いつも自分と他人を比べて、勝手に落ち込んでいるわたしが嫌いだ。みんな、自分の中に大切な、宝石みたいに光る何かを持ってる。

あの子にとってそれは、大好きなアイドル。あの人にとっては毎日下校時刻までやっている部活動。

わたしには望んでも手に入れられない夜空に輝く星みたいなもの。わたしもそんな夢中になれるものが欲しい、そんな宝石みたいな何かを。ずっとそう思ってる。

高校に入学してから、一年とちょっと。同じ時間に起きて学校に行って、帰宅する。毎日がただ何となく過ぎていく。そのことを自覚するたびに、胸が苦しくなる。

何となくこの世界と一体化して溶けてなくなってしまいたいような感覚に襲われる。別に学校でいじめられていて、もう死にたいとかそんな深刻なものじゃない。毎日が平凡すぎてつまらない。夢中になれるものがない。

こんなことを口に出してしまったら、親や先生からは大変なひんしゅくを買ってしまうだろう。わたし自身もそ
れは贅沢な悩みだということは自覚している。けれど思ってしまうのは仕方ないこと。こればっかりは神様だってどうしようもできない。

今タブレットで観ているサブスクリプションもなんだかありきたりで、さっぱり頭に入ってこない。友達が、この韓流ドラマの主人公がすごくかっこいいの!とゴリ押ししてきたから、暇だったし何となく開いてみた。ありきたりなBGM にストーリー。

別にたいしたことはないじゃない、そんなに言うほどか。感想はこんな感じ。それ以上は出ない。

主人公は確かにかっこいいけれど、テレビを見ていたらゴロゴロ出てきそうな顔をしている。

そう思っていたら、下から母が自分を呼ぶ声が聞こえてきた。タブレットの画面に映し出られているサブスクを閉じる。

学校から帰ってきてからほどきっぱなしになっていた髪をポニーテールに結びなおして、椅子から立ち上がった。そしてわたしはそのドラマを再び観ることはなく、ベッドに
入った。

翌日学校の教室に入ると待ってましたと言わんばかりに、彼女が席から飛んできた。

「おはよう!ところでさ、昨日おすすめしたドラマ観てくれた?もうさぁ、主人公が…… 」

興奮気味に話すのは、多田汐里。高校に入ってからできた唯一の友達と呼べる人。全体的に色素が薄くて、かわいい系統の顔立ちだ。韓国オタクで休み時間になればあの韓流スターがかっこいいとか、新しいコスメが発売されたとか、そんな話ばかりしてくる。おかげで、以前よりは
韓国に詳しくなった…… と思う。なんだかいらない知識を吸収してしまっている気がしてならない。

「ちょっと、話聞いてる?今最高にかっこいいシュン様の話してたんだ
けど。聞かないなんてありえないよ!」

話をスルーしようとしても、汐里はすぐにわたしが話を聞いてないことに気がついて、話を聞くように言われる。語りたいという欲がすごいのか、オタクモードの彼女は距離が近くなるのだ。容姿は一軍女子並みなのに、少しもったいなと思う。大人しくお澄まししていれば男子も寄ってくるだろうに、それを是としない。きっと本人も望んでないことなのだろう。

「あ、また違うこと考えてる!」

「はいはい、わかった!ごめん、聞くから。顔近い」

話に熱が入りすぎて、距離のバグを起こしている汐里をひきはがす。

少しじゃれていたら、担任が気のない挨拶をしながら教室に入ってきて朝礼がはじまった。