何とも言えない蒸し暑さと、眩しい太陽の光で眠りが浅くなった頃、ガチャリとドアが開く音がする。
「翔くん! 勝手に運転なんて、危ないことしちゃダメでしょう! 清美ちゃんもちゃんと止めないと駄目じゃないの!」
目を開けると、優しい祖母が鬼のような形相で声を荒げていた。
「敷地は出てないから法律的にはセーフだよ」
「そういう問題じゃないの! もし、お向かいさんのお家に突っ込んだり、事故になったりしたらどうするの!」
「あのね、おばあちゃん」
祖母は実行犯が私ではなく翔だと勘違いしている。ちゃんと私がやったと説明しようとしたが、翔は私の説明を遮った。
「へーい。ごめんなさーい」
翔は私を一瞬振り返ってウィンクをする。下手なウィンクで、右目を閉じようとして左目も半分閉じてしまっていた。翔が高校の宿泊行事でウィンクキラーをする前に教えてあげた方がいいのかもしれない。
「居間に戻りなさい。おじいちゃまにもみっちり叱ってもらいますからね!」
車から軽やかに飛び降りて、祖母についていく翔。その際に、スウェットのポケットから何かを落とした。後部座席の窓越しに私に大袈裟な口パクをする。
「一連托生だよ」
本当に翔の言葉がそれで合っているかは分からない。しかし、これから翔と二人で居間で祖父母からこってりお説教されるのは間違いないだろう。
その前にスマートフォンを確認する。莉緒からのメッセージは、あの後追加で何件か来ていた。
「きよみんいないとつまらないよ」
「きよみんと回りたかったな。受験終わったら、いっぱい遊ぼうね!」
「最後だし、来てほしいな」
数時間おきに、来てほしいと言うお願いと私の気持ちを尊重すると言う真逆の内容がループしている。
「返信遅れてごめん」
十秒後、既読の文字が表示される。私は意を決して、メッセージを送信する。
「やっぱり行くことにした」
学校行事という自然な流れに身を任せてみるのもいいのかもしれない。きっと、今という時間を楽しめるような気がした。それは高校受験に受かることより大切に思えた。
数秒後、莉緒からスタンプが返って来た。「やったあ」の文字と共にテディベアが万歳をしているスタンプ。
自由行動の作戦会議や、宿用の服を買いに行く日程調整は今日の午後にしようと提案して、車を降りる。
しゃがんで手をのばし、さっき翔が落とした物を拾う。未開封のハイチュウが落ちていた。それも、私の好きな青りんご味。
「あいつ、ハイチュウ持ってないって言ったのに」
嘘ってこのことだったのか、と腑に落ちた。私にとっては前代未聞の大きな決断だったのに、そもそもハイチュウを買いに行く必要がなかったとは。とんだ嘘つきだ。ペテン師だ。私は翔に振り回されっぱなしだ。
今日の夜、思いっきり枕をぶつけてやる。私だって手加減しない。枕をぶつけられて間抜けな声をあげる翔を想像して思わずにやける。今日の夜が楽しみだ。
はやる気持ちをおさえて、ハイチュウを拾い上げた。軽く砂やほこりを掃ってポケットに入れる。さて、修学旅行で羽目を外して怒られる予行演習の時間だ。
「翔くん! 勝手に運転なんて、危ないことしちゃダメでしょう! 清美ちゃんもちゃんと止めないと駄目じゃないの!」
目を開けると、優しい祖母が鬼のような形相で声を荒げていた。
「敷地は出てないから法律的にはセーフだよ」
「そういう問題じゃないの! もし、お向かいさんのお家に突っ込んだり、事故になったりしたらどうするの!」
「あのね、おばあちゃん」
祖母は実行犯が私ではなく翔だと勘違いしている。ちゃんと私がやったと説明しようとしたが、翔は私の説明を遮った。
「へーい。ごめんなさーい」
翔は私を一瞬振り返ってウィンクをする。下手なウィンクで、右目を閉じようとして左目も半分閉じてしまっていた。翔が高校の宿泊行事でウィンクキラーをする前に教えてあげた方がいいのかもしれない。
「居間に戻りなさい。おじいちゃまにもみっちり叱ってもらいますからね!」
車から軽やかに飛び降りて、祖母についていく翔。その際に、スウェットのポケットから何かを落とした。後部座席の窓越しに私に大袈裟な口パクをする。
「一連托生だよ」
本当に翔の言葉がそれで合っているかは分からない。しかし、これから翔と二人で居間で祖父母からこってりお説教されるのは間違いないだろう。
その前にスマートフォンを確認する。莉緒からのメッセージは、あの後追加で何件か来ていた。
「きよみんいないとつまらないよ」
「きよみんと回りたかったな。受験終わったら、いっぱい遊ぼうね!」
「最後だし、来てほしいな」
数時間おきに、来てほしいと言うお願いと私の気持ちを尊重すると言う真逆の内容がループしている。
「返信遅れてごめん」
十秒後、既読の文字が表示される。私は意を決して、メッセージを送信する。
「やっぱり行くことにした」
学校行事という自然な流れに身を任せてみるのもいいのかもしれない。きっと、今という時間を楽しめるような気がした。それは高校受験に受かることより大切に思えた。
数秒後、莉緒からスタンプが返って来た。「やったあ」の文字と共にテディベアが万歳をしているスタンプ。
自由行動の作戦会議や、宿用の服を買いに行く日程調整は今日の午後にしようと提案して、車を降りる。
しゃがんで手をのばし、さっき翔が落とした物を拾う。未開封のハイチュウが落ちていた。それも、私の好きな青りんご味。
「あいつ、ハイチュウ持ってないって言ったのに」
嘘ってこのことだったのか、と腑に落ちた。私にとっては前代未聞の大きな決断だったのに、そもそもハイチュウを買いに行く必要がなかったとは。とんだ嘘つきだ。ペテン師だ。私は翔に振り回されっぱなしだ。
今日の夜、思いっきり枕をぶつけてやる。私だって手加減しない。枕をぶつけられて間抜けな声をあげる翔を想像して思わずにやける。今日の夜が楽しみだ。
はやる気持ちをおさえて、ハイチュウを拾い上げた。軽く砂やほこりを掃ってポケットに入れる。さて、修学旅行で羽目を外して怒られる予行演習の時間だ。



