今日も記憶にございません!

 酒の味を楽しめるようになったのは、恥ずかしながら、40才の手前。
 まだ二年ぐらいだ。

 最初は梅酒、それから、コークハイ。次に焼酎のソーダ割り。
 今は、ハイボールを楽しんでいる。

 だいたい、最初はレモンサワーを一杯飲んで、それからハイボールをガブガブ飲む。
 スマホでYouTubeを開き、大好きなバンド『リンキンパーク』のMVをプレイリストにして、テーブルの隅に置き、三時間ぐらいは飲んでいるような気が……。

 そんな暮らしを二年間も続けている。
 朝起きて、酷い頭痛と吐き気を感じて、よろけて出てくると、妻が苦笑している。

「ねぇ、昨日のこと覚えている?」と。
 僕はなんのことか、さっぱりわからない。

 お恥ずかしい話だが、僕は全身にアトピーがあって、奥さんに塗り薬を塗ってもらう。
 この時、僕はもういびきをかいていて、寝ているらしく。

 薬を塗り終えて、妻が服を着るように促すのだが……。
 ベロベロに酔っぱらっているから、
「あ~ ん~ なあに?」
 なんてしんどそうに言うらしい。
「服だよ! ふ~く!」
「あぁ……はぁ……」
 とぼやきながら、フラフラと床に落ちている服を取るのだが。

「ふがふが……」
 と首から下におろせず、ずっと苦しんでいるらしい。
 その姿を見た妻が、笑って注意する。
「味噌くん! それはパンツ! パンツなの!」
 どうやら、パンツを頭から被っているようで、それでもずっと「う~ん、う~ん」と下に降ろそうとするらしい。

 だから、奥さんが無理やり頭から脱がせて、もう一度パンツをベッドの上に置く。
「これはパンツでしょ! パンツ! 履くのよ! 被るものじゃないの!」
「う~ん」
 と言って、またパンツを頭から被るらしい。

 これを延々繰り返すので、妻は笑いが止まらない。
「味噌くん! パンツでしょ! 履くの! 履きなさい!」
「えぇ……履いているよ……」
 と言って、また必死にパンツの穴に首を突っ込み、そこから下に落ちないから、もがいているそうな。

 これを朝になって報告され、僕は言う。
「いやぁ、全然覚えてないわ……」

 ちなみに、奥さんが言うには、今まで20回ぐらいはパンツを被っているそうだ。
 一年ぐらい前の冬場。
 僕はその頃、甘いお酒が好きだったのだけど、辛口のお酒に少しずつ変わっていき。
 最初は梅酒だったのに、焼酎の25度をソーダ割りにするのが大好きに。

 飲み方はかなり酷くなった。
 一升の焼酎を一週間もないぐらいで空けちゃう。
 すると、記憶が飛ぶのも日常茶飯事。

 その夜もガブガブ浴びるほど、飲んでいた。
 ベロベロに酔っぱらって、裸でベッドにダイブ。
 妻がいびきをかいている太っちょの僕を、一生懸命左右に転がしては、アトピーの薬を塗ってくれる。

 たまに急にのっそりと起き上がり。
「うーん……」
 フラフラしている僕を見て、妻が心配から声をかける。
「味噌くん、どうしたの? まだ薬終わってないよ?」
「お、おしっこ……」

 そうして、寝室の壁や廊下で身体をドカドカとぶつけては、トイレまで足を運んでいるそうで。
 この夜はあまりにも音が酷いので、妻は心配だったそうです。

「……」

 しばらくしても、戻ってこない僕を案じて、廊下まで出てくる妻。

 トイレを見に行っても僕はそこにおらず。
 また廊下に戻って、必死に僕を探します。
 すると、真っ暗な部屋に一人の中年が立っていました。

 その部屋は僕の自室というか、書斎みたいなところで。
 パソコンや本、ゲームなどがあり。
 執筆にも利用している部屋です。

 電気もつけず、フラフラとよろけながら、真っ裸で立っており、妻から見ると、デカケツがぶりんと目立ちます。
「味噌くん? なにやってんの?」
「あ~ 妻子ちゃん、妻子ちゃん……」
 なぜか誰もいない空間に向かって、愛する妻の名を連呼している僕。
「味噌くん、私ならここにいるでしょ」
「うーん、妻子ちゃん…妻子ちゃん……ぐすりぃ~」
 どうやら、立って寝ぼけているようで。
 残留思念とでも表現すべきでしょうか?
 きっと記憶が飛ぶ前に、薬を塗って欲しいという一心から、誰もいない真っ暗な部屋で、一人延々喋っていたらしいです。

