すっかり身体の形に凹んでしまったデスクチェアは、ほとんど弾力が残っておらず、定期的に何度も姿勢を変えなければすぐに背中が痛くなる。

デスクチェアに座ったままくるりと回転し、背後の壁にかけられた時計に視線をやると、時計は午前零時を過ぎていた。

息抜きの時間だ。

参考書を閉じて伸びをし、極力足音を立てないように部屋を出て階段を降りる。気配を殺したまま母さんの眠る寝室の前を通り過ぎる。

別に両親は特段口うるさいわけではないし、監視されているわけじゃないけれど、一応は高校に入学したばかりの僕がこんな時間に外に出ること自体が”いけないこと”である自覚を持ってはいる。

玄関の扉を開けた瞬間に感じる心地良い静寂(せいじゃく)は、しばらく椅子でじっとしていた身体を労うのに丁度良かった。

僕は少しの罪悪感を抱きながら玄関の扉をそっと閉じ、いつものように夜の散歩を決行する。