ラストもよく分からなかったようでヴィッツにこっそりと質問する。
「真魔大戦の時もそれぞれの側についた神様の神獣が争ったなんて話もありましたが現在では神獣とは話の上だけの存在と言われております」
「し……神獣を知らないのですか…………」
ラストが心中を知らなかったことにショックを受けるモノラン。
神獣と聞けば人は羨望の眼差しを向けて信仰の対象にもなりうるほどすごいものだと思っていた。
しかし真魔大戦以降神の力が弱まったことで神獣は消えてしまい、長い時間の中で忘れ去られてしまった。
ラストが勉強不足なのではなく今の時代神獣という存在を知らない人も出てきてしまっているのだ。
「とりあえずモノランは雷の神様に対する信仰を集めて力を取り戻そうとしているのか?」
「その通りです。今ではただの魔物のようになってしまっていますが本来なら私も神獣です。私が住むこの山だって神獣が住まう聖域なんですよ!
けれどあなたたちは私たちを一介の魔物のように扱い、祖母はそれを嘆きながら亡くなりました……」
どうやらモノランには雷の神獣であることに相当なこだわりや強い思い入れがあるようだとリュードは感じた。
「ここに雷の加護を受けし者が来られたことは何かの運命! 私が雷の信者を増やして再び神獣としての神格を取り戻すのです!」
モノランはフンスと荒く鼻息をはく。
「それに、それぐらいしなければ死んだ子がうかばれません……」
「……わかりました!」
長いこと考えていたラストが意を決したように顔を上げる。
「領主様!」
「神殿も建てます。雷属性の魔法も覚えます。信者も増えるように努力します。だから、石化病の治療薬の作り方を教えてください!」
雷属性の魔法を覚えることはなんら問題がない。
個人がどんな魔法を使おうと基本は自由である。
禁忌となっている魔法を習得でもしようとしない限りは誰にも文句は言えない。
しかし神殿については問題だらけである。
小規模の神殿ならともかくモノランが要求するような大規模な神殿は建てることに苦労する。
多種族の魔人族が暮らす国であるので様々な教会や神殿といったものがこの国にはある。
その点では神殿を建てることに抵抗感はない。
けれど大領主の地位にあろう人がいきなり町中に大規模な神殿を、しかも信仰者のいない雷の神様の神殿を建てるなんてことに反発は絶対にある。
大領主は独裁者でもないのだから個人のわがままで押し切ることもできない。
安請け合いするものではないとヴィッツがラストを止めようとする。
「じい、止めないで」
「領主様……」
どんな批判も、待ち受ける困難も乗り越える。
ヴィッツはラストの目を見て、いつになく真剣で、昔見たことがある絶対に譲らない時の目をしていることに気がついた。
「分かりました」
止めることはやめた。
ここで無理に引き止めようとしても成功しない。
モノランの気を悪くする可能性もあるし、それならば自分も全力を上げてラストを手伝う方向で考えようとヴィッツは思った。
それにもう口に出して言ってしまったので撤回もできない。
それに久々にやる気になったラストの目を見て応援したくなったのである。
「よかろう。例え口でした約束でも守ってもらうぞ。先に私が約束を果たし、治療薬の作り方を教えてやるとしよう。破ればどうなるか分かっているな?」
「もちろんです」
「期待はしておこう。治療薬だが、難しいことはない。材料さえあれば作れるだろう。魔物の素材でもなく、自然に生えているもので出来るものであるしな」
「ま、待ってください。今何か書くものを持ってきます!」
ラストは走って荷物の中からペンと紙を引っ張り出してくる。
「はい、お願いします!」
「一度しか言わないからよく聞けよ」
モノランはつらつらと薬草の名前を言っていく。
ラストは聞き逃さないようにしながら必死にメモをとる。
「そして1番大事なのはイェミェンを使うことだ」
リュードが聞く限り一般的な薬草の名前もあれば多少珍しめのものもあった。
しかし異色なのは最後に挙げられたイェミェンである。
リュードには自分でポーションを作れるだけの薬学の知識があったのでイェミェンについても知っていた。
イェミェンは薬草ではなくて毒草である。
乾燥させて細かく刻み、お湯で煮出して、長時間かけて煮詰めて濃縮する。
最後にはドロッとした液体になり、そうなると動物の細胞を溶かす強い毒になるのである。
毒なのだが濃縮しないと毒としては使えず、そのまんまではなんともない草である。
ただしそこらへんで売っているのを見かけるものでもなければ生えているものを見つけるのも難しい。
「なるほど……」
さらにモノランが製法までサラサラと言い始めてリュードは思わず唸った。
難しいことはないと言ってのけたモノランだったけど非常にバランスを取ることが難しい製法だとリュードは思った。
毒も使い用によっては薬になる。
まさしくそんな感じで上手く考えられた調合と製法で、考えた人は天才だと唸らざるを得ない
「リュードは今のが分かるのですね?」
モノランが目を細めてリュードを見る。
さらっと言った石化病の治療薬の製法をリュードは理解している。
流石は雷の神様が認めて加護を与えた相手であると感心していた。
「そして作った薬は針に塗って全身に打つのです。3回ほどやれば完治することでしょう」
「は、針ですか?」
「そうだ。分からなければリュードにでも聞いてみてください。分かっていそうですから」
説明が面倒になったモノランはリュードに丸投げした。
理解していそうだし、知識だけの自分よりも上手く説明してくれそうだと思った。
「真魔大戦の時もそれぞれの側についた神様の神獣が争ったなんて話もありましたが現在では神獣とは話の上だけの存在と言われております」
「し……神獣を知らないのですか…………」
ラストが心中を知らなかったことにショックを受けるモノラン。
神獣と聞けば人は羨望の眼差しを向けて信仰の対象にもなりうるほどすごいものだと思っていた。
しかし真魔大戦以降神の力が弱まったことで神獣は消えてしまい、長い時間の中で忘れ去られてしまった。
ラストが勉強不足なのではなく今の時代神獣という存在を知らない人も出てきてしまっているのだ。
「とりあえずモノランは雷の神様に対する信仰を集めて力を取り戻そうとしているのか?」
「その通りです。今ではただの魔物のようになってしまっていますが本来なら私も神獣です。私が住むこの山だって神獣が住まう聖域なんですよ!
