しばらく山道を歩いていると、下の方に木々が開けて川が流れているのが見えた。夜は深く、辺りは街灯もなく暗いのだが、月明かりが妙に強く僕の周辺を照らしていた。僕は観光案内雑誌を片手に、実際に自分が今見ている風景と見開きページの幻想的なショットを重ね合わそうと努めた。
 川辺に着くと、多少のアングルの違いこそあれ、幻想的なショットと幻想的な風景がぴったりと重なった。僕は完全な状態を見たい。だからこの、アングルの微細なずれも妥協しない。
 僕はさらに少しだけ歩く。月明かりに導かれるように。幻想的なまん丸の月に吸い込まれるように。
 月明かりというのは不思議だ。荒み切った僕の心を、一片一片浄化してくれるかのように優しく包んでくれる。川のせせらぎと虫の声以外は静寂が広がり、僕はこの光景を一人占めできている現状に小さく心が踊った。
 確実に目的の場所に近付いている。少しずつだが確実に、僕の歩は百パーセントの一致に迫っている。でも、本当に微妙に重なり合わない。九十九パーセントは一致しているが、どこか違う。
 僕が百パーセントの一致を追い求め右往左往していると、川のせせらぎと虫の声以外の音が聞こえてきた。