【鬼龍院家の節分】
「はい、子鬼ちゃん、巻いていいよ」
「あいあい」
「あいー」
海苔の上に酢飯と具材を乗せて準備をした柚子は、ふたりがかりでうんしょうんしょと、巻きすを持って巻いていく子鬼たちを微笑ましく見ていた。
今日は節分の日。
柚子は子鬼たちと恵方巻きを作っていた。
最初は自分ひとりで作ろうと思っていたのだが、子鬼たちが自分たちも手伝いたいと目をキラキラさせたので、お願いすることにしたのだ。
とはいえ、小さな子鬼たちでは具材の下ごしらえはできないので、それは屋敷の料理人に教えてもらいながら柚子が作った。
屋敷の料理人が丁寧に教えてくれたおかげで、具材の味付けは完璧だ。
あとは巻くだけ。
重要な役目は子鬼が担当する。
きちんと手を洗って、やる気満々の子鬼たちは、せっせと柚子と玲夜、そして食いしん坊の龍の分まで巻き終えて、ふうっと、息をついている。
その様子に、柚子はふふっと小さく笑う。
「ご苦労さま。ありがとうね、子鬼ちゃん。おかげですごく美味しそうにできたわ」
「あい!」
「あーい!」
子鬼たちはお礼を言われて満足そうに胸を張った。
「さっそく、玲夜のとこに持っていこうか」
「あーい」
「やー」
手を挙げて返事をする子鬼たち。
柚子は自分と玲夜の分の恵方巻きをお盆で運び、その前を歩く子鬼はふたりで一本の恵方巻きを運んでいる。
それは龍にあげる分だ、
部屋に着くと、玲夜はすでに部屋で待っていた。
龍の姿もあり、待っていましたとばかりに子鬼たちに向かって飛んでくる。
『おお、我の寿司を待っておったぞ』
「あいあーい」
「あい!」
子鬼たちがどうぞと龍に差し出すと、龍がさっそくかぶりつこうとしているのを見た柚子は慌てて声をかける。
「あっ、ちゃんと東北東向いてね」
『おお、そうであった』
龍は、子鬼が持ってきた方位磁針を確認しながら、ちゃんと今年の方角に向いて食べ始める。
あのうるさい龍が、この時ばかりは静かに食べているのがなんとも新鮮だ。
龍はその小さな体のどこに入るのかと思うほど、バクバクと平らげた。
『もう一本いけそうだ』
「はいはい。また後で作ってあげる」
龍が一本で満足しないのは想定内なので、具材はまだ残してある。
『さすが柚子よ!』
龍が体をクネクネさせながら喜んでいると、龍に向かってたくさんの豆がぶつけられた。
『ぎゃー! なんだ!?』
突然の攻撃にびっくりしている龍に豆を投げつけていたのは、子鬼たちだ。
それぞれに豆の入った袋を持ち、龍に向かって投げつけてくる。
『なにをするのだ! 童子たち!?』
「鬼は外ー!」
「鬼は外ー!」
そう言って、さらに龍に投げつける。
子鬼たちは小さいくせに投げる豆の威力が予想以上に強い。
ベシベシと己の体に当たる豆に、龍は逃げ出す。
『のわぁぁ!』
「追いかける!」
「鬼は外~!」
子鬼たちは龍を追いかけ部屋を走って出ていった。
その様子を静かに見ていた柚子と玲夜は苦笑する。
「よくよく考えると、節分って鬼のあやかしに喧嘩売ってるよね」
「確かにな」
鬼は外、などと叫んで豆を投げるのである。
あやかしのトップにある一族に対して、なんと恐れ知らずか。
「だが、本家では大々的に行事として楽しんでるぞ。父さんが鬼の面を被って、一族の子供らに豆を投げられながら追い回されてる」
「それは鬼のあやかしとしていいの?」
「父さんだからな」
子供より千夜の方が、鬼役……というか真実鬼なのだが、楽しんでいそうだ。
屋敷の遠くから、龍の悲鳴がその日一番の悲鳴が聞こえてきた。
「食べよっか」
