今、さくらの舞う坂を娘と歩く。
 まさか、娘が自分の母校であるこの高校に入学するとは思わなかった。
 当時とは制服は変わってしまったが、この正門から続く桜の坂道。秋にはいい香りを運ぶ金木犀の木々が並ぶ横にある駐輪場。グラウンドの横にある実習棟や武道場。
 「お母さん。」
 笑顔で呼ぶ娘と入学式の受付をし、体育館の保護者席に座れば、あの頃は新築されたばかりの体育館の真新しい匂いや、ピカピカだったバスケットゴールは使われ続けたいい風合いを出していた。
 この体育館で卒業式をしてから三十年たった…
 
 入学したときは3人揃っていたのに、卒業式は私1人だった
 あの時の後悔。
 再会した時の喜び。
 人生が終わったんだという悔しさ。
 大切なものを失った悲しみ。
 全て忘れたかった。
 でも、忘れなかったからここへこれた。

 娘が緊張しながら入場する姿を見て、あの頃の自分を思い出した。