夕方から降り続いていた小雨はもうすっかり止んでいた。アスファルトにはところどころ水溜まりが広がっている。

しんと静まり返ったいつもの街は、まるでこの世界から人がいなくなったようでほっとする。

近くの大通りは日中いつも車が殺気立って走りまわっているくせに、この時間になると一台たりとも走っていない。今なら道の真ん中を横切れるし、車道の真ん中を堂々と歩くことだってできる。

ただ、油断をしていると深夜パトロールをしているパトカーが暗闇を真っ赤に染めながらやって来るから、羽目を外しすぎないように気をつけなければいけない。

僕はあえて大通りの反対側にある住宅街の方へと向かう。

僕の家は閑静な住宅街の一角にあるけれど、『ひったくり注意』の看板があるから決して治安が良いとは言えない。こうして夜に歩くのはどうかと思うけれど、この緊張感もまた夜の散歩の醍醐味(だいごみ)でもある。

スマホの深夜ラジオの配信アプリを立ち上げ、この時間に配信している定番の深夜ラジオのチャンネルに合わせる。深夜ラジオは担任の先生が勧めてくれたものだ。

(もっぱ)らVtuberの動画配信しか見なかった僕にとっては、正直ラジオなんて古典的な配信コンテンツだと甘く見積もっていた。

けれど深夜のこの時間に配信されるラジオ番組は時々オブラートに包まない単語が出てくるから面白い。それに水曜は僕の好きなアーティストのボーカルがMCを担当している。

クラスの友達にこの話をすると、ラジオなんてそれだけ時代遅れなんだよと突っ込まれたから、もう僕だけで楽しむことに決めている。

誰にも理解されなくても良い。自分だけの特別な時間。

なんて思っていたのに、突然一人の少女が割り込んできた。