予想外の答えに頭が追いつかない。

一つだけ確信したのは、これが単純なさよならなんかじゃないってこと。

「本当ならとっくに産まれているはずなんだけど、私、外の世界が怖くてお母さんのお腹の中に居座っちゃってたの。

それで、外の世界がどんなのものなかを確かめてみようって思って、夜の間だけ意識を外に飛ばして、しばらく一人で彷徨ってた。

そしたら、お兄ちゃんが散歩をしていたから、思い切って声をかけてみたんだ」


確か初めて出会った時に幽霊なのかと尋ねると、頑なに否定をしていた。

これから産まれてくる妹であるならば、相当失礼なことを言ってしまっていたのかもしれない。

「それで、小夜は僕に色々訊いていたんだ」

「うん。お兄ちゃんが外の世界のことを沢山教えてくれたおかげで、段々と勇気が出てきた。私も学校に行きたいし、大切な人に出会ってみたい。それに、さっきお兄ちゃんが産まれてきても良いって言ってくれたのが本当に嬉しくて、決心が付いたの」

確か本で読んだことがある。この世に命が生まれる瞬間は、母親はもちろん、産まれてくる子供も産道を通る時に同じくらい大変な思いをするらしい。

僕らは壮絶な苦しみを経てこの世界に辿り着いたはずなのに、いつの間にかそんなことは忘れて過ごしている。

小夜は空を見上げてから、気合を入れたように「よしっ」と言った。

「そろそろお母さんを楽にさせてあげないと」

「母さんも一平さんも、みんな小夜を待ってる。それに、何かあったら僕が護ってやるから、安心してこっちの世界においで」

「まだちょっと怖いけど」

僕は触れられない小夜の髪を撫でる。

「大丈夫だよ、きっと」

「ありがとう。お兄ちゃん、大好き」

小夜は初めて出会った時よりもずっと柔らかい笑みを作りながら、この世界に溶けるように消えていった。