両親の不仲が原因で、俺はこの春から長野県にある高校に転校することになった。正直言ってどこの学校だろうが野球部があれば何でも良い。四月七日、転校初日。自己紹介を終えるとクラスの人を見渡す。先生は、俺を窓側の前から二番目の席に行くようにと言った。素直に頷くと、指定された席に座る。「日向さん。黒瀬くん、転校初日で心配だろうから学校のこと色々教えてあげてね。」と担任。ガキでもないんだからいちいち学校紹介されなくてもいいと内心で思う。どうやら隣の人は女で日向という名前らしい。形だけでも挨拶をしようと、顔を隣に向ける。「よろしく。」そう挨拶をした。日向は何も言わず、ただ窓の外を眺めている。担任はしきりに日向に喋りかけていた。担任は俺の方を見て、「日向さんは、あまり喋らない子なの。隣、夕凪さんに変えたほうがいいかしら?」と苦笑交じりに言った。担任は、学級委員なの。と一人の又もや女を指す。どうでもいいと大きくバレないように息をつくと、「いえ、大丈夫です。」と言った。一時間目の始まるチャイムが鳴る。転校初日で、教科書がない。隣の女、日向と言ったか彼女に「教科書見せて欲しい。」と頼んだ。返事がない。「おい。」と机を叩くとようやく彼女は俺に目を向けた。彼女は、誰?といった表情で俺に目を向けている。きっと無関心な彼女からしたら転校生などどうでも良いものだったのだろう。もう一度、教科書を見せて欲しいと頼むと彼女は小さく首を縦に振った。彼女は机を近づけてくると教科書を広げ、居眠りを始めた。数学の一番しなくてはいけない単元を眠って聞くとはなかなかだなと思う。数学の教師は、中年の男だ。いかにも怒ったら怖いというか面倒臭いタイプだ。寝てていいのか?と思う。
「おい、日向。八十六ページの問二、解いてみろ」と数学の教師。隣の彼女はガバッと起きやがるといかにも簡単そうにその問題を解いてみせた。いわゆる天才というやつなんだろうと頭で理解する。冷めていてそれでいて優秀それが日向の第一印象だった。
転校して、十日が過ぎた。だんだんこの学校での生活にも慣れてきた。野球部はそれなりに強くて、安堵した。野球があったから俺は色々なことに耐えられた。それから、脳裏に浮かんだのは幼い少女のあどけない笑顔だった。そして、放課後いつも通り野球部へ向かった。炎天下の中額に浮かぶ汗を何度も拭う。水分補給をしに、ペットボトルに手を付けた時、大きなトランペットの音が聞こえた。きれいな音で、つい音の主を探す。音楽室でトランペットを奏でていたのは、隣の席の日向だった。なにかに一生懸命に彼女が取り組んでいる姿は想像できなかったので一瞬見間違えたのかと自分の目を疑った。トランペットに息を吹き込む彼女の色白の横顔と大きなヘーゼル色の瞳が幼い頃のあの少女と重なる。まさか、な。ただ名前が一緒だからといって彼女な訳がない。あんなまさに太陽のような少女があんな氷のような誰も寄せ付けない儚げな美しさを纏う少女になったわけがない。
俺の初恋は、太陽のような眩しい笑顔をした少女だったー。
「おい、日向。八十六ページの問二、解いてみろ」と数学の教師。隣の彼女はガバッと起きやがるといかにも簡単そうにその問題を解いてみせた。いわゆる天才というやつなんだろうと頭で理解する。冷めていてそれでいて優秀それが日向の第一印象だった。
転校して、十日が過ぎた。だんだんこの学校での生活にも慣れてきた。野球部はそれなりに強くて、安堵した。野球があったから俺は色々なことに耐えられた。それから、脳裏に浮かんだのは幼い少女のあどけない笑顔だった。そして、放課後いつも通り野球部へ向かった。炎天下の中額に浮かぶ汗を何度も拭う。水分補給をしに、ペットボトルに手を付けた時、大きなトランペットの音が聞こえた。きれいな音で、つい音の主を探す。音楽室でトランペットを奏でていたのは、隣の席の日向だった。なにかに一生懸命に彼女が取り組んでいる姿は想像できなかったので一瞬見間違えたのかと自分の目を疑った。トランペットに息を吹き込む彼女の色白の横顔と大きなヘーゼル色の瞳が幼い頃のあの少女と重なる。まさか、な。ただ名前が一緒だからといって彼女な訳がない。あんなまさに太陽のような少女があんな氷のような誰も寄せ付けない儚げな美しさを纏う少女になったわけがない。
俺の初恋は、太陽のような眩しい笑顔をした少女だったー。