見覚えのある三階建ての校舎が夜空のシルエットとなって現れる。薄暗く照らされている校舎は、まるで不気味に佇む要塞(ようさい)のようだ。

つい半年前まで通っていたのに、もうずっと何年も昔のように思えてくる。

「着いたよ」

「大きな家みたいだね。ねえ、中に入れないかな」

「小夜なら壁をすり抜けられるから大丈夫じゃない?僕はここにいるから、見てきなよ」

「瞬君も一緒に入ろうよ」

「どうやって?」

「私が内側から鍵を開けるよ」

小夜はにやりと笑った。

「それ、もう完全に犯罪じゃないか」

「ええー。折角(せっかく)ここまで来たのに」

「じゃあ、中に入ったら小夜がしっかり見張っていてくれないか。警備の人がやって来るかもしれないし」

「わかった」

さすがに正門の扉には南京錠が掛けられていたから突破するのは難しそうだ。それに、大通りに面している正門側からだと、いくら真夜中とは言えかなり目立ってしまう。

「裏の方からなら行けるかも。付いてきて」

正門の反対側にはガラの悪い連中たちが授業中に出入りするのに使っていた低いフェンスがあるはず。僕も何度か使っていた。

小夜は最も簡単にフェンスをすり抜け、僕はフェンスの壁をよじ登って学校の敷地内に侵入する。

フェンスを上り切ったところで一瞬足を滑らせて落ちそうになったけれど、小夜が突際に手を伸ばしてくれたから助かった。

こんなところで怪我をしたら洒落(しゃれ)にならない。気を引き締めないと。

昇降口のガラス扉の前まで来たところで、小夜の力を借りることにする。一線を踏み越えてしまったからか、一度敷地内に入ってしまえば、さっきまで抑制していた罪悪感は驚くほど簡単に消え去ってしまった。

「何をしているの?」

「監視カメラやセンサーが付けられていないか確認してるんだ。よし、大丈夫。小夜、中に入って鍵を開けてくれないか」

「おっけー」

半透明になった小夜は、いとも簡単にガラス扉の向こう側にすり抜けた。

初めは鍵の開け方に苦労していたけれど、必死にいじっている彼女をしばらく見守っていると、やがてロックの機構に気が付いたのか、無事に一人で解除をすることができた。