【足りないもの】
会社を出てすぐ、彼とのトークを開く。
『仕事終わったよー』
と入力し、送信ボタンを押した。そして電源ボタンを一回押し、カバンの中に仕舞った。街行く人たちは変わらない日常を過ごしている。それなのに私だけ、ちがう世界に取り残されたようだ。
人がひしめき合う退勤ラッシュの電車の中。イヤホンを耳に突っ込んでドアの近くに寄っかかる。なんとなく今日はいつもとちがう曲を聴きたくなった。自分には縁のない曲だと思っていた曲を検索し、再生ボタンを押した。イヤホンを伝い流れるこの曲は耳だけでなく心まで響かせてくる。電車の中で聴いてしまったがゆえに溢れ出すものを押さえ込むので精一杯だった。
電車から降りたらあたりはもう日が落ちかけている。いつもの帰り道。遊びから急いで帰っている小学生がいるのも、買い物袋を持った母親と幼稚園の制服を着た子供が手を繋いで歩いているのも、なにも変わらない。なのに世界ががらりと変わったような気がする。
『ただいま』
なにが変わってしまったのかと、いつも通りの生活をしようとしてみる。さっき送ったメッセージにも既読はつかない。返ってこない『おかえり』に変わってしまったことを実感する。
いつもなら、このぐらいの時間に楽しみにしていた時間がやってくる。一日の中で、一番幸せを感じる時間。それがない日は、これまでも何日もあったはずなのに。今日は、今日からは、なくなる。今日は、今日こそは。なんて思うこともなくなる。それが寂しくも思う。
もう変わってしまったのに。もう戻らないとわかっているのに。心のどこかで、かえってくるんじゃないかと思ってしまう自分がいる。
彼が、私の日常に、足りない。
会社を出てすぐ、彼とのトークを開く。
『仕事終わったよー』
と入力し、送信ボタンを押した。そして電源ボタンを一回押し、カバンの中に仕舞った。街行く人たちは変わらない日常を過ごしている。それなのに私だけ、ちがう世界に取り残されたようだ。
人がひしめき合う退勤ラッシュの電車の中。イヤホンを耳に突っ込んでドアの近くに寄っかかる。なんとなく今日はいつもとちがう曲を聴きたくなった。自分には縁のない曲だと思っていた曲を検索し、再生ボタンを押した。イヤホンを伝い流れるこの曲は耳だけでなく心まで響かせてくる。電車の中で聴いてしまったがゆえに溢れ出すものを押さえ込むので精一杯だった。
電車から降りたらあたりはもう日が落ちかけている。いつもの帰り道。遊びから急いで帰っている小学生がいるのも、買い物袋を持った母親と幼稚園の制服を着た子供が手を繋いで歩いているのも、なにも変わらない。なのに世界ががらりと変わったような気がする。
『ただいま』
なにが変わってしまったのかと、いつも通りの生活をしようとしてみる。さっき送ったメッセージにも既読はつかない。返ってこない『おかえり』に変わってしまったことを実感する。
いつもなら、このぐらいの時間に楽しみにしていた時間がやってくる。一日の中で、一番幸せを感じる時間。それがない日は、これまでも何日もあったはずなのに。今日は、今日からは、なくなる。今日は、今日こそは。なんて思うこともなくなる。それが寂しくも思う。
もう変わってしまったのに。もう戻らないとわかっているのに。心のどこかで、かえってくるんじゃないかと思ってしまう自分がいる。
彼が、私の日常に、足りない。

