木曜日、いつも私より来るのが早い西条くんよりも早く行こうといつもの三十分前に出る。
けれどそこにはもう既に西条くんがいた。
「え、今日早いじゃん」
驚く西条くんだが私も驚きだ。
いつも一体、私よりどれだけ早く来ていたんだろう。
そんな疑問が顔から出ていたのか西条くんは笑いながら言う。
「今日は特別。雪がちゃんと出来たのか心配で早く来た」
考えることは同じだったらしい。
私は早速と印刷した二枚の紙を取り出す。
一つ目は見つからなかったフォントの部分の文章を抜いたもの、そしてもう一つが私が勝手に代わりになりそうなフォントを選んで作ったもの。
その二つを見せながら私はこうなった経緯を説明する。
「──だから、ちょっと考え直したいなって」
私の説明を一通り聞くと西条くんは顎に手を当て考え込む。
一分ほどの時間が経過しようやく口を開いた西条くんの言葉は思いもよらないものだった。
「じゃあ家、来なよ」
「へ?」
意味が分からず間抜けな声が出る。
「俺の家、パソコンあるし。俺のやってること家族知ってるし、お金は小遣い貯めてたのがあるから」
「え、でもそんな家行くって」
「駄目?」
「駄目ってわけじゃないけど……」
何となく、何となくだ。これからも西条くんとは真夜中のここでしか会わないような気がしていた。
別にここでしか会っちゃいけないわけでもここでしか会えないわけでもない。ただお互いにどこに住んでいるだとかどこの学校に通っているだとかそんなプライベートな話はしていなかったので西条くんは私と深く関わりたくはないのだと思っていたし私は深く関わりたくはなかった。
西条くんと仲良くなっていくたびに私は雪じゃないんだよ、と本当のことを言いたくなって、でもそれで嫌われたらと思うと言いたくなくなる。
雪を名乗らなきゃきっと私はここまで西条くんと仲良くなれなかった。名前だけでも自分ではなくなったから私は変われた。
けれどそれが西条くんを騙していい理由なんかにはならない。これ以上関わってしまったら私は西条くんに嘘をついている罪悪感にどんどん押し潰されてしまう。
それなのに突然、家に来なよだなんて言うもんだから私の頭はショートしそうだった。
「家には姉ちゃんもいるから二人きりって訳じゃないし。リビングでやるし」
どうやら西条くんは私が男の子の家に行くことに抵抗を感じていると思ったらしい。
「ね、お願い! せっかくここまで妥協なしで来たんだ。もうちょっと頑張りたい」
駄目? と聞く西条くんは両手を合わせ上目遣いだ。
「……いいよ」
真っ直ぐなその瞳は見つめていると吸い込まれそうになるくらい綺麗でそんな瞳を見つめてしまったからには断れるはずなんてなかった。
けれどそこにはもう既に西条くんがいた。
「え、今日早いじゃん」
驚く西条くんだが私も驚きだ。
いつも一体、私よりどれだけ早く来ていたんだろう。
そんな疑問が顔から出ていたのか西条くんは笑いながら言う。
「今日は特別。雪がちゃんと出来たのか心配で早く来た」
考えることは同じだったらしい。
私は早速と印刷した二枚の紙を取り出す。
一つ目は見つからなかったフォントの部分の文章を抜いたもの、そしてもう一つが私が勝手に代わりになりそうなフォントを選んで作ったもの。
その二つを見せながら私はこうなった経緯を説明する。
「──だから、ちょっと考え直したいなって」
私の説明を一通り聞くと西条くんは顎に手を当て考え込む。
一分ほどの時間が経過しようやく口を開いた西条くんの言葉は思いもよらないものだった。
「じゃあ家、来なよ」
「へ?」
意味が分からず間抜けな声が出る。
「俺の家、パソコンあるし。俺のやってること家族知ってるし、お金は小遣い貯めてたのがあるから」
「え、でもそんな家行くって」
「駄目?」
「駄目ってわけじゃないけど……」
何となく、何となくだ。これからも西条くんとは真夜中のここでしか会わないような気がしていた。
別にここでしか会っちゃいけないわけでもここでしか会えないわけでもない。ただお互いにどこに住んでいるだとかどこの学校に通っているだとかそんなプライベートな話はしていなかったので西条くんは私と深く関わりたくはないのだと思っていたし私は深く関わりたくはなかった。
西条くんと仲良くなっていくたびに私は雪じゃないんだよ、と本当のことを言いたくなって、でもそれで嫌われたらと思うと言いたくなくなる。
雪を名乗らなきゃきっと私はここまで西条くんと仲良くなれなかった。名前だけでも自分ではなくなったから私は変われた。
けれどそれが西条くんを騙していい理由なんかにはならない。これ以上関わってしまったら私は西条くんに嘘をついている罪悪感にどんどん押し潰されてしまう。
それなのに突然、家に来なよだなんて言うもんだから私の頭はショートしそうだった。
「家には姉ちゃんもいるから二人きりって訳じゃないし。リビングでやるし」
どうやら西条くんは私が男の子の家に行くことに抵抗を感じていると思ったらしい。
「ね、お願い! せっかくここまで妥協なしで来たんだ。もうちょっと頑張りたい」
駄目? と聞く西条くんは両手を合わせ上目遣いだ。
「……いいよ」
真っ直ぐなその瞳は見つめていると吸い込まれそうになるくらい綺麗でそんな瞳を見つめてしまったからには断れるはずなんてなかった。