そして幼馴染であるルフォンも魔人族なのであるがこちらは竜人族ではなく人狼族という種族である。
 こちらもまた希少種族となり竜人族よりも高い身体能力を備えていて目や鼻などの五感は竜人族よりもはるかに優れている。

 竜人族や人狼族は明確に魔人族と呼ばれるが獣人族やドワーフ族などは亜人族と呼ばれることもある。
 分類は様々で非常に曖昧なところもある。

 しかし真人族とそれ以外の種族は明確に分けられていて、各種族に分かれている魔人族も真人族との関係では1つに結束する。
 400年前の戦争も魔王率いる魔人族と真人族の戦争であったのだ。

 魔人族は人の姿になれたり人の姿で暮らしていたり人と混じったような容姿をしていることもある。
 要するに色々な姿をしているのだ。

 竜人族も人狼族も通常は人の姿で暮らしている。
 先ほどの生意気なガキもウォーケックもそうである。

 ここに獣人とバカにされる理由がある。
 獣人族とは大まかには獣の特徴が混ざった人の姿をしている魔人族のことを指す。
 
 内部では細かな分類はあるけど一般に広く獣人族と呼ばれる人たちは見た目で分かることが多い。
 どんな見た目かといえばルフォンのようにケモミミが生えていたりリュードのように角があったりする獣人族もいる。
 
 対して竜人族と人狼族の人の姿は完全に人の姿をしていてそうした獣のような特徴が外見に表れない。
 普通なら努力しなくても自然と人の姿になれて、角や尻尾が出ることはない。

 なのでなりそこない、劣等種、獣人なんて馬鹿にするような言葉を投げかけられることもあるが実際はそうではない。
 リュードもルフォンも実は先祖返りと呼ばれる希少種族の中でもさらに希少な強力な個体なのである。

 リュードは転生の影響を受けてそうした個体になり、ルフォンもそんなリュードの魔力の影響を受けたのだとリュードは予想している。
 もしかしたら幼馴染として生まれるために神様に何か力でも与えられたのかもしれない。

 ともかくリュードとルフォンは先祖返りであって先祖返りとは祖先の血が濃い人のことを言う。
 祖先の血が濃いほどに体の能力は高く、魔力なども高い傾向にある。
 
 それに加えて先祖返りであると先祖の血が濃すぎて人の姿になっていても本来の姿の特徴が一部そのまま残ってしまうということがある。
 なのでリュードには祖先と言われている竜の特徴のツノが、ルフォンにはオオカミの特徴であるミミと尻尾があるのだ。

 それ以外のところは真人族、あるいは人の姿をした周りと同じで先祖返りの特徴を気にしない大人や子供も多い。
 だが先祖返りの力を畏怖する大人や先祖返りをよく分かっていない子供はそれをからかってきたりもする。

 これに関してはリュードはそこそこのイケメン、ルフォンは美少女という見た目上の理由から来ているものも少なからずはある。
 何度も言うがルフォンは美少女である。
 
 ガキどもが悪口を言って逃げるのは好きな子にちょっかいを出したい、見てほしいという子供にありがちな心理も働いている。
 だからといって悪口が正当化されることは決してない。

「ごめんね……」

 ルフォンが申し訳なさそうにうつむく。
 何に対して謝っているのかはすぐに分かった。

 人の姿の時に耳や角が出てしまうのは先祖返りの血が濃く魔力が上手くコントロール出来ていないことが原因であった。
 リュードは小さい頃から、もっと言えば転生する前から魔法に関してちょっとだけ知識を持っていたので角を消して完全に普通の人の姿になることが出来る。
 
 しかし一方でルフォンはまだ子供で魔力コントロールが下手くそなのでちゃんと完全な人の姿を保てず耳や尻尾が出てしまう。
 当然できるのだから魔力コントロールの練習も兼ねて角を消して過ごそうとした時期もあった。
 
 しかし幼い頃から先祖返り仲間でリュードだけ普通の人の姿で過ごそうとしていることにルフォンにズルいとひどく泣かれてしまって以来角を消すのはやめている。
 角がある方が自然体なのだからこちらの方が楽であることは間違いない。

 そのような経緯もあるものだからルフォンはリュードもからかわれることが自分のせいだと考えてしまっているのかもしれない。
 そう暗い顔をしなくてもリュードが好き好んでやっていることだ。
 
 ルフォンのケモミミや尻尾は可愛いし、ツノはカッコいい。
 それでいいのだとリュードは思う。

 所詮子供の意見などリュードには響かない。

「ルフォンは奴らの言葉が嫌だったか?」

「だって私のせいで……」

「俺とイチャついてると思われるのが嫌か?」

「えっ……?」

 ルフォンの顔があっという間に真っ赤に染まる。
 恥ずかしさから枕に顔をうずめて隠す。
 
 しょんぼりしていた尻尾がゆっくりと揺れだす。

「それは……嫌じゃない」

「なら気にすることはないさ」

 再び頭を撫でてやるとルフォンは嬉しそうに目を細める。
 そう、気にすることはないのだ。

 真人族との融和が進みだいぶ影響を受けているとはいえ、魔人族には未だ根強い魔人族のルールがある。
 強いものが偉い。
 
 強者が尊敬され、例え頭が良くてもお金を持っていても越えられない強者の壁がある。
 ルフォンは先祖返りの影響を受けてかなりの力を秘めている。

 仮に怒って本気で戦ったなら多少訓練しているガキとはいっても足元にも及ばず殺されるぐらいの力の差が実はある。
 今はまだ相手の力もわからない馬鹿だからしょうがないかもしれないけど近い将来ルフォンとの力関係でみるとルフォンがかなり上位の存在になる。

 性別が違うので直接戦うことはないと思うけれど実力の差を目の当たりにする時が来る。
 馬鹿にしていたことを覚えているのか、怒っているのかを聞くこともできないまま怯えて過ごすことにもなり得る。

 ルフォンがそんな陰湿な女性になるとは思えないけど可愛い子にイタズラを繰り返すようなオスは大体モテなく成長するのが魔人族というもの。
 あんなことしている間に一度でも素振りした方がよほどマシである。
 
 上手くルフォンの意識をそらすことができた。
 そうこうしている間に鍛錬で乱れた息も整ってきた。
 
 ウォーケックがリュードを見る目も怖くなってきた。
 片手も腰の剣の柄にかかっている。

 お腹もすいてきた。
 殺される前にそろそろ家に帰ろう。

 とはいっても家は隣だ。
 ルフォンと手を振りあっている間に家につく。

「はぐれが入ってきたぞ!」

 家に入ろうとした瞬間鐘が鳴り響いた。