「味噌くん! 私はこっち! こっちにいるでしょ!」
「えぇ?」
 振り返って、妻の顔をじーっと見つめて黙り込む僕。
「薬ならあっちでしないと!」
「うーん……」
 そして、巨体の裸おじさんを、奥さんはベッドまで連行していくそうです。

 翌朝、激しい頭痛と共に、目が覚めました。
「あいたた……」
 トイレを済ませて、妻に声をかけると。

「ねぇ、昨日の晩のこと、覚えてる?」
 一連の行動を聞いて、僕は驚きました。

「なにそれ……こわっ! いやぁ、全然覚えてないわ」

 その日以来、少しだけ酒の量を控えました。

 あれは、2年前の暮れのこと。
 僕は焼酎の25度をソーダ割りを飲んでいたが……。
 いつの頃からか、40度のウイスキーを好むようになり、今では毎日ハイボールをガブガブ飲むようになった。
 酔い方が酷くなれば、記憶の消え方も酷くなる。

 その日はとにかく、忙しい一日だった。
 結婚記念日を家族で祝うため、夜に焼き肉屋さんへ行ったのだが。
 記録的な大雪で、年末だったこともあり、タクシーがなかなかつかまらず、とても困った。
 焼き肉屋さんへ予約していた時間より、大幅に遅刻してしまった。

 1時間遅れで入店し、父親である僕は基本、肉焼き係だ。
 飲み食い放題を奥さんが頼んでくれているが、子供たちのために、肉や野菜を焼きまくる。
 90分コースなので、子供たちと奥さんが食べるものを優先的に焼き続ける。
 注文したハイボールも一杯空けるのに、時間がかかってしまう。

 注意して頂きたいのは、ここで僕の疲れはピークに達していたことです。
 昼に夫婦でデートに博多へ向かったのですが、緊急事態宣言が終わって、初のクリスマスシーズン。
 例年以上の人だかりで、帰りの駐車場から出るのに90分以上かかってしまい、トラブル続きの一日でした。

 家族が食べ終えたころ、僕は注文ボタンを連打します。
 残り時間30分で僕はハイボールをメガジョッキで、6杯ほど注文。
 大好きなホルモンも20皿ほど頼み、元を取るため、追い込みをかける。

 食べ終えてみんなで、店の中でタクシーを待っていたのですが。
 例のウイルスで、タクシーの運転手不足らしく。
 頼んでも一時間以上、来ない。
 外は大雪ですが、お店の方が「すみません。閉店時間ですので……」と申し訳なさそうに頭を下げてきました。
 僕たちは「いえいえ」と頭を下げて店を出る。

 タクシー会社にもう一度、電話して近くのコンビニで待っていると伝えたところまでは、記憶があるのですが……。
 ここから、飛んでいます。

 ~次の日~

「あいつつ……」

 後頭部をさすりながら、寝室から出て来ると、奥さんが「おはよう」と苦笑いしていました。
 僕も「おはよう」と言うと、「昨日のこと、覚えてる?」と問われます。
 当然「いや」と答えると……。

 奥さん曰く、タクシーを待つため、コンビニまで寒いからと、娘たち3人で歩道を走ったそうです。
 そこから僕は何を思ったのか、静かな郊外で叫び声をあげたそうな。

「おってん~てん~!」
「おてんぽ~!」

 先を走っていた娘たちは、ゲラゲラ笑いながら「変態だぁ!」と悲鳴をあげたそうで。
 恥ずかしいと僕から逃げていたらしく。
 僕は追いかけるように、先ほどの発言を連呼していたそうな……。

 その後ろ姿を見た奥さんは、予約した店が郊外で良かったと思ったそうです。
 ここが人通りの多い場所だったら、僕は通報されたいかもしれないと。

 疲れていたので、許してください……。

 最近の僕は、ハイボールしか飲まなくなった。
 ウイスキーの中でも、スコッチが好きだ。
 相変わらず、水のように酒をがぶ飲みしては泥酔し、朝起きると記憶が飛んでいる。

 酒の話とは変わりますが、これを読んでくれている皆さんは、眉毛をいじっていますか?
 男性で眉毛をいじられる方は少ないと聞きます。

 僕は今の妻と付き合うまで、専用のカミソリで剃っていました。
 しかし、毎朝剃っていたらヤンキーのように、”鬼眉”になってしまい……。
 当時の彼女から「キモい」と言われました。

