体の震えが収まるように、強く強くエステルを抱き締める。
 彼女の体がこんなに小さく思えたのは初めてだ。


「光の、蝶は……」


 エステルは涙に濡れた声で、弱々しく喋る。


「わたしの国で、王族の死期が迫ると、その周りに現れると言われているの……」

「この、蝶が……?」


 僕はエステルを抱き締めながら、近くをひらひらと舞っている光の蝶を眺めた。
 そう言われてみると、綺麗なその姿が不気味に見える。


「わたしも、王族の血を引いているから……わたし、もうすぐ死んじゃうんだわ……っ」

「そんなこと……」


 ないよ、と言い切ってしまうには、あまりにもエステルが怯え過ぎていた。

 でも、どれだけ考えたって、そんなのは迷信だとしか思えない。

 エステルは本当に王族の血を引いたお姫様なのかもしれないけど……光る蝶が現れたくらいで、死んだりしないはずだ。
 確かに、光る蝶なんて珍しいけど。
 きっと、この見た目に惑わされてそんな作り話ができただけだ。


「エステル、大丈夫だよ。こんな蝶が現れたくらいで、エステルは死んだりしない」

「でもっ、この蝶はわたしの魂を妖精の国に持っていく為に、待っているのよ!」

「大丈夫、大丈夫だ、エステル。そんなのはただの迷信だよ」

「迷信なんかじゃないっ、わたしはもうすぐ死んじゃうの!」


 どれだけエステルが頑なでも、僕はそれを迷信だと言い続けた。

 エステルは僕の胸をドンドンと叩いて抵抗したけど、何十分と経つ頃には、ヒックヒックとしゃくりあげて落ち着く。


「もう寝よう。そしたらきっと、スッキリするはずだよ」

「……一緒に、寝て……」

「え……、……うん、分かった」


 エステルの取り乱し様を考えて、僕は素直に頷いた。
 すっかり冷め切ったホットミルクを温め直して、エステルに「はい」と飲ませると、支度を整えて2階の自室に行く。
 制服のままでは寝にくいだろうから、適当なパジャマを見繕って、エステルに手渡した。

 離れたくないというエステルに背を向けて、衣擦れの音にドギマギしながら待つと、エステルはウィッグを外した姿で立っていた。
 傍には、光の蝶がひらひらと飛んでいる。

 白銀の髪に、青い瞳……。
 傍にいる蝶も相まって、神秘的だ。

 こんな姿を見たら、迷信を作り出してしまうのも分かる。
 死んでしまうとか、話の方向性については趣味が悪いけど。


「それじゃあ、寝ようか」

「……わたし、明日を迎えられないかもしれない」

「エステル……」


 まだ、不安に囚われているらしい。
 僕は、そんなことないよ、と伝える為にエステルの手を強く握って、ベッドへと連れて行った。