「眠そうだねぇ」
重たい瞼を擦りながら机に向かっているといつからか勝手に部屋に入ってきていたお姉ちゃんが私の顔を覗き込んでにやりと笑った。
真夜中の散歩を終え、帰ってきてからも何だかよく眠れなかった私は今、眠気と戦っている。
「お姉ちゃんが勧めたんでしょ」
私が睨むとお姉ちゃんはケラケラと笑った。
お姉ちゃんは自由だ。けれど何も考えていないのかと問われればそれは違う。
人の些細な変化にも気が付きやすい優しいお姉ちゃんだ。たまのだる絡みが少しうざったいけれどそんな所も含めてお姉ちゃんのことは好きだ。
真夜中の散歩はそんなお姉ちゃんが私の息抜きとして提案してくれたものだった。
私の真夜中の散歩を唯一知っている人。いや、今はもう二人に増えてしまったのだけれど。
「あんまりそうやって冷たく接するならお母さんに言っちゃうよーだ」
「はいはい」
最初の頃は焦っていた脅しもお姉ちゃんにその気がないのだと知ると返事も適当になった。
「で、何。いつもは寝不足にならないようには帰ってきてるのに今日は何かあった訳?」
心配してくれているらしい。
相変わらず直球には聞いてこない所もお姉ちゃんらしくて微笑ましく思う。
「ちょっとね、いや悪い話じゃないんだけど」
そう西条くんとの出会いを話すとお姉ちゃんは目を丸くする。
「へえ、葉月がそんな早く心を許すなんて珍しいじゃん」
「うん、自分でもびっくりしてる」
音楽なんて分からない。けれどあの音を奏でる人なら、あんなに楽しそうに演奏する人なら悪い人じゃない気がした。
「年齢は?」
「同じ高一だって」
あの後、少し話すと西条くんは私のことを初めお姉さんと呼んでいたけれど実際には同い年だった。大学生くらいかと思っていたと西条くんは驚いていた。
「へえ、じゃあ久しぶりの同級生の友達だ」
「友達、ではないような気がするけど」
だからと言って私たちの関係にぴったりの名前は分からない。知り合い、くらいの関係だろうか。
「友達なんて友達だって自分が思えば友達なんだから葉月が仲良くなりたいと思った時点で友達なの」
その言葉に私は首を傾げる。
そもそも私は西条くんのことをまだあまり知らない。
ただ、西条くんの奏でる音楽が心地よくて、西条くんがお姉ちゃんのように自由に生きていて羨ましかっただけ。
それだけの感情で友達と言い切るのは西条くんにも失礼な気がした。
「それで何、じゃあその西条くんとたくさん話してたってこと?」
「ううん、違う」
西条くんと話した時間は大した時間ではない。むしろいつもより早く帰ってきたくらいだ。
「ただ、何か眠れなくて」
それほど私にとっては西条くんの存在が衝撃的だった。
今まで私にこれほどまで食い下がってきた人がいなかった。だから私も他人をしっかりと見つめたことがなかった。
放課後、寄り道をしているクラスメイトも行事に熱中しているクラスメイトも全部見て見ぬふりをしていた。
それなのに今日、見てしまった。
「ねえ、お姉ちゃんは何でそんなにいつも自信満々なの?」
お姉ちゃんが中学に入り素行不良になった時、周りの大人がそれではろくな大人にならないと諭していた時も実際に成績が下がっていった時もお姉ちゃんは自信満々だった。
「私は私の味方だから、かな」
そう語るお姉ちゃんの目はどこか遠くを見つめていた。
重たい瞼を擦りながら机に向かっているといつからか勝手に部屋に入ってきていたお姉ちゃんが私の顔を覗き込んでにやりと笑った。
真夜中の散歩を終え、帰ってきてからも何だかよく眠れなかった私は今、眠気と戦っている。
「お姉ちゃんが勧めたんでしょ」
私が睨むとお姉ちゃんはケラケラと笑った。
お姉ちゃんは自由だ。けれど何も考えていないのかと問われればそれは違う。
人の些細な変化にも気が付きやすい優しいお姉ちゃんだ。たまのだる絡みが少しうざったいけれどそんな所も含めてお姉ちゃんのことは好きだ。
真夜中の散歩はそんなお姉ちゃんが私の息抜きとして提案してくれたものだった。
私の真夜中の散歩を唯一知っている人。いや、今はもう二人に増えてしまったのだけれど。
「あんまりそうやって冷たく接するならお母さんに言っちゃうよーだ」
「はいはい」
最初の頃は焦っていた脅しもお姉ちゃんにその気がないのだと知ると返事も適当になった。
「で、何。いつもは寝不足にならないようには帰ってきてるのに今日は何かあった訳?」
心配してくれているらしい。
相変わらず直球には聞いてこない所もお姉ちゃんらしくて微笑ましく思う。
「ちょっとね、いや悪い話じゃないんだけど」
そう西条くんとの出会いを話すとお姉ちゃんは目を丸くする。
「へえ、葉月がそんな早く心を許すなんて珍しいじゃん」
「うん、自分でもびっくりしてる」
音楽なんて分からない。けれどあの音を奏でる人なら、あんなに楽しそうに演奏する人なら悪い人じゃない気がした。
「年齢は?」
「同じ高一だって」
あの後、少し話すと西条くんは私のことを初めお姉さんと呼んでいたけれど実際には同い年だった。大学生くらいかと思っていたと西条くんは驚いていた。
「へえ、じゃあ久しぶりの同級生の友達だ」
「友達、ではないような気がするけど」
だからと言って私たちの関係にぴったりの名前は分からない。知り合い、くらいの関係だろうか。
「友達なんて友達だって自分が思えば友達なんだから葉月が仲良くなりたいと思った時点で友達なの」
その言葉に私は首を傾げる。
そもそも私は西条くんのことをまだあまり知らない。
ただ、西条くんの奏でる音楽が心地よくて、西条くんがお姉ちゃんのように自由に生きていて羨ましかっただけ。
それだけの感情で友達と言い切るのは西条くんにも失礼な気がした。
「それで何、じゃあその西条くんとたくさん話してたってこと?」
「ううん、違う」
西条くんと話した時間は大した時間ではない。むしろいつもより早く帰ってきたくらいだ。
「ただ、何か眠れなくて」
それほど私にとっては西条くんの存在が衝撃的だった。
今まで私にこれほどまで食い下がってきた人がいなかった。だから私も他人をしっかりと見つめたことがなかった。
放課後、寄り道をしているクラスメイトも行事に熱中しているクラスメイトも全部見て見ぬふりをしていた。
それなのに今日、見てしまった。
「ねえ、お姉ちゃんは何でそんなにいつも自信満々なの?」
お姉ちゃんが中学に入り素行不良になった時、周りの大人がそれではろくな大人にならないと諭していた時も実際に成績が下がっていった時もお姉ちゃんは自信満々だった。
「私は私の味方だから、かな」
そう語るお姉ちゃんの目はどこか遠くを見つめていた。