「おはよー!」クラスメイトに笑顔を振りまきながら教室に入る。教室に入ると、友達の綾華が私に話しかけてきた。
「あの子、少し可愛いからって調子乗り過ぎだよねー」と綾華は窓側の少女を指差した。「向日葵って名前もダサいし、全然似合ってないじゃん!」と、遅れてきた遥香も言う。私の視線は、窓際の少女に釘付けのままだった。少女、向日葵という名前が似合っていることも私が一番分かっている。でも、私に綾華と遥香に「そんな事言わないで!」と悪口を咎める勇気はない。だから私は二人に愛想笑いを返した。
 もしこの世界に神様とやらがいるのなら教えてほしい。向日葵の一番苦しい時期に私がそばに居られたのなら、向日葵の悪口を咎める勇気が私にあったのなら彼女はあの笑顔を失わずに済んだのだろうか。そして、ずっと親友のままで要られたのだろうかー。
  昼休み、私は学校をふらふらと歩いていた。とにかく誰もいない場所に行きたかった。そして、私は図書室へ入った。本を探しているフリをしながら目から次々に零れ落ちる水滴を拭っていた。拭っても拭っても溢れ出してくる水滴を止める方法が私には分からなかった。その時、後ろから遠慮気味な足音が聞こえ思わず息を呑んだ。当たり前だ。勝手に誰もいないと思い込んでいたけれど、図書室へ来る人だっている。油断した。いつも通りヘラっと笑って、目にゴミが入ったとでもいって誤魔化せばいい。
  「のばらー。大丈夫?」鼓膜を優しく揺する声がした。そこにいたのは、私の親友だった、幼馴染みの向日葵だった。向日葵の昔はキラキラと輝いていたヘーゼル色の二つの双眸が、私を見上げていた。向日葵にごめんと泣きつきたい気持ちとは裏腹に私の唇は勝手に別の言葉を紡いでいた。「大丈夫。心配してくれて、ありがとう。目にゴミが入ちゃって、」やめて、行かないで。何度でも何度でも謝るから、お願いー。あの頃みたいに笑ってー。というわたしの心の声を斬り捨てるようにして、「そっか。ごめんね。」と言って、向日葵は私から背を向けた。いつからだろう。私達はどこで、間違えたのか。神様どうか教えてください。