下書き自体は、数時間で終わった。


「ずっと同じ体勢ってのも結構疲れるな」

「だよね。ごめんね長い間」

「いや、いーよ。なんかパンまで奢ってもらっちゃったし?」

「さすがにタダで頼むのも気が引けたから」


長時間付き合わせてしまったため、先に買っておいたパンをいくつかお昼ごはん代わりに晶にあげていた。


「にしても、お前食べる量減った? ダイエットか?」

「あー……うん、そんなところ。なんか、絵描いてるとあんまりお腹空かないんだよね」

「ふーん。女は多少肉付いてた方がモテるぞ。お前ダイエットなんて必要ねぇだろ。むしろもっと太った方がいいんじゃね?」

「やだよ。これくらいがちょうどいいのー」

「まぁいいけどよ。何事もほどほどがいいんだからな」

「はいはいありがとう」


晶の母親のような小言を聞き流しながら画材を片付けていると、晶が私の描いた下書きをひょいと覗きにくる。


「明日からはついに絵の具か?」

「うん。乾かしたりまた塗ったりの繰り返しになるから、毎日描くことはないかもしれないけど」

「そうなのか?」

「うん。色重ねることもあるからね」

「ふーん。よくわかんねぇけど、油絵って時間もかかるし大変そうだな。下書きだけでもこんなに時間かかるとは思わなかった」

「それは……私が下手なだけだから。でもその分、出来上がった時の達成感みたいなものはすごいよ」


絵は、描く人によってガラッと姿を変える。

同じもの、同じ人、同じ風景。

どれをとっても、描く人によって一つとして同じものはない。

そんな当たり前のことが、とても魅力的で。

私にしかできない表現を探り探りで作っていき、それが完成した時の達成感は何物にも変え難いものがある。

誰かに評価されたいわけじゃない。ただ、自分の感情に正直にキャンバスにぶつけたいだけなのだ。

だから下書き一つにしても時間をかけるし、自分が納得いくようにやりたい。

だからモデルをしてもらうのも大変なのは承知の上でお願いしているのだ。