「ここ〜、部活行くよ〜」
「あ!萌香、ちょっと待って」
「できるだけ早くしてね〜」
帰りの会が終わってすぐ私の教室に来たのは
幼児園の頃からの親友である萌香(モカ)だった。
「ごめん!遅くなった」
「大丈夫!早く行こ!!」
そう言うと彼女は返事も聞かず私の手を取り
更衣室まで全力で走り始めた。
私達3年生の教室は4階にあり、更衣室は1階にある。
バスケ部に所属していることもあって、
体力的には問題はなかったが
「廊下は歩きなさい」と先生に誰もが一度は
言われたことがあるであろうお決まりのセリフを
言われてしまった。この年でこれを言われるか、、、
「「失礼します!」」
2人で同時に挨拶をし、体育館に入った。
「今日は遅かったねw」
「仕方ないでしょ、委員会の話があったんだから」
「うわぁ、、、大変そ~w」
「まぁ、頑張ってw」
笑いながら話しかけてきたのは同じく3年生で
同じ地区に住んでいる瑠璃(ルリ)だ。
彼女は頭が良く、定期テストでは毎回順位1ケタらしい。
「まぁ、ここは先生からの信頼もあるしね〜」
「そうそう、頼まれ事が多いのはわかってるよw」
るりはいつまで笑ってるんだ、、、?
そう考えながらも部活の準備を始めた。
ちなみに「ここ」とは私のあだ名だ。
私の名前は心晴(コハル)
心晴の「心」という字からここと呼ばれるようになった。
私の背番号は11番、
8人いる3年生の中でも一番下手なのだ。
どれだけ練習しても、みんなのように上手になることは
この先ないだろう。
もともと運動は苦手だったのだから仕方ない。
今日の練習は放課後ということもあり、早く終わった。
明日は土曜日だが、朝から3時間練習がある。
1週間後は引退試合だし、練習もハードになる。
「今日は帰ったら早めに寝よう」
そう萌香と話して帰路についた。
このときはまだ良かった。
明日の練習であんなことがあるとは知らず
呑気に鼻歌を歌いながら帰った。
−翌日−
練習が始まって2時間が過ぎ、
ゲーム形式で練習を行っていた。
〜萌香side〜
それは、突然の出来事だった。
リバウンドに参加していたここが急にその場に倒れた。
同じくリバウンドに参加していたるりと
空中でぶつかり着地に失敗し、足をひねったらしい。
この部活に所属している以上、足をひねることは
よくあることだ。
しかし、私は見逃さなかった。
いつもと違う足のひねり方だったことを。
〜心晴side〜
「大丈夫!?足見せて」
そう言って一番に向かってきた萌香。
言われたとおりに足を見せると、
さっきひねったばかりだと言うのに
赤く腫れ上がった私の足がそこにはあった。
「今すぐに病院に行きなさい」
顧問やチームメイトにそう言われ、
病院に向かうことになった。
諸々の検査を終え、先生の待つ診察室へ案内された。
「右足関節外側靭帯損傷ですね。」
「2ヶ月のギプス固定の後、1ヶ月は運動を控えてください。」
耳を疑った。
その後、母と先生がなにか話をしていたが、
それどころではなかった。
絶望した。
レギュラーメンバーでもなく、3年生の中でも
一番下手な私がなって良かったんだ。
必死にそう言い聞かせた。
母と先生が心配そうにこちらを見ている。
いつの間にか、話は終わっていたらしい。
私はなんとも思っていないとでも
言わんばかりの表情でこう言った。
「いつ起きても仕方ないことだった。」
「こうなったのが他の子じゃなくて良かったとまで思ってる。」
「チームのことは他の子に任せるよ。」
「今は治療に専念する。」
