とある高校二年の女子高生の佐伯(さえき)(かえで)はがんになり余命宣告を受け病院に入院していた。
入院中、抗がん剤治療しているが副作用でつらいと思っており生きるのをやめようかと思ったりしていた。
(こんな思いをするなら死んだほうがマシかもしれないな……)
 そんなことを思っていた次の日、一人の男子高校生がノックして病室に入ってきた。
「佐伯さん元気にしている?」
「あなたはたしか……」
 その男子高生とは佐伯の同じクラスの松浦(まつうら)(わたる)だ。
「松浦くん?どうしてここに?」
「いや、先生から佐伯さんが病気で入院しているって聞いて心配だから来たよ」
「それでお見舞いでこれ持ってきたから」
 持ってきたものとはたくさんのりんごだった。
「佐伯さんはりんごが好きだから持ってきたよ」
「ありがとう松浦くん、わざわざ持ってきてくれて」
 そして松浦はりんご剥き出しそのりんごを二人で食べながら話し合った。
「学校のみんなは元気?」
「元気だよ、そういえば佐伯さんと仲がいい倉本さんも心配していたよ」
「そうなんだ、由衣に会いたいけど部活のテニスで忙しいだろうな」
 佐伯は寂しそうな表情でそう言った。
「まあテニス部はもうすぐ大会があるから練習で忙しいかもね」
 それから話は文化祭の話になった。
「そういえばもうすぐ文化祭でしょ、準備とかしているの?」
「しているよ、うちのクラスは演劇をやることになった」
 松浦はそう言うとスマホを取り出しクラスのみんな楽しそうに文化祭の準備している写真を佐伯に見せた。
「ふーん、みんな楽しそうだね、私には関係ない話だけど」
 暗い声でそう言うと続けてこう言った。
「私はもう青春できないんだろうな」
 そんなことを言われた松浦はすぐこう言い返した。
「そんなことはない、佐伯さんなら病気が治ってまた学校に行けるようになるよ」
「そうだといいね……」
 佐伯は希望が無さそうな表情でそう言った。
それから松浦が帰った後、佐伯は一人でこう思った。
(松浦くんはあんなことを言っていたけど病気が治るのは奇跡が起きないかぎり無理だよ)
そんなことを思い生きる希望をなくした佐伯だった。

次の日、また病室のドアをノックする音が聞こえた。
「はいどうぞ」
「佐伯さん、また来たよ」
 そう言って入ってきたのは制服姿の松浦で佐伯に高校でどこを勉強したのかノートを見せに来たと言ってきた。
「勉強に後れをとらないようにノートを持ってきたよ」
「ああ、そう……」
 松浦は勉強に後れをとらないようにノートを持ってきてくれたが佐伯は余命宣告されもうすぐ死ぬから意味が無いと思っており松浦の行動をありがた迷惑とも思っていた。
 けれどノートを見るのを断ったらわざわざ持ってきてきれた松浦に申し訳ないと思いノート見せてもらうことにした。
 今日の授業でやった数学などのノートを見せてもらうと数時間が過ぎノートを見終わった
「ありがとう、見せてもらって」
 それから趣味の話になった。
「佐伯さんって漫画が好きだよね?」
「そうだね」
「じゃあ〇〇っていう漫画知っている?」
「知っている、〇〇という雑誌で連載されているよね」
「今度、アニメ化されるらしいよ」
「へえ、私の漫画好きだからうれしい。いつ頃アニメ化するの?」
「僕もその漫画好きなんだよね、たしかアニメ化は来年の4月頃だよ」
「そうなんだ……」
 自分は生きていないだろうと思い気分が沈んだ。

