気を抜くとすぐに物体を透過してしまう小夜は、ブランコに乗るのが疲れたのか、今度は隣に座っている僕の背中を押し始めた。

前後に揺れる僕の背中を押す方が、ものに触れている時間が少ないから楽なんだろう。

「ねえ、瞬君のお母さんってどんな人?」

「さっきからやたら僕のことを知りたがるけど、どうして?」

「良いじゃん。ねえ、怖い人?」

「前は厳しかったけど、今は丸くなったかな。きちんと学校に行ってさえすれば自由にさせてくれるし」

小夜は小さく「ふうん」と言った。決して疑っているわけではなさそうだが、意外だとは思っていそう。

「最近って、いつ?」

「今年になって僕が高校に進学した頃くらいかな。実は僕の母さんは最近再婚したんだけど、そこから少し雰囲気が変わったかも」

僕は中学を卒業するまで母さんと二人で暮らしていた。でも今は、母さんの再婚相手の家で三人で暮らしている。

「ごめん。答え辛いことを聞いちゃったよね」

僕が少し(ども)ったのを聞き逃さなかった。どうやら彼女も人の心の反応に敏感なタイプなのだろう。

「別に良いよ。隠していることじゃないし」

そして僕の方も、目の前の人の感情に敏感だ。特に怒っていたり落ち込まれているのを近くで見るのが苦手だ。

もう少し家のことを詳しく話そうかと思ったけど、よく考えると彼女にこんな話をしても困らせてしまうだけだと思ってやめた。大人の事情が絡んだ話なんて、面白くも何ともない。

「訊きたいことを訊けば良いよ。話せる範囲だったら答えるし、駄目ならちゃんと断るから」

そう言って、僕は止まってしまったブランコを自分の足で漕いだ。

「ありがとう。じゃあ、瞬君にとっての自由ってなに?」

「難しい質問だな。変に強要されないことかな。勉強をしろだの、良い大学に行けだの、口うるさく言わないこと?あと、こんな時間に家を出ても叱られないこと、かな」

「ふふっ……!さすがに家出は気付いてないだけなんじゃない?」

「絶対気付いてるよ。大人はふりをするのが上手いんだ」

「それじゃあ、お父さんはどんな人?」

「うーん……良い人だとは思う」

「思う?」

「母さんの再婚相手のことは、まだよくわからないんだ」