「いじめられていたんだ」

「”いじめ”って何?」

「仲間はずれにされたり、嫌がるようなことをされたり、悪口を言われたりすることかな。相手が嫌がることをわかっていてやることを”いじめ”って言うのかもしれない」

「どうしてそんな悲しいことをするの?」

「難しい質問だなあ」

しばらく考え込んでいたら、小夜も質問をせずにずっと待ってくれていた。

小夜の純粋さを汚したくなくて、言葉を発する前に精一杯オブラートに包む。

「みんながみんなじゃないけど、僕らは心のどこかで相手よりも優れていたいとか、仲間と一緒じゃないといけないとか、そういう気持ちを持っている。だけど、そういうのが悪さをするんだと思う」

「みんなと一緒じゃないといけないの?」

「そんなことはない。ただ、それを良く思わない人だっているんだ。例えば小夜は物体を通り抜ける能力を持っているけど、それが羨ましいって思う人もいる」

「私のことが羨ましいの?」

「例えばの話だよ。で、この羨ましい気持ちが大きくなると、次第に自分が劣っているように思えてきて、小夜のことが気に入らなくなってくる。そうすると、小夜に対して当たりがきつくなって。これがエスカレートしたらどうなるか、おおよそ予想が付くよね」

「そんな、私は何も悪いことをしていないのに……」

「ただ自分よりも劣っていると思ったり、気に入らないからっていう理由でいじめてくる人だっている。いじめの原因は一言では言い切れないし、気が付いたら被害者や加害者になっていたなんてこともあるから難しいんだ」

「そんなことが起こるなんて、学校って随分(ずいぶん)怖いところなんだね」

……やってしまった。

そんなつもりはなかったのに、予想以上に彼女を怖がらせてしまった。人に話す時はなるべく明るい話題を心掛けないといけなかったはずなのに。