家に変えるとすすり泣きが聞こえた。まさか、と思った。あの人が家に帰ってきたのは半ヶ月ぶりだろうか。どちらにしても嫌悪しか湧いてこないあの人に合わないように自分の部屋へ行こうとしたが、あの人の声に遮られた。気持ち悪い声で俺の名前を呼んだ。自分でも驚くほど冷たい声が出た。母親は、男にいつも騙されて捨てられている。ざまあみろと思うが、今回の男はそれでも長続きした方ではないかと思う。ずっと泣いて俺にすがってくる母親を見下ろした。それから、やっとのことで夕飯を食べ、風呂に入った。とても疲れた。夜、すっかり習慣になった公園に着く。そして、無心でバットを振った。母親の癇癪で殴られて切れた唇を乱暴に服で拭った。だから、女は嫌いだ。男と遊ぶのは勝手にしろと思うが、当たられると迷惑だ。痛えな。と殴られた箇所に手を当てた。
「大丈夫?血、出てる。」妙に鼓膜に響く優しい声がした。日向だった。「いや、大丈夫。」と答えると、あっさり引き下がるかと思ったが、違った。日向は、ポケットから絆創膏とガーゼを出してきた。「放っておくと、傷が開くよ。家、来て。」と言った。まさか、家に来てと言われるとは。「お家の人とかにも迷惑かかるだろうし、いい。大丈夫」と答えた。彼女は、「私の家、親居ないから。いいよ来て。」と言った。きっと、彼女は俺がなんと断ろうとも手当てをするつもりだったのだろう。自分の家にも帰る気が起きない。有難く、首を縦に振った。彼女の家は、公園から徒歩二分くらいのところだった。親が居ないというのは、彼女もまたなにか理由があるのだろうか。彼女の家は、大きい家だった。親が居ないという割には、家の中が明るい。日向は、玄関の前に立つと、俺の方を振り返った。「家、兄弟がいるけど、気にしなくていいから」いいからと言った。そうか、と納得た。日向は、珍しく「ただいまー!!」と大きな声を上げた。「おかえり!お姉ちゃん!」と妹だろうか声が帰ってきた。玄関に飛んできた少女は黒い髪を2つに横に縛っていた。少女はも、ぽかんとした顔で俺を見ている。「椿、この人のことは気にしなくていいよ。怪我していたから、一日家に泊めるだけ。」と日向言った。日向曰く椿は、納得したように頷くとリビングに俺を通した。リビングには他にも三人の少女が居た。日向は、左から三女の椿、四女のかすみ、五女の蕾だと俺に紹介した。兄弟が思った以上にかなり多くて、驚いた。そして、日向自身は次女だと俺に紹介した。長女は初音というらしい。彼女はもう成人していて、夫と暮らしていると俺に紹介した。日向は家にいると、とても明るい少女だった。「皆、ご飯食べた〜?」と日向が聞くと、皆食べてないよと答える。日向はちょっと待ってて今作るからねと言って台所に立った。なんと言ったか五女の蕾が、俺を見て椅子を引いてくれた。彼女は人懐っこい性格らしく初対面の俺に向かって楽しそうに話をする。彼女の話によると彼女達は7人兄弟だそうだ。長男は成人しており、今は仕事に行っていて今は居ないらしい。そして、彼女らの両親は、交通事故によって亡くなったそうだ。そんなことを話している間に、日向はご飯を作り終わったそうだ。皆は、ご飯を食べると各々の部屋に向かった。「お風呂沸かしたら、呼ぶからね。今日は、かすみから入っていいよ。」と日向は言う。かすみという少女は大人しそうな黒髪のボブの少女だ。首を躊躇いがちに一回縦にふると、彼女は自分の部屋に向かった。俺は、日向に案内され居間に行くと、傷の消毒をしてくれた。後ろにある本棚を日向は指差し、好きな漫画でも読んでてくれていいからと言った。彼女はお風呂を沸かしに行った。皆がお風呂に入った。漫画を読んでていていいと言われたが、申し訳無さが勝った。居間を見渡していると、いつの日か彼女が大事に持っていた野球ボールが目に入った。そこに書かれていたのはもう薄くなってしまっていたが``雨竜``と微かに名前が見えた。その名前に思わず息を呑んだ時、日向が風呂から出てきた。風呂から日向は、出てくると洗い上げを済ませた。そして、俺に向かって居間で寝ていいよと言った。その時、四女のかすみが階段から降りてきた。「お姉ちゃん。」と言いながら降りてくる。日向は「どうしたの?」とかすみに駆け寄っていく。「明日、学校行きたくない。」かすみがそういうと、日向は優しくかすみに微笑みかけると「そっか。分かった。いつでもいいよ。かすみが言いたいときになったらでいいから。いつでもお姉ちゃんはかすみの味方だよ。」と言った。ゆっくり寝てねと日向が言うと彼女はほっとしたような笑みを浮かべ、二階に戻った。「ただいま。」玄関が開く音がした。「おかえり。蒼(そう)。」と日向は言った。彼女のお兄さんが帰ってきたようだ。日向がまた俺のことを手短に話した。そうかとだけいった日向のお兄さんは日向が作ったご飯を食べ、風呂に入り、俺の隣に来た「俺もここで寝ていい?」と蒼さんがいうと日向は驚いたように目を見開いた後、縦に頷いた。