「この扉、内側から鍵が開けられるよ!」

中に入ることができれば、警備員さんから見つかる可能性も少なくなるから丁度良い。

けれどいくら待っても鍵が開く気配がしない。

「小夜?」

もう一度声をかけようとしたところで、ようやく返事が返ってきた。

「瞬君、どうしよう。私、鍵に触れられない」

「え?」

「おかしいな……どう頑張ってもすり抜けちゃうんだ。ほら」

そう言うと、ドアノブから小夜の手が出てきた。

僕はすり抜けてきた小夜の手にそっと触れてみる。温もりだけは確かに感じることができるけれど、小夜の指先に触れている感触は何一つない。

「瞬君、今、私の手を触ってる?」

扉から小夜の顔が透け出てくる。

「触っているのはわかるんだ」

「うん。でも、どう頑張っても物に触れられない。おかしいな、さっきまで出来てたのに」

「まさか消えてしまう前兆とかじゃないよね。神様が良い加減にもとの世界に帰れって言っているとか」

「それはないと思う。そもそも私の意思でこっちの世界にいるから、勝手に消えてしまうなんてことはありえないと思う。それに、私は神様とか信じてない」

小夜があっけらかんと言い切ってくれたおかげで、急に押し寄せた不安はすぐにどこかに消えてしまった。というか、神様がいないなんて小夜が言うと、変な説得力がある。

「開けられないんじゃしょうがない。またここで待ってるから、中を探索してきなよ。今度は何かあったらちゃんと呼ぶから。一緒に逃げよう」

「わかった。じゃあ、行ってくるね」

そう言って小夜は扉の向こうに姿を消した。この空間には僕だけが一人取り残されたような気がした。

「……小夜」

「どうしたの?」

良かった。ちゃんとそこにいる。

「一つだけ頼みがあるんだ」

「どうしたの?」

言い(よど)んでいたことを小夜に伝える。

「手紙がまだ残っているか確認してきて欲しいんだ」

本当は残っていたら捨てておいてもほしかったけど、物体に触ることが出来ない今の小夜にそこまでお願いすることはできない。

「おっけー。たしか、カウンターから一番遠い窓側の席だったよね」

「よく覚えてるね」

「実は私も気になっていたから。ちょっと待ってて!」

もしかして、小夜もはなから探す気満々でここに来たんじゃないだろうか。

再び姿と気配を消した小夜は、以外にもすぐに息を切らして戻ってきた。そしてまるで洞窟の奥に奥に潜む猛獣を見つけてしまったかのように、興奮気味で僕に報告をした。