「ああ」
「はい、子鬼ちゃん、巻いていいよ」
「あいあい」
「あいー」
海苔の上に酢飯と具材を乗せて準備をした柚子は、ふたりがかりでうんしょうんしょと、巻きすを持って巻いていく子鬼たちを微笑ましく見ていた。
今日は節分の日。
柚子は子鬼たちと恵方巻きを作っていた。
最初は自分ひとりで作ろうと思っていたのだが、子鬼たちが自分たちも手伝いたいと目をキラキラさせたので、お願いすることにしたのだ。
とはいえ、小さな子鬼たちでは具材の下ごしらえはできないので、それは屋敷の料理人に教えてもらいながら柚子が作った。
屋敷の料理人が丁寧に教えてくれたおかげで、具材の味付けは完璧だ。
あとは巻くだけ。
重要な役目は子鬼が担当する。
きちんと手を洗って、やる気満々の子鬼たちは、せっせと柚子と玲夜、そして食いしん坊の龍の分まで巻き終えて、ふうっと、息をついている。
その様子に、柚子はふふっと小さく笑う。
「ご苦労さま。ありがとうね、子鬼ちゃん。おかげですごく美味しそうにできたわ」
「あい!」
「あーい!」
子鬼たちはお礼を言われて満足そうに胸を張った。
「さっそく、玲夜のとこに持っていこうか」
「あーい」
「やー」
手を挙げて返事をする子鬼たち。
柚子は自分と玲夜の分の恵方巻きをお盆で運び、その前を歩く子鬼はふたりで一本の恵方巻きを運んでいる。
それは龍にあげる分だ、
部屋に着くと、玲夜はすでに部屋で待っていた。
龍の姿もあり、待っていましたとばかりに子鬼たちに向かって飛んでくる。
『おお、我の寿司を待っておったぞ』
「あいあーい」
「あい!」
子鬼たちがどうぞと龍に差し出すと、龍がさっそくかぶりつこうとしているのを見た柚子は慌てて声をかける。
「あっ、ちゃんと東北東向いてね」
『おお、そうであった』
龍は、子鬼が持ってきた方位磁針を確認しながら、ちゃんと今年の方角に向いて食べ始める。
あのうるさい龍が、この時ばかりは静かに食べているのがなんとも新鮮だ。
龍はその小さな体のどこに入るのかと思うほど、バクバクと平らげた。
『もう一本いけそうだ』
「はいはい。また後で作ってあげる」
龍が一本で満足しないのは想定内なので、具材はまだ残してある。
『さすが柚子よ!』
龍が体をクネクネさせながら喜んでいると、龍に向かってたくさんの豆がぶつけられた。
『ぎゃー! なんだ!?』
突然の攻撃にびっくりしている龍に豆を投げつけていたのは、子鬼たちだ。
それぞれに豆の入った袋を持ち、龍に向かって投げつけてくる。
『なにをするのだ! 童子たち!?』
「鬼は外ー!」
「鬼は外ー!」
そう言って、さらに龍に投げつける。
子鬼たちは小さいくせに投げる豆の威力が予想以上に強い。
ベシベシと己の体に当たる豆に、龍は逃げ出す。
『のわぁぁ!』
「追いかける!」
「鬼は外~!」
子鬼たちは龍を追いかけ部屋を走って出ていった。
その様子を静かに見ていた柚子と玲夜は苦笑する。
「よくよく考えると、節分って鬼のあやかしに喧嘩売ってるよね」
「確かにな」
鬼は外、などと叫んで豆を投げるのである。
あやかしのトップにある一族に対して、なんと恐れ知らずか。
「だが、本家では大々的に行事として楽しんでるぞ。父さんが鬼の面を被って、一族の子供らに豆を投げられながら追い回されてる」
「それは鬼のあやかしとしていいの?」
「父さんだからな」
子供より千夜の方が、鬼役……というか真実鬼なのだが、楽しんでいそうだ。
屋敷の遠くから、龍の悲鳴がその日一番の悲鳴が聞こえてきた。
「食べよっか」
「ああ」