 そして次の日も病室に来てさっそくこう言った。
「佐伯さんにプレゼントがあるんだ」
 そう言ってカバンから取り出したのはキャラクターのストラップだ。
「〇〇のキャラクター、佐伯さん好きだと思うから買ってきたからあげるよ」
「あ!〇〇のストラップだ、どうもありがとう」
 松浦から大好きなキャラのストラップをくれたことで佐伯はテンションが上がった。
(やっぱり〇〇は世界一可愛いな)
 そんなことを思いながら微笑んだ表情すると松浦もにこやかな表情した。
だが佐伯は不思議そうな表情もしてこう思っていた。
(松浦くんとは学校では一度も話してなかったから私の好きなものは知らないと思うんだけど何で知っているんだろう、漫画やりんごが好きなことも……)
 佐伯は松浦との接点がなく話したこがないためどこで知ったのか気になった。
「それでさ、気になったことがあるのだけど私の〇〇のキャラが好きなことをどこで知ったの?松浦くんには言っていないはずなんだけど?後、漫画やりんごが好きなことも」
 松浦は数秒の沈黙の後、おどおどしながらこう言った。
「クラスの人から聞いたんだよ」
「そうなんだ」
 佐伯はその解答に何か腑に落ちなかった。

 それから松浦は毎日、病室に現れノートを見せてくれたり学校での話などをしてくれた。
 今日も来てくれて帰った後、一人病室でこんなことを思っていた。
(なんで松浦くんは毎日、私の所にわざわざ来てくれるのだろう)
学校では接点が無く友達でもなかったため、なぜ病室に来てそこまでしてくれるのだろうと疑問に思っていた。
(でも松浦くんは悪い人ではなさそう)

 ある日、佐伯は抗がん剤の副作用で苦しんでいた。そこに松浦が病室に入ってくると佐伯が調子悪そうなことに気付く。
「佐伯さん、調子悪そうだけど大丈夫?」
「あまり大丈夫じゃない……」
「なんかしてやれることある?」
「いや、何もしなくていいよ」
 抗がん剤の副作用はきつく慣れるものでは無く特に吐き気があり体も精神も疲れ切ってしまった。
 そんな中、佐伯はこんなことを言った。
「こんな思いをしてまで生きる必要なんかあるのかな」
 そう言われた松浦はなんで抗がん剤治療をしようと思ったのか聞いたのだ。
「親とか周りの人から抗がん剤治療した方がいいと言われたからだよ」
「私は抗がん剤治療なんかやめて早く楽になりたいけどね。早く死にたい」
 佐伯はなぜ周りのみんなは抗がん剤治療をした方がいいと言われるのかとボソッと呟くと松浦はこう言った。
「それは佐伯さんのことを大切な家族や友達と思っていて死んだら悲しくて生きてほしいからだよ」
 松浦は佐伯に面と向かって強い口調でそう言った。
「そうは言っても私の気持ちを尊重すべきじゃないの?抗がん剤の副作用で苦しい思いをしている私の気持ちを考えてほしいよ」
 今度は佐伯が松浦に面と向かって強い口調でそう言った。
 そしてしばらくの沈黙の後、松浦が口を開く。
「それじゃあ、抗がん剤の副作用が辛くなくて病気が治るとしたら生きたいと思うの?」
「そうだね」
 その返答に松浦が何か言いたそうな感じを出していたが黙っていた。
 それから時期が冬のため日の沈みが早くなり空が暗くなりはじめたので帰っていきその帰り途中に冬の夕方は寒く寂しいと思っていた。
 
 天気が良く太陽が輝いていた日、いつも通り病室にいると松浦がやって来ると花束を持っていて佐伯がそれはなんのために持ってきたのかと聞いた。
「これは亡くなった母親のために持ってきたんだ」
 詳しく聞くと今日は母親の命日で佐伯のお見舞いの後にお墓に添えるための花束と話した。
「そうなんだ、私も幼いころに母親を亡くしているから同じだね」
「それじゃあさあ、父子家庭ならわかると思うけど父親が授業参加の時に来ると周りの人は大体母親が来ているから自分の父親が浮いている感じになるのわかる?」
「あ、わかる!」
 佐伯は大きく頷きながらそう答えた。
「たしかに私も授業参加の時に来てもらって周りがお母さんだらけでうちのお父さんが気まずそうにしていたわ!」
 それから佐伯と松浦は楽しそうに父子家庭のあるあるなどを話し合いその二人には笑顔が溢れかえっていたのだ。
 会話が途切れることもなく話しているとあっという間に時間が過ぎ日が暮れそうな時間になり松浦は帰ろうとしていた。
「じゃあね、明日も来るから」
「わかった、また明日」
 佐伯は松浦が母親が死んで父親に育てられたことを知り親近感が湧きはじめもっと仲良くなりたいと思ったのだ。
 そして学校では松浦とまったく喋らず友達ではなかったが話しているうちに共通の趣味や共感する所もあり気が合いそうな人だと思った。

