――――それは壹夜ちゃんがうちにきて暫く経った頃。
「……え、お前らまだなの?」
「まだって……その……っ」
八雲に問われ、夜霧さんが狼狽えていた。
何の話だろうか……?
「一辺ガツンと行って来いよ」
「いや、ですけど……ぼくには特殊な力があるので」
言霊の力だったっけ。
「那砂さんには使いたくないですが、思ってもみない拍子に出てしまえば、彼女の意思とは関係ない結果になってしまうかもしれません!」
那砂さんが関係してるのかな。
「お姉ちゃん鈍すぎ」
玻璃と遊んでくれていた壹夜ちゃんから声がかかる。え……鈍い……?
「あいつぁ俺の眷属選んでんだぞ?聞きゃしねぇよ」
「え……っ」
「言ってなかったか……?那砂は俺に生涯仕える選択をしてんだ。その代わり、女鬼としての幸せはさ……捨ててんだよ」
そっか……八雲と同じ寿命を生きるから。普通に夫婦はできないということ。
「でも、たったひとつ女鬼としての幸せがかなう方法があるとする」
「……それはっ」
「お前も選ぶか?俺の眷属を」
「選ばなければ、那砂さんと壱花さまが大変なことになるでしょう?」
確かに……主役の宴会ではすぐに帰ろうとしちゃうし、玻璃のことをお願いしている間は、夜霧さんについてきてもらっているのだ。
那砂さんとお買い物に行く時は、代わりに夜霧さんと八雲がみてくれるけど。
それでも夜霧さんの忠告は……ありがたい。
「なら、もうひとつついでに選んで来い」
「……っ、その……っ、それは」
もうひとつとは……?夜霧さんがかなりテンパってる?
「ねぇ、私の名前が聞こえた気がするんだけど、呼んだ?」
「わ――――――っ!?」
いつの間にか、夜霧さんの隣に那砂さんがいたのだ!
「そんなにびっくりしちゃった?ふふっ」
そしてにこやかに苦笑する那砂さん。
「そ、その、那砂さん……っ」
そして夜霧さんが意を決したように切り出す。
「ん?」
「その……ぼくも、八雲さまの……眷属にしてもらおうと思って……」
「あら、そうなの?それは助かるわ!一緒にがんばりましょうね」
「は……はい!」
にこりと笑みを浮かべる夜霧さんだけど……。
「夜霧、それだけじゃないでしょ」
壹夜ちゃんから鋭い指摘が入る。
「あら、何かしら?」
「えと……そのー……」
「おら、行け。こう言う時は気合いだぞー」
八雲がにやにやしている。
「簡単に言わないでくださいよ!」
「八雲ったら、また何か悪戯企んでるんじゃないでしょうね」
那砂さんの視線に、八雲がサッと視線を外す。
「ち、違うんです、那砂さん!」
夜霧さんが那砂さんの手を握り、見つめる。
「……えっと……」
「その……夫婦に……なってくれませんか……っ」
……え!?え――――――――っ!?
「本当に気付いてなかったんだな」
八雲!?
「お姉ちゃん相手に八雲さまも相当攻めたね」
「当然だろう?」
八雲が何だかドヤ顔を見せているが……。
夜霧さんと那砂さんは……!
「ん……うんっ」
那砂さんが……顔を赤くして、照れてる!?
「し、幸せに……しますから」
「うん……っ」
見つめ合うふたりが結ばれたことに心の中で拍手を贈った。