「私、小夜(さよ)って言うの。君は?」

今一瞬(いまいつ しゅん)

「瞬君ね、よろしく。さっきも言ったけど、夜の間だけで良いから私に付き合ってよ」

取り憑かれてしまったのだろうか。そう思った。

「こんな時間に何をするつもりなの?」

「別に無理なお願いはしないよ。一緒におしゃべりしたいだけ」

「それくらいなら構わないけど、生憎(あいにく)僕は話すのが得意じゃないから楽しめないと思うよ」

予防線を張ったのは、今まで見ず知らずの人とは積極的に話したことなんてなかったからだ。

「大丈夫。瞬君は私の質問に答えてくれるだけで良いよ。私、聞きたいことがたくさんあるの」

「まあ、答えられる範囲だったら良いけど」

「やった!私のこと、小夜(さよ)って呼んでくれて良いから!」

おそらく彼女は自分で聞いておきながら、勝手に自己解釈をして納得していくタイプの人間なのだろう。それなら逆に助かる。

小夜は心配性な僕を引っ張るように意気揚々と線路沿いを歩いていく。

予想通り小夜は好奇心旺盛、いや、予想以上に溢れる好奇心を抑えられないようだった。

同年代くらいに見える小夜は、まるで言葉を覚えたばかりの幼い少女のように、注意力がとっ散らかっている。

突然立ち止まって道端に伸びている草をじいっと見つめては、それが何の植物なのかを僕に()く。

わからないことはスマホで調べて説明してあげると、小夜は喜んでそれを聞き入り、今度は僕が普段家で何をしているのかという話に飛んだ。脊髄反射で話しているのだろうか。

「何?さっきからじろじろ見て」

「別に。元気だなと思って」

「瞬君が答えてくれるから楽しくなっちゃって。あ、ほら、空にあるあの明るいものは何?」

いつの間にか彼女が幽霊だという恐怖はどこかに行ってしまった。

でも、よく考えてみると、普段他人と話さない僕が真夜中に同年代の女の子と話しているこの状況の方が、幽霊よりもよっぽど特殊すぎる。