けれどあなたたちは私たちを一介の魔物のように扱い、祖母はそれを嘆きながら亡くなりました……」
どうやらモノランには雷の神獣であることに相当なこだわりや強い思い入れがあるようだとリュードは感じた。
「ここに雷の加護を受けし者が来られたことは何かの運命! 私が雷の信者を増やして再び神獣としての神格を取り戻すのです!」
モノランはフンスと荒く鼻息をはく。
「それに、それぐらいしなければ死んだ子がうかばれません……」
「……わかりました!」
長いこと考えていたラストが意を決したように顔を上げる。
「領主様!」
「神殿も建てます。雷属性の魔法も覚えます。信者も増えるように努力します。だから、石化病の治療薬の作り方を教えてください!」
雷属性の魔法を覚えることはなんら問題がない。
個人がどんな魔法を使おうと基本は自由である。
禁忌となっている魔法を習得でもしようとしない限りは誰にも文句は言えない。
しかし神殿については問題だらけである。
小規模の神殿ならともかくモノランが要求するような大規模な神殿は建てることに苦労する。
多種族の魔人族が暮らす国であるので様々な教会や神殿といったものがこの国にはある。
その点では神殿を建てることに抵抗感はない。
けれど大領主の地位にあろう人がいきなり町中に大規模な神殿を、しかも信仰者のいない雷の神様の神殿を建てるなんてことに反発は絶対にある。
大領主は独裁者でもないのだから個人のわがままで押し切ることもできない。
安請け合いするものではないとヴィッツがラストを止めようとする。
「じい、止めないで」
「領主様……」
どんな批判も、待ち受ける困難も乗り越える。
ヴィッツはラストの目を見て、いつになく真剣で、昔見たことがある絶対に譲らない時の目をしていることに気がついた。
「分かりました」
止めることはやめた。
ここで無理に引き止めようとしても成功しない。
モノランの気を悪くする可能性もあるし、それならば自分も全力を上げてラストを手伝う方向で考えようとヴィッツは思った。
それにもう口に出して言ってしまったので撤回もできない。
それに久々にやる気になったラストの目を見て応援したくなったのである。
「よかろう。例え口でした約束でも守ってもらうぞ。先に私が約束を果たし、治療薬の作り方を教えてやるとしよう。破ればどうなるか分かっているな?」
「もちろんです」
「期待はしておこう。治療薬だが、難しいことはない。材料さえあれば作れるだろう。魔物の素材でもなく、自然に生えているもので出来るものであるしな」
「ま、待ってください。今何か書くものを持ってきます!」
ラストは走って荷物の中からペンと紙を引っ張り出してくる。
「はい、お願いします!」
「一度しか言わないからよく聞けよ」
モノランはつらつらと薬草の名前を言っていく。
ラストは聞き逃さないようにしながら必死にメモをとる。
「そして1番大事なのはイェミェンを使うことだ」
リュードが聞く限り一般的な薬草の名前もあれば多少珍しめのものもあった。
しかし異色なのは最後に挙げられたイェミェンである。
リュードには自分でポーションを作れるだけの薬学の知識があったのでイェミェンについても知っていた。
イェミェンは薬草ではなくて毒草である。
乾燥させて細かく刻み、お湯で煮出して、長時間かけて煮詰めて濃縮する。
最後にはドロッとした液体になり、そうなると動物の細胞を溶かす強い毒になるのである。
毒なのだが濃縮しないと毒としては使えず、そのまんまではなんともない草である。
ただしそこらへんで売っているのを見かけるものでもなければ生えているものを見つけるのも難しい。
「なるほど……」
さらにモノランが製法までサラサラと言い始めてリュードは思わず唸った。
難しいことはないと言ってのけたモノランだったけど非常にバランスを取ることが難しい製法だとリュードは思った。
毒も使い用によっては薬になる。
まさしくそんな感じで上手く考えられた調合と製法で、考えた人は天才だと唸らざるを得ない
「リュードは今のが分かるのですね?」
モノランが目を細めてリュードを見る。
さらっと言った石化病の治療薬の製法をリュードは理解している。
流石は雷の神様が認めて加護を与えた相手であると感心していた。
「そして作った薬は針に塗って全身に打つのです。3回ほどやれば完治することでしょう」
「は、針ですか?」
「そうだ。分からなければリュードにでも聞いてみてください。分かっていそうですから」
説明が面倒になったモノランはリュードに丸投げした。
理解していそうだし、知識だけの自分よりも上手く説明してくれそうだと思った。