 それからある日、今日も病室にやってきた。
「佐伯さんにプレゼントがあるよ」
「なに?」
 松浦がカバンから取り出したのは佐伯が好きな漫画の新刊だ。
「前に話した時にこの漫画、好きって言っていたから持ってきたよ」
「ありがとう、持ってきてくれて」
 さっそく二人はその漫画を一ページ一ページじっくりと読んだのだ。
 時間は過ぎ、漫画を読み終わると二人は感想を言い合った。
「私は五十四ページのあのセリフが心にきたよ」
「俺もそのシーンよかったけど八十一ページのセリフをよかったな」
「あ、たしかに!」
 佐伯は自分が好きな漫画のことを語り合える人がいてうれしいと思った。
「そういえばこの漫画、アニメ化するんだよね……」
 佐伯は深刻な表情しながらそう言った。
「そうだね、来年の4月にアニメ化するよ」
 そして佐伯はこんなことを言った。
「この漫画のアニメを観終わるまでは死にたくないかも……」
 その言葉に松浦は顔を輝かせこう言った。
「来年の4月、一緒に〇〇のアニメを観よう!」
 佐伯は生きる希望が少しずつであるが出てきたのだ。
 それからもう一つ松浦は佐伯にあるものプレゼントをした。
 それは小さい瓶の中に入った何かの液体の飲み物だった。
「これ、何の飲み物なの?」
「えっ、まあ栄養ドリンクみたいなものだよ。今飲んでみてよ」
 松浦はおどおどしながらそう答えた。
「そう……」
 そして飲み物を一気飲みしてこんな感想を言った。
「なんか、不思議な味だね。これどこで手に入れたの?」
「まあ人から貰ったんだよね……」
 また松浦はおどおどしだしながらそう答えた。
「誰から?」
 そう聞かれると松浦は用事を思い出したらと言いそこから逃げるように病室を出て行くと佐伯は先ほどの松浦の言動を見て不思議に思った軽く受け流した。

 それから日が経つにつれて佐伯の容態が悪くなっていった。
 そして今日も病室に松浦が来ており佐伯は具合悪そうにベッドで横たわっていた。
「佐伯さん大丈夫?」
「まあ何とか……」
 そう微かな声で松浦の返事をした。
 前に比べると顔は痩せ細り今にも死にそうな感じだった。
「私、もうすぐ死ぬかもね……」
 佐伯が消え入りそうな声そう言うとすかさず松浦がこう言い返した。
「まだそうと決まったわけじゃないよ」
「でも自分でわかるんだよ、死期が近いって……」
 ふと二人は窓の方を見るとかなり曇っていることに気付く。
「松浦くん、今日はもう帰った方がいいよ、雪が降るらしいからね」
「でも佐伯さん心配だから」
「私なら大丈夫だよ」
 松浦はそう言われたので渋々帰っていると雪がしんしんと降ってきて肌寒いと思いながら帰っていた。
「本当に心配だな……」