 ですので、以来。僕は妻に専用のピンセットで抜いてもらうようになりました。
 自分で抜くとまた抜きすぎて、細すぎると怒られるので……。
 あと最初の頃は抜くと痛みがあるのですが、慣れてくるとすごく気持ち良いです。
 僕だけかもしれませんが、眉毛を触られることでリラックスでき、寝ちゃうほど。


 話がかなり脱線しました。
 時代は変わり、僕がおっさんになった現在。
 泥酔した僕は毎晩のように、妻へ言うそうです。

「妻子ちゃん、抜いて~ ねぇ、抜いてよぉ~ 溜まってるって~」

 それを聞いた妻は呆れた顔で、こう言います。

「昨日、抜いたばっかじゃん……今日は抜けないよ」

 妻の言う通り、昨晩も同じやり取りをしているのに、記憶が飛んでいるので。
 話が嚙み合いません。

 その次の日も、僕は言います。

「今日こそ、抜いてよ~」
「はぁ……」

 ボケた老人を相手しているように感じるそうで、疲れるそうです。
 仕方なく、数本抜くためにベッドへ向かいます。

 ベッドの上で大の字に寝る僕は、既に夢の中。
 しかし、呪文のような同じ言葉を繰り返すそうです。

「抜いて……早く抜いて……」
「もうわかったから」

 そして数本、抜き終わったあと妻は僕に言います。

「ほら、抜いたけど。全然生えてないって」
 そう言って、抜いた眉毛を見せますが。僕はもう記憶が飛んでいます。
「ああ……」

 急に立ち上がったと思うと、トイレに向かうそうです。
 ここがとても大事なポイントです。
 僕の記憶はリセットされているようで、部屋に戻ってきて妻の顔を見ると、こう言います。

「妻子ちゃん、抜いてぇ……」
「は? さっき抜いたじゃん!?」
「あ、そう……」

 そして眠りについたと思った妻は、電気を消してリビングに向かい。
 マンガアプリを開いて、読書を楽しんでいると……。
 ゆらゆらと身体を揺らせた僕がまたトイレへ入ったと思ったら。
 再度、妻の顔を見てこう言うのです。

「ねぇ……眉毛、抜いてぇ」
「な、なに言ってるの? さっき抜いたじゃん」
「そっか……」

 これがしばらく繰り返されるのです。
 毎晩、毎日。

 僕は今、禁酒に挑戦している。
 本当なら毎晩、がぶがぶハイボールを飲みたいのだが……肝臓が悲鳴を上げているのだ。
 血液検査で、”ガンマGTP”という数値が、200を超えてしまった。

 これは最後に酒を飲んだ夜の出来事だ。
 ひょっとしたら、しばらくこの作品を更新できないかもしれません。
(酒が飲めないので)

 その日も僕はハイボールを浴びるほど、飲み終えて寝室に向かった。
 ベッドにダイブしたところまで、記憶はちゃんと残っているのだが……。

 翌朝、自室に入って、パソコンを起動しようとした瞬間。
 違和感を感じた。
 デスクチェアに見慣れないモノが、置いてあったから。

 ひとつは僕のメンズパンツ。そして何故か女物のブラジャー。
 どう考えても奥さんの下着だ。
 しかし、なぜそれが僕のデスクチェアに?

 ピンク色のブラジャーを手に持ち、考え込んでいると奥さんが声をかけてきた。

「あ、味噌くん。まだそれ持ってるの?」
「え? どういう意味?」

 妻が言うには、昨晩僕がそれを持って、リビングに現れたそうだ。
 大体、酔っぱらった時。僕はトイレに行ったあとの奇行が激しい。

 妻がリビングでスマホを触っていると、トイレに入る僕を見かけたそうだ。
 そして次に見かけたときは、なぜか自身のパンツと妻のブラジャーを持って、フラフラと立っていた。
 当然、妻は声をかける。

「ね、ねぇ……なにしてんの?」
「うぅ……着替える」

 誤解がないように説明させて頂きたい。
 この時、僕は上下ちゃんと服を着ています。

「着替えるって、それ。私のブラなんだけど?」

 妻がそう指摘すると、僕は「ふぇ?」と言いながら、ブラジャーを黙って見つめていたそうです。

「あぁ……」

 そして、自室に入ると、タンスに戻す余力が無かったようで。
 近くにあった、デスクチェアへ放り投げたそうな……。

 真相を知った僕は、とりあえずタンスの中に下着を戻しました。
 皆さんも飲み過ぎには、気をつけましょう!

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