の花畑の中に入っていく。
振り返ったその顔はいつもの柔らかい表情とは打って変わって真剣で大人びていて、それでいてディグラ草にも負けないぐらい綺麗に見えた。
リュードに気づくとルフォンは手を振りながら駆け寄ってくる。
飛びかかってくるかもと少しだけ身構えたけどルフォンはリュードの手を取って引っ張り出した。
半ば引きずられるように走りながら村の北側にある森の中に入っていく。
北側には村から数分のところに川が流れている。
そこから地面を掘ってため池を作って水を溜めて使っていて薬草栽培や畑、あるいは生活用水となっている。
水路やため池の管理のために川までの魔物は根こそぎ狩られていて比較的安全でもある。
ただ目指すのは川ではない。
1度川まで出はするけどそこから緩やかに湾曲して流れる川に沿って上流の方に向かって歩いていく。
川沿いは川のおかげか少し涼しく歩いていて心地よい。
歩いていくと程なくして川は山とぶつかる。
ぽっかりと空いた洞窟の奥からこれまで辿ってきた清流が懇々と流れていく。
洞窟を流れる川の横にはギリギリ人が通れるほどのスペースがあってそこを歩いていく。
リュードを先頭にして洞窟に入っていくと中は明かりが必要ないほど明るい。
魔力に反応して光る光魔石が洞窟内の岩肌に露出していて移動に十分なほどに内部を照らしてくれている。
淡く光る石がキラキラと輝く光景は非常に幻想的である。
洞窟の中は肌寒いくらい冷んやりとしていて、滑りやすいので慎重に進んでいく。
真っ直ぐに進んでいくだけではなく曲がったり回ったりしながら上に登っていっていて、いつの間にか横を流れていたはずの川はなくなっていた。
道に迷うことはない。ところどころ壁に杭が打ち込んであってそれを目印に進んでいけばいいのである。
「頭気をつけろよ」
「うん、ありがとう」
子供の頃だったらそのまま通れた道も今では屈んで通らねばならずリュードは自分の体の成長を実感する。
横向きになって通らなきゃいけないところがあっただけで他に苦労することもなく、洞窟の終わりにリュードたちは着いた。
洞窟から出た瞬間風がリュードたちの頬を撫で、洞窟の薄暗さから急に外の太陽の眩しさにリュードとルフォンは目を細めた。
家を出た時はまだまだ登り始めたばかりだった太陽も真上に来ていた。
ヒンヤリした洞窟から出たので顔を撫でる風が暖かく感じられる。
「わぁ……」
川の通る山の中腹にある開けた場所。
紫の背の低い花が一面に広がっている。
これがディグラ草。
草と名称されているがイメージされるディグラ草はどちらかといえば花なのである。
春の終わりから夏の始まり頃の短い時間だけ花を咲かせる花で、心を落ち着かせてくれる香りが風に乗って運ばれてくる。
ここはある意味リュードとルフォンの思い出の場所なのでもある。
「んー……気持ちいい…………」
確かに気温も暖かく空気も澄んでいて花の香りも強すぎず、時折吹く風も心地よくて音も風とそれに揺れる花の優しい音ぐらいのものしかない。
「お昼、作ってきたんだけど、食べない?」
持ってきたカゴを両手で持ち上げてリュードをうかがうように見上げてくるルフォン。
洞窟にいたこともあって時間が分かりにくいがもう昼を過ぎた頃になっていた。
歩き通しだったのでお腹の具合も空いている。
「そうだな、お腹空いたよ」
「えっと……ここでいっか」
見渡しても一面ディグラ草であって花を潰さねば腰を下ろせるスペースは見当たらない。
洞窟出口付近のわずかに生えていないところでルフォンが持ってきた昼食を取ることになった。
「はい、リューちゃん」
「ありがとう」
お尻が汚れるのもいとわずペタンと地面に座るルフォンはカゴからサンドイッチを取り出してリュードに渡した。
硬めのパンにお肉と野菜を挟んだサンドイッチは食べ応えもあって美味しい。
「美味しいよ」
「良かった」
リュードが食べる時にはルフォンはほんの一瞬だけ不安な顔をすることがある。
そんな不安な顔しなくてもルフォンの料理が不味かったことなんて小さい頃のごく一部を除けばほとんどない。
ついつい褒めると同時にルフォンの頭に手が伸びてしまう。
もう習慣である。
ほとんど無意識の行為であるし、ルフォンの方も自然と頭を傾けて差し出してくる。
もうリュードたちもお年頃なのだからこうした行為も控えなきゃいけないなとは思う。
ルフォンも少食ではないのだけどリュードが食べているのを見るのが好きでパッと食べて後はリュードが食べているのを眺めているのがいつもである。
今日もルフォンはささっと食べてリュードがおいしいと言って食べてくれるのをニコニコと見ていた。
「ねえ、覚えてる?」
「……もちろん」
何をとは聞かない。
ここまできて覚えているかどうか聞かれている内容の認識はリュードとルフォンで間違いなく一致している。
こんなに美しい場所だけどここにくることはあまり推奨されたものじゃない。
「あの時私はリューちゃんに命を救われた」
ルフォンは立ち上がりディグラ草の花畑の中に入っていく。
振り返ったその顔はいつもの柔らかい表情とは打って変わって真剣で大人びていて、それでいてディグラ草にも負けないぐらい綺麗に見えた。