「以上で試験は終わりです」
 模試、当日。試験官の言葉と共に教室からどっとため息と歓声の声が上がる。
 それと同時に私は教室を飛び出した。
 ここ二週間で調べた結果、もちろん試験時間を短くする方法なんてなく、そうとなれば後は終わった後に私が全力疾走するしかない。
 後十五分。ここから走り続ければ十五分弱で着くはずだ。もしかしたら少しだけ西条くんの歌っている姿が見れるかもしれない。
 間に合え、間に合え。
 いつも勉強ばかりだった。勉強が好きなわけじゃない。親に言われたから先生に言われたから、そんな受け身だけで勉強を頑張ってきた。
 周りの子たちだって私に話しかけてくればみんな勉強のことしか言わない。
 この間のテスト凄いねとかどうやって勉強してるの? とか。
 勉強している私にしか生きている価値がないのだと思っていた。
 そうか、私は。
 ──怖かったんだ。
 勉強以外のこともしてみたいだとかお姉ちゃんみたいに自由に生きてみたいだとかそんなことを考えて、でもそれで試験の成績が下がったら、勉強しか取り柄のない私から勉強がなくなったらそう考えたらその考えを実行することなんてできなかった。
 けれど、西条くんは私が勉強が出来ることを知らなくても受け入れてくれた。私を知らない世界に連れて行ってくれた。
 だから私は、西条くんがやりたいことは応援したい。
 初めて、人前で歌う姿をどうしてもこの目で、この耳で、見たい、聞きたい。
 普段、運動不足な体は中々言うことを聞かない。足は重いし、息は苦しい。
 けれどそれはいつもの重さとも苦しさとも違った。
 重いはずなのに、苦しいはずなのに、何だか嫌じゃなかった。