私がそう言うと、納得はしていないようだったが
リハビリとギプスの準備を始めてくれた。
"嘘をついた"
心配をかけたくなかったとはいえ
罪悪感が湧いてきた。
暫くの間、慣れない松葉杖と右足が使えないことの
違和感を感じながら生活をした。
月曜日は保健室登校をした。
部活のみんなが会いに来てくれた。
るりは申し訳無さそうにしていた。
私は病院で先生に言ったことをもう1度言った。
みんなは「ここの分も頑張る」と言い、
部活をしにに行った。
涙がでそうになったのはここだけの秘密だ。
次の日から、エレベーターを使いながら
4階にある教室に登校した。
はじめはクラスメイトもびっくりしていて、
もう1人の親友である咲(サキ)は
心配しすぎてテンパっていた。
その様子を見て少しは元気になった気がする。
−2ヶ月後−
「やっとギプス外せたんだね!」と咲が言ってきた。
「そう!やっと足洗えるしちゃんと湯船に浸かれるw」
「でもまだ運動はできないんでしょ?」
「うん、、、」
「体育会の練習にも参加できないね〜」
「そうだね」
あの事があってから2ヶ月、
今はもうギプスを外し、元通りの生活を送っている。
唯一違うことは、部活がないことだけ。
私の学校の体育会では、
委員会に入っている人は仕事をしないといけない。
私は、閉会式の成績発表を任されている。
ギプスをしていたせいか、筋力も落ちて
運動もできなかったため、体力も落ちている。
本番では活躍をすることはできないであろう私の
一番の見せ場になるはずだ。
これが終われば、3年生が参加する行事はない。
受験に向けて勉強に専念することになる。
「これが最後だ、楽しもう」
誰に聞かれているかもわからない廊下で、
そうつぶやいた。
私が本音を隠してから8ヶ月が過ぎた。
未だに誰も私の本音に気づいていない。
この想いは、この想いだけは、
誰かに話すことはできず、一生抱えて
生きていくことになるだろう、、、
絶対に気づかれてはいけない。
私は、誰にも心配をかけないように
本音を隠して生活を送っている。
そして、あの事を忘れて
みんなが笑って過ごしている
幸せな日常を守るために、
『誰かに気づいてほしい』
そんな感情を頭の隅に追いやり、
私に、私の"弱さ"に見つからないように
そっと蓋を締めた。
もう二度と開くことはないであろう
重く、悲しみの色を漂わせている蓋を。
「あ!萌香、ちょっと待って」
「できるだけ早くしてね〜」
帰りの会が終わってすぐ私の教室に来たのは
幼児園の頃からの親友である萌香(モカ)だった。
「ごめん!遅くなった」
「大丈夫!早く行こ!!」
そう言うと彼女は返事も聞かず私の手を取り
更衣室まで全力で走り始めた。
私達3年生の教室は4階にあり、更衣室は1階にある。
バスケ部に所属していることもあって、
体力的には問題はなかったが
「廊下は歩きなさい」と先生に誰もが一度は
言われたことがあるであろうお決まりのセリフを
言われてしまった。この年でこれを言われるか、、、
「「失礼します!」」
2人で同時に挨拶をし、体育館に入った。
「今日は遅かったねw」
「仕方ないでしょ、委員会の話があったんだから」
「うわぁ、、、大変そ~w」
「まぁ、頑張ってw」
笑いながら話しかけてきたのは同じく3年生で
同じ地区に住んでいる瑠璃(ルリ)だ。
彼女は頭が良く、定期テストでは毎回順位1ケタらしい。
「まぁ、ここは先生からの信頼もあるしね〜」
「そうそう、頼まれ事が多いのはわかってるよw」
るりはいつまで笑ってるんだ、、、?
そう考えながらも部活の準備を始めた。
ちなみに「ここ」とは私のあだ名だ。
私の名前は心晴(コハル)
心晴の「心」という字からここと呼ばれるようになった。
私の背番号は11番、
8人いる3年生の中でも一番下手なのだ。
どれだけ練習しても、みんなのように上手になることは
この先ないだろう。
もともと運動は苦手だったのだから仕方ない。
今日の練習は放課後ということもあり、早く終わった。
明日は土曜日だが、朝から3時間練習がある。
1週間後は引退試合だし、練習もハードになる。
「今日は帰ったら早めに寝よう」
そう萌香と話して帰路についた。
このときはまだ良かった。
明日の練習であんなことがあるとは知らず
呑気に鼻歌を歌いながら帰った。
−翌日−
練習が始まって2時間が過ぎ、
ゲーム形式で練習を行っていた。
〜萌香side〜
それは、突然の出来事だった。
リバウンドに参加していたここが急にその場に倒れた。
同じくリバウンドに参加していたるりと
空中でぶつかり着地に失敗し、足をひねったらしい。
この部活に所属している以上、足をひねることは
よくあることだ。
しかし、私は見逃さなかった。
いつもと違う足のひねり方だったことを。
〜心晴side〜
「大丈夫!?足見せて」
そう言って一番に向かってきた萌香。
言われたとおりに足を見せると、
さっきひねったばかりだと言うのに
赤く腫れ上がった私の足がそこにはあった。
「今すぐに病院に行きなさい」
顧問やチームメイトにそう言われ、
病院に向かうことになった。
諸々の検査を終え、先生の待つ診察室へ案内された。
「右足関節外側靭帯損傷ですね。」
「2ヶ月のギプス固定の後、1ヶ月は運動を控えてください。」
耳を疑った。
その後、母と先生がなにか話をしていたが、
それどころではなかった。
絶望した。
レギュラーメンバーでもなく、3年生の中でも
一番下手な私がなって良かったんだ。
必死にそう言い聞かせた。
母と先生が心配そうにこちらを見ている。
いつの間にか、話は終わっていたらしい。
私はなんとも思っていないとでも
言わんばかりの表情でこう言った。
「いつ起きても仕方ないことだった。」
「こうなったのが他の子じゃなくて良かったとまで思ってる。」
「チームのことは他の子に任せるよ。」
「今は治療に専念する。」
私がそう言うと、納得はしていないようだったが
リハビリとギプスの準備を始めてくれた。
"嘘をついた"
心配をかけたくなかったとはいえ
罪悪感が湧いてきた。
暫くの間、慣れない松葉杖と右足が使えないことの
違和感を感じながら生活をした。
月曜日は保健室登校をした。
部活のみんなが会いに来てくれた。
るりは申し訳無さそうにしていた。
私は病院で先生に言ったことをもう1度言った。
みんなは「ここの分も頑張る」と言い、
部活をしにに行った。
涙がでそうになったのはここだけの秘密だ。
次の日から、エレベーターを使いながら
4階にある教室に登校した。
はじめはクラスメイトもびっくりしていて、
もう1人の親友である咲(サキ)は
心配しすぎてテンパっていた。
その様子を見て少しは元気になった気がする。
−2ヶ月後−
「やっとギプス外せたんだね!」と咲が言ってきた。
「そう!やっと足洗えるしちゃんと湯船に浸かれるw」
「でもまだ運動はできないんでしょ?」
「うん、、、」
「体育会の練習にも参加できないね〜」
「そうだね」
あの事があってから2ヶ月、
今はもうギプスを外し、元通りの生活を送っている。
唯一違うことは、部活がないことだけ。
私の学校の体育会では、
委員会に入っている人は仕事をしないといけない。
私は、閉会式の成績発表を任されている。
ギプスをしていたせいか、筋力も落ちて
運動もできなかったため、体力も落ちている。
本番では活躍をすることはできないであろう私の
一番の見せ場になるはずだ。
これが終われば、3年生が参加する行事はない。
受験に向けて勉強に専念することになる。
「これが最後だ、楽しもう」
誰に聞かれているかもわからない廊下で、
そうつぶやいた。
私が本音を隠してから8ヶ月が過ぎた。
未だに誰も私の本音に気づいていない。
この想いは、この想いだけは、
誰かに話すことはできず、一生抱えて
生きていくことになるだろう、、、
絶対に気づかれてはいけない。
私は、誰にも心配をかけないように
本音を隠して生活を送っている。
そして、あの事を忘れて
みんなが笑って過ごしている
幸せな日常を守るために、
『誰かに気づいてほしい』
そんな感情を頭の隅に追いやり、
私に、私の"弱さ"に見つからないように
そっと蓋を締めた。
もう二度と開くことはないであろう
重く、悲しみの色を漂わせている蓋を。