 次の日、松浦が朝起きるとまだ雪が降っていった。
 そして学校から連絡があり今日は大雪のため休校と連絡があった。
(やった、今日はゆっくり休めるじゃん)
 その後、外は雪のため家でゆっくりゴロゴロしていたが何か嫌な予感がした。
(佐伯さんになんかあったのか)
 そう思い病院に行こうとしたが大雪のため行ける感じではなかったので雪が弱まったら行こうとした。
 数時間、雪が弱まるか心配に思いながら窓から外を眺めていると少し弱まってきたため病院に行く支度を始めた。
 雪が降る中、松浦は病院に行くため家を出て行った。
 肌が凍りつきそうで手足の感覚が無くなる中、歩いて行きやっとの思いで病院にたどり着いた。
 病院の中に入ると暖房が効いておりホッとした気持ちになった。
 そんな気持ちで階段を上がり佐伯の病室の目に前まで来ると中から泣き声が聞こえてきた。
 病室の中に入ると医師と佐伯の父親がいた。父親は顔を下に向けながら大粒の涙を流していた。
「佐伯さんがどうかされたのですか……」
 松浦は今にも泣きそうな声でそういうと医師がこう答えた。
「佐伯楓さんは先ほどお亡くなりになりました」
 今日の朝から思っていた嫌な予感は的中したのだ。
 その後、父親が泣くのをやめ気持ちが落ち着くと松浦にこう言った。
「楓とはどういう関係で?」
「高校のクラスメイトです」
「名前は?」
「松浦航です」
「そう……」
 続けて佐伯の父親は真剣な表情をしながら話した。
「松浦くんは最愛の娘が死んだこの気持ちわかる?」
「わかりますよ」
「俺が楓を大切に育ててきたのにあっけなく死んでいくなんて考えたくもなかった」
 そして佐伯の父親はこんなことも話した。
「妻もがんになって楓と同じように死んでしまったな……」
「俺は妻と同じように楓には死んでももらいたくはないとは思い本人の反対を押し切って抗がん剤治療させた。楓は抗がん剤治療することにかなり拒んでいたが妻のように死んでほしくなかった」
「ここで楓まで死んでしまったら最愛である妻と娘に先立たれた俺は生きていけないと思ったんだ」
「あの時、もし妻と娘に先立たれてひとり残されたらという俺の気持ちも理解してほしい」
 佐伯の父親がそう話すと松浦がこう言った。
「やっぱり本人の気持ちを大切にするということもわかりますけど家族や友人などの大切な人が死んだら悲しいですもんね」
 そして佐伯の父親はこんなことを言った。
「娘を生き返らせる方法はあるのかな、いや無いか……」
 松浦は真面目な表情をしながら佐伯の父の言葉にこう返しながら病室を出て行った。
「お父さん、そのことなら自分がなんとかさせます」
 病院を出るとまだ雪が降っていて寒い中、松浦はこう言った。
「また失敗したか……」
「残念だったのう」
 そう松浦の言葉に返事するのはある人物だった。
「神様いたんだ」
「ずっと見ていたぞ」
 松浦と話しているのは神様でその出会いは数カ月前になる。
 
 松浦はいつも通り学校に登校すると先生から好きな人の佐伯が余命宣告され病院に入院することを知るとかなりのショックを受けた。
 学校が終わると神社に行き「佐伯さんが病気を治るためならどんなことでもする」と願うと神様が目の前に現れ心臓が飛び出るぐらい驚いたのだ。
「お前の願いを叶えよう」と言われるとその願いを叶えるための条件を言ってきた。
 それは強く生きたいと思わせること、瓶の中に入っている秘薬を飲ませければいけない。
 そしてこのことを佐伯、本人には言ってはならない。
「もし言ってしまったら病気を治せられないからな」
 神様はそう言うとあともう一つこんなことを言った。
「過去に戻りやり直しが三回まではできる」
「それじゃ、頑張るんじゃぞ~」
 そう言われ神様は目の前から消えた。
 それから松浦は毎日、佐伯の病室に通うがそこまで仲良くなれず強く生きたいと思わせることや秘薬を飲ませることもできず佐伯の病気を治すことはできずに一周目は終わった。
 二週目は一週目で知った佐伯の好きな漫画やキャラクターなどを知っていることを喋ると佐伯がそのことは松浦に話していないのになぜ知っているかと不審に思われたがクラスメイトに聞いたとうまく話した。
 それから同じ趣味などを通じて仲良くなり秘薬を飲ませることにも成功したが強く生きたいと思わせることに失敗し今にいたる。

「お主、わかっていると思うがやり直しができるのはあと一回だけじゃからな」
「わかっているって」
 松浦は雪の降る中、立ち止まって大きく深呼吸をしながらこう言った。
「じゃあ神様、三回目のやり直し行くよ」
「わかったぞ、やり直し開始じゃ」
松浦と神様は数カ月前に戻っていった。