夜の部開始のアナウンスから10分後に花火らしい。
ついさっきオカルト設定を知った。
近くにいたカップルが話していた。

だからこんな端っこの空き教室にいるんだね、私たち。

カウントダウンが始まった。正直花火は楽しみ。
花火なんて見るのいつぶりだろう。
掛け声とともに花火が始まった。

音にはびっくりしたけどやっぱり花火は好きだ。

そうそう、さっきから気になってたんだけど、あいつなんでさっきからそわそわしてるの?

一緒にいればいいってあのカップルは言ってたけど。

「恵」

耳に届いたそれは脳を麻痺させるには十分だった。
え、名前で呼ばれた?いま。

「なに?」

こんな展開予想していなかった。

「大好き」

確かにそう聞こえた。
そんな言葉聞くのは初めてだった。

「なにそれ」

心臓が破裂しそう。

「ずっとそばにいてほしい」

喋れなかった。

「一生そばにいたい」

喋れなかった。
喋りたいのに喋れない。
それは泣いてるから。
涙がおさまるまで話せない。

この沈黙、私はそこまで苦じゃなかった。

「ありがとう」

やっと言葉が出た。

私は言いたかったんだ。言わなくちゃ。
向かい合うだけでも心臓の鼓動が早くなる。

私も誠司のこと大好き

「誠司」
「ずっとそばにいてね」

もうむり。また外を眺める。
外を見ているのは恥ずかしいからではない。
この時間が永遠に続いて欲しいと願いながら花火を眺め泣いていた。