夜、公園に向かって走る。人がいなそうな公園を一昨日見つけたのだ。イヤホンで好きな曲を流しながら走る。公園に着いてピッチングでも始めようかとした時、人がいることに気づいた。暗闇によく映える色白の横顔と大きなヘーゼル色の瞳には見覚えがあった。
　日向だった。何か大事なものを抱えるように何かを抱きしめると、ベンチに向かって彼女は歩いた。彼女の右手に握られていたのは野球ボールだった。彼女は驚いたように大きな瞳をさらに大きく見開いたが、すぐ俺からどうでもいいというように目を背けた。彼女はヘッドホンをつけるとトランペットに口を付けた。どうしてか俺は彼女の右手に握られていた野球ボールのことが忘れられない。ただの野球ボールだけれど、俺が初恋の女の子にあげた野球ボールに似ている気がした。野球が幼い頃から好きだった俺は、近所の野球の試合を見に行っていた。その時、隣りに座っていた女の子は今でも忘れられない。大きなヘーゼル色の瞳に涙をいっぱいため、俺に向けて頑張ってと微笑む姿は、とても綺麗だった。彼女の涙と笑顔ほどきれいなものはあれから、見たことがない。あの子は今どうしているだろうか。でももうあの子は俺のことなんて覚えてもいないだろう。夜の静かな公園にトランペットと素振りの